耐震補強 2021年度までに501橋を対策
段差逸脱防止工は176橋で予定
――橋梁耐震補強の進捗状況(耐震性能3→2)は
源島 2018年度までの耐震補強完了率は89%(4656橋中4151橋完了)です。さらに、高速道路などの緊急輸送道路は、被災後、速やかに緊急輸送が可能となることで、被災地域における救援や復旧に大きく寄与できることから、地震による損傷が限定的なものにとどまり、橋としての機能の回復が速やかに行いうる性能(耐震性能2)を確保すべく耐震補強を進めています。
耐震補強の対策重点地域
2021年度までに対策重点地域(今後30年間に深度6弱以上の揺れに見舞われる確率が26%以上の地域)の501橋の対策について設計を完了した橋梁から順次、工事発注を実施しています。施工会社の受注計画を策定してもらうため、ホームページ上に対象橋梁の耐震補強計画も公表します。
――熊本地震で損傷した並柳橋のような架違い部での損傷を防ぐための対策は
源島 さらに地震時に上部工が支承を逸脱することで路面に大きな段差が生じると速やかな交通確保が困難になります。そのため上下線いずれかを優先して、支承の補強や交換を行う対策を176橋で予定しています。これも2021年度までに対策を完了させます。
――逸脱防止とは具体的にどのような対策を行うのですか、標準工法は規定していますか
源島 各橋梁で条件が違いますから、対策方法も個別に考えていく必要があります。
――西日本高速道路では人力で設置できるFRP製の簡易段差防止装置を開発中です。FRP製型枠の中に充填物(珪砂)を充填して人力で設置するものですが、こうした工法を応急的にでも採用する考えはありますか
源島 その情報は存じています。選択肢の1つとして考えています。、段差を生じさせて橋の供用を妨げることを防げる簡易的な手法であり、恒久的な対策までのつなぎとして考えてもよいのではないかと議論しています。
――とりわけ長大・特殊橋耐震補強は
源島 平成6年道示以前のトラス橋。アーチ橋、ランガー橋、斜張橋、エクストラドーズド橋、ローゼ橋は全部で102橋あります。
アーチ、ローゼ橋では落合川橋、鋼斜張橋では名港西大橋などで耐震補強を完了しています。
耐震補強実施例
中央道小原第二橋/東名道酒匂川橋
現在は皆瀬川橋(5径間連続アーチ橋、332m)など数橋の特殊橋について耐震補強を発注しています。
皆瀬川橋の橋梁耐震補強概要図(IHIインフラシステムが受注した)
皆瀬川橋遠景
100km/hで走行しながらトンネル内点検できる技術も開発
ドローンによる点検技術や斜張橋点検技術も開発
――活用している点検・補修における新技術は
源島 まずは、フェイズドアレイ超音波探傷技術を開発しました。これは、名港西大橋で初めて使いました。名古屋大学、三菱日立パワーシステムズ検査㈱と共同開発した技術です。対象は鋼床版に発生する疲労亀裂の点検です。
同技術は複数の振動子を移動させて任意方向に超音波を送受信し、3次元の探傷を行う技術です。鋼床版のUリブとデッキプレートとの接合部から発生する2種類の疲労亀裂を同時に精度良く検出できます。デッキ進展型亀裂は、深さ2.2mm程度から検出可能(計測誤差±1.5mm程度)でビード進展型亀裂は深さ2.8mm程度から検出可能(計測誤差2mm以内)です。。
次に高速画像処理を用いたトンネル内点検技術があります。東京大学大学院の石川正俊教授が研究開発している「高速画像処理技術と高速小型回転ミラー」を用いた技術で、100km/h走行でひび割れ0.2mmまで検知可能です。ジェットファンなど取り付け金具の変状も検知することができます。撮影した映像は自動で車内のパソコンに取り込まれて画像処理により人が介入することなく変位や変状の検出を行うことができます。開発したシステムは、車両の載せ替えが可能で一般的な走行型計測システムのような計測専用車両を必要としません。交通規制の必要もなくコストを安く抑えることができ、通常の走行で点検が可能です。
また、ドローン(SCIMUS)を活用した構造物点検も進めています。主な点検部位は床版も含む橋梁上部工、支承、橋梁下部工です。SCIMUSでは従来のドローンでは難しかった上部工狭小部の点検困難箇所や死角部位、地上高が高く点検車両のアクセスの難しい橋脚や海上、河川上の橋脚、同様の床版も点検することができます。
斜張橋などの斜材点検においては専用の自走式点検装置を実用化しています。外観変状をビデオカメラにより撮影するものでリアルタイムにモニタリングすることが可能です。過流探傷の検査センサを装備しているため、内部鋼材の状態も確認できます。
富士管内でICTを活用し、舗装修繕
新しい凍結防止剤開発 塩化ナトリウムと9:1で使っても蒸留水並
――ICTを活用した事例は
源島 国土交通省が進めるi-Construction施策を踏まえたICT土工導入の一環で、舗装補修工事のなかで、出来形管理にICTを活用しています。補修工事で使うのは初めての試みです。現場は富士保全・サービスセンター管内で、大成ロテックの技術提案を採用しました。
試行内容はトータルステーションおよびレーザースキャナーによる事前測量、その測量データを活用した舗装切削および舗装施工の3次元設計データの作成、設計データを活用した舗装切削機とアスファルトフィニッシャなどの建設機械の自動制御、トータルステーションおよびレーザースキャナーを用いた施工後の出来型管理です。
i-Conは保全の立場からいえば、作るときに使って終わりではもったいない。これからは人手不足の深刻化が予想されます。保全の現場でもi-Conでできるものは実施していく方向に、と考えています。
――Bluetoothを用いた所要時間提供システムの開発は
源島 大規模更新・大規模修繕などに伴う規制の際でも、出来るだけお客さまの負担を軽減させようと導入している技術です。高速道路の所要時間情報は、車両感知器により計測して提供していますが、その設置間隔は、ある一定以上の長さであるため、携帯端末やカーナビから発せられているBluetoothの普及に着目して安価に計測する手法を開発したものです。これにより、リアルタイムに所要時間を算定し、提供するとともに、走行車両に搭載された電子端末(カーナビゲーションやスマートフォンなど)でもBluetoothを用いて受信できるようにしています。得た情報はホームページなどでも所要時間を提供しています。
――プロピオン酸ナトリウム(プロナト)を活用した新たな凍結防止剤の開発について
源島 2015年度から現在の塩化ナトリウム(塩ナト)を用いた凍結防止剤の代替材料として研究を進めています。金属腐食性は従来の塩化ナトリウムに比べて著しく低く、凝固点も変わらないため凍結防止性能も従来とほぼ同等である結果が室内試験では出ています。以前に東海北陸道で試行導入しました。ただ、コストが高く、生産量も現状では少ないことから、検討した結果、塩ナトと混合して使用することを前提として考えていこうという事になりました。プロナト単体での調達コストは塩ナトの約10倍に達しますが、混合割合を塩9:プ1にすれば約2倍程度に抑制できます。
プロビオン酸ナトリウムを活用した新たな凍結防止剤の開発
――その場合、目的である凍結防止効果を維持しつつ、腐食環境を減らすという導入目的は維持できるのですか
源島 試験の結果、9:1でも蒸留水とほぼ同等の効果が得られ、凍結防止性能は維持しつつ、腐食を大きく抑制できる効果が確認できました。
プロビオン酸ナトリウムを活用した新たな凍結防止剤の開発②
――実用化のめどは
源島 コスト、生産の両面でまだクリアすべき課題が残っており、もう少し時間が必要です。
――コストはイニシャルで比較していますか、ライフサイクルコストで考慮していますか
源島 雪氷対策で用いるため、まずはイニシャルコスト比較を行っています。
緊急遠隔しらすんだーを実用化
女性に優しい「サクラ」の導入
――路上作業の安全性確保のための技術としては
源島 『緊急遠隔しらすんだー』を実用化しています。コーンが車にはねられたら、保安員と作業員に直ぐに自動的に無線で知らせられる技術です。規制内に一般車両が進入した場合瞬時に検知し、広範囲に危険を知らせる「緊急通報システム」の機能と、安全旗を持った保安員が、安全旗内に内蔵された送信機により、直接作業員に緊急事態を知らせる「しらすんだー」の機能を組み合わせたものです。
――女性技術者のための優しい現場カーも開発したそうですね
源島 はい。『サクラ』という多機能車両です。当社でも女性技術者・技能者の増加を目指していますが、それには現場環境の改善が欠かせません。そのためトイレ機能の確保を中心に休憩スペースやパウダースペースという3つの機能を兼ね備えた車両を開発しています。