高い感度を保って事業部のニーズに的確に応えることが使命
NEXCO西日本 里深技術本部長インタビュー
西日本高速道路株式会社
執行役員技術本部長 兼 海外事業部長 兼 安全管理部長
里深 一浩 氏
点検技術の熟度向上が何よりも必要
床版取替の複数断面分割施工はむしろ先取り
――保全技術が建設分野ほど成熟していないということはその通りだと思います。NEXCO西日本は、先ごろ保全分野で異彩を放つ「フジエンジニアリング」を買収しました(NEXCO西日本イノベーションズに改称)が、どのような意図がありますか。同社は日本でも最先端級の土木構造物における画像処理診断技術を有していますが
里深 今は何より点検技術の熟度を上げていかなくてはいけないと思います。オートシーマやJシステムなども実装していますが、完全に仕上がったという状況ではありません。実際に使っている人の声を拾って改善していくということも当然必要ですし、さらなる利便性を高めるために技術自体の質を高めていくということも大事です。それらについてはまだこれからであると思っています。現場で使いつつより機能を高めることが大事です。
――設計要領第二集や構造物施工管理要領の改定に基づいてNEXCO西日本として対応していることや改訂を先取りした技術があれば、また重交通路線における大規模更新・大規模修繕に対応した工法の開発について
里深 トピックスとしては保全編の改定です。プレキャストPC床版やプレキャスト壁高欄の試験方法が確立されましたが、非鉄製の壁高欄について改訂を先取りし、同じ実験を行いました。開発した非鉄製の床版や壁高欄は、PC鋼材や鉄筋の代わりに床版はアラミド製、壁高欄はガラス繊維製のFRPロッドを使っています。
プレキャストPC床版の分割施工に関しては、以前は半断面とされていましたが改訂された要領では幅員方向分割方式と表現が変わっています。半断面施工は当社が道谷第二橋で実施したのが初めてであり、当社がむしろ技術を先取りし、総研がNEXCO3社要領に当てはめたと考えています。当社でもこうした分割施工方式を今後本格的に採用していきたいと考えています。
道谷第二橋では対面交通規制しながらの作業でしたが、現在は本格的な車線交通規制下で幅員方向分割方式による床版取替を考えております。具体的には津山管内の大谷橋他2橋床版取替工事の中の大谷橋上り線床版取替で来年上半期に実施する予定です。
中国道の大規模更新では桁ごと取替も
床版防水の施工には苦慮、高性能グースも検討
――以前、酒井社長にお伺いした際には、中国道吹田付近で、工期短縮のために床版ではなく、桁そのものの取替を実施する可能性も示唆されましたが
里深 それにつきましては詳細設計中です。同所は合成桁で縦桁などが配置されていることから、床版を切断撤去して取り替えるのではなく、桁を床版ごと撤去して新しい床版打設済みの桁に置き換えることに蓋然性があります。
――床版防水は、交通量と必要性が背反しているように思えます。交通量や凍結防止剤の散布量が少ない個所でグレードⅡが施工され、交通量が多く、大型車混入率が高い個所でグレードⅠが施工されている現実がありますが。迅速な床版防水の施工技術の面では何か開発している工法はありませんか
里深 床版防水工についてはNEXCO3社と総研、防水メーカーが知恵を絞って試験方法や要求性能を作っているのですが、交通過密地域におけるグレードⅡsに合格する防水工はいまだ出ていないのが実情です。それに代わり、メーカーが開放できる施工・養生時間を聞き、その条件に緩和するようなことも考えています。後は総研の舗装研究室が研究している高性能グースアスファルト防水も検討材料に入れています。
グースアスファルト防水
阪和道などでRC中空床版の桁取替工事が実施中
車線運用しながらの更新できる工法を検討していきたい
――大規模更新における桁取替技術は
里深 阪和道などで、RC中空床版桁の取替工事が既に設計中ですが、具体的な方法については詳細設計中です。
――沖縄道の過去の取替事例や、最近の福崎新高架橋の桁取替および立川橋の復旧工事ではSCBR工法が採用されていました。阪和道松島高架橋付近もオリエンタル白石が受注していますが
里深 当該区間に関してはSCBR工法による施工が考えられるでしょうね。
松島高架橋の損傷状況
先ほどの半断面工法と一緒で重交通区間を抱えている条件下では車線運用しながらの施工というのが必須になります。それも含めて詳細設計し、桁取替する技術を検討していきたいと考えています。
SCBR工法を使って架け直した立川橋
SCBR工法を使って架設した高松自動車道宮池橋