中日本高速道路金沢支社が管理する高速道路、とりわけ北陸自動車道は、北陸ならではの厳しい環境にさらされている。海岸縁を走る区間は冬季を中心に厳しい飛来塩分にさらされ、その他の路線は凍結防止剤に含まれる塩分に起因した塩害の影響を受ける。また、富山管内においては骨材起因によるASRが発生し、今なお劣化が進む橋梁も有している。そうした話題を中心に、大規模更新・大規模修繕、耐震補強なども含め伊藤公一保全・サービス事業部長に聞いた。(井手迫瑞樹)
橋梁1,018橋、61トンネルを管理
RC橋が38%と最多を占める。延長比は鋼橋が4割超える
――管内の道路管理延長と橋梁とトンネルの内訳は
伊藤部長 中日本高速道路金沢支社は、北陸自動車道の木之本IC~朝日IC間258.7kmと、舞鶴若狭自動車道の小浜IC~敦賀JCT間39.0km、東海北陸自動車道の白川郷IC~小矢部砺波JCT間42.6kmの計340.3kmを管理しています。
3路線あわせた構造物の管理延長は91.8㌔(管理延長の27%)あります。構造物の内訳は橋梁が1,018橋、トンネルが61チューブ、シェッドや大型カルバートが174基。標識関係が40基となっています。
路線別構造物数(中日本高速道路金沢支社提供、以下注釈なきは同)
――橋種別割合は
伊藤 鋼橋27%、RC橋38%、PC橋33%、PRC橋1%です。管内は建設年度が古いので、RC橋が若干多くなっています。鋼橋は他と比べて少なくなっています。大きな橋もとくにありません。
管内の橋種別割合
――RC橋が38%もあるのは多いですね
伊藤 北陸自動車道の建設時は、まだPRC橋という発想がなかったのでしょう。
路線別の橋種別割合
――短い橋が多いということですか
伊藤 多いですね。時代的にRC橋が主でしたから。
九頭竜川や庄川など大河川で30mくらいの橋が連続しているところはありますが、昭和40年代の建設なのでPCでスパンをとばしてとか、谷あいを大きなスパンでとばすとかいう状況ではないので、RC橋が4割近くを占めています。
――延長比でいうと鋼橋が多くなりますか
伊藤 42%が鋼橋です。ついでRCが33%を占めています。
31年以上は全て北陸道
交通量最も多い区間は金沢~森本間33,000台
――経過年数別では
伊藤 31年以上は全て北陸道です。10年未満が舞鶴若狭道で、20年未満が東海北陸道となります。東海北陸道は今年全通10周年を迎えました。21~30年も東海北陸道です。連数比較で31年以上が86%。橋長比較でも、31年以上が一番多く82%になっています。
管内橋梁およびトンネルの経年別割合
――構造物の管理状況。北陸道中心に塩害、ASRが発生していると思います。飛来塩分や凍結防止剤による塩害の発生や、海砂や骨材によるASRもあります。北陸道もNEXCO東日本の管内も含めて、非常に厳しい環境にあると思います。その状況をふまえて、橋梁とトンネルの劣化状況を教えてください
伊藤 北陸道は交通量が30,000台弱/日なので疲労破壊はあまりありません。一番多い金沢IC~森本IC間で、約33,000台/日、その西側の白山IC~小松IC間で約32,000台/日です。
――大型車混入率は
伊藤 25~26%です。
梯川橋で鋼部材の疲労亀裂を確認
点検結果 健全度Ⅱが70%、Ⅲが19%
――疲労損傷は発生していないのですか
伊藤 金沢保全・サービス管内の小松IC~安宅PA間にある梯川(かけはしがわ)橋(鋼橋)で疲労による亀裂損傷が確認されました。これから対策を検討します。
梯川橋で発見された鋼橋の疲労亀裂
――詳細な損傷理由は
伊藤 大型車交通量増加の影響と飛来塩分による塩害です。
――橋種別、部位別の損傷傾向は
伊藤 飛来塩分と凍結防止剤の使用量が多いことによる塩害があります。健全度は平成平成28年度末の調査結果(629橋で実施)で健全度Ⅱが70%、Ⅲが19%となっています。橋梁におけるA判定以上の部位別状況は別円グラフの通りで、約半数を上部工が占めます。
橋梁の変状部位別割合
特に北陸道の片山津IC~金沢西IC間は海岸線から程近いため、飛来塩分による塩害が発生しています。塩害は桁だけでなく、下部工でも生じています。損傷が顕著な部位としてはやはり漏水を主因とした桁端が挙げられます。
飛来塩分の影響を受ける地域
コンクリートの浮き・剥離による損傷状況例
また積雪寒冷地では凍結防止剤の影響による劣化も顕著です。そのため凍結防止剤の影響を定量的に把握するための塩分量調査を実施しています。変状グレードが高い橋梁については、優先的に床版取替を行っていく方針です。
ASRについては、北陸道の富山保全サービスセンター管内で健全度Ⅲ以上の橋梁を21橋確認しています。損傷対策として、過去にひび割れ注入を行っていますが、再劣化で表面の膨張が収束していないところもあります。表面膨張の収束傾向を把握するため、表面膨張量測定、鉄筋ひずみ測定などによる追跡調査を継続している状況です。膨張収束に向けて監視を行いながら対策方法を検討しています。
ASRに影響が懸念されるエリア
ASRにより損傷した床版
――ASRは富山保全・サービス管内以外では出ていませんか
伊藤 ありません。
――凍結防止剤による影響は
伊藤 支社管内で全般的に出ています。鋼橋では塗替えに至ったり、コンクリート橋では断面修復が必要なこともあります。
――富山はASRの骨材があるところに凍結防止剤で塩分が供給されているので大変ですね。反応を促進している形になっていますから
伊藤 その意味で損傷が進んでいる橋梁について、特定更新に相当力を入れなければなりません。
――ASRや塩害は下部工から手を入れなくてはいけないケースもあるのではないですか
伊藤 まだそこまでは考えていません。
――ASRリチウム工法を使用して化学反応で膨張抑制をして補修するケース、上からの水は桁の連続化で補修するケースも出てきています。富山保全・サービス管内ではそのような補修の仕方は考えていないのですか
伊藤 現在は行っていません。
――同様に塩害などによる地覆、高欄の損傷は
伊藤 最近は対策をあまり行っていません。過去には表面被覆を行っています。
――高欄の縁石は除去しているのですか
伊藤 東海北陸道では縁石が損傷しているところがあります。床版取替と一緒に壁高欄も取替ますので縁石を除去し、床版防水をきっちり行っていきます。
――凍結防止使用量はどのくらいでしょうか。名古屋支社管内では、彦根付近で年100t/kmを散布しています
伊藤 2017年度実績で申しますと、管内平均で年64t/kmを散布しています。