トラス橋などの特殊・長大橋を多く抱える
NEXCO中日本八王子支社 中央道中心に長大構造物を補修補強
中日本高速道路
八王子支社
前 保全・サービス事業部長
(現 中日本ハイウェイ・メンテナンス中央㈱取締役経営企画部長)
井口 忠司 氏
ロッキング橋梁の橋台はグラウンドアンカーを使って補強
中抜き式橋台 厚さ700mmの耐震壁を設置
――北原橋のA1の補強にグラウンドアンカーを採用していますね
井口 橋台形式が中抜き式となっており、耐震照査結果からフーチング(後肢)の補強としてグラウンドアンカーを施工することにしました(北原橋の他にグランドアンカーを採用しているのは国立橋(逆T式橋台)と絵堂橋(中抜き式橋台))。
グラウンドアンカーで補強する
――橋台前方にブラケットを付けていますね
井口 RC構造で突起をつけて、そこに定着する形で補強をします。また、通常のRC増厚に加えて橋台中抜き部のフーチングの耐震照査を満足しないため耐震壁として最大700mm厚の壁を設置します。
――前壁は700mmも補強するのですね
井口 もともと中抜き式橋台で、ラーメン構造のような橋台になっています。そのため、コンクリートのせん断耐力が厳しいことに加え中抜き部のフーチングの耐震照査を満足しない橋台には耐震壁を設置する必要がありました。天神橋の中抜き式橋台は増厚だけで照査を満足したため耐震壁は設置する必要はありませんでした。
――このA2側は
井口 前面が盛土されています。
――グラウンドアンカーはどのように施工されますか
井口 竪壁本体や耐震壁に貫通孔を開けて、そこから先にアンカーを施工していきます。
――中抜き部分は充填しますか
井口 耐震壁を設置する橋台は壁でつなぐ形となります。充填はしません。
――国立橋の道路下はどのような状況ですか
井口 国道20号が交差しています。先述した大谷第二橋についてはランプが交差しています。
――橋台にこれだけ突起をつけて厚くするということは、下にもし道路があれば切り回しが大変になるのでは
井口 道路管理者と協議をさせていただいたうえで、施工することになります。本線路肩規制での施工を計画しています。
――NEXCO西日本の安倉橋でも耐震補強を行いましたが、下が通学路でした。それでかなり苦労されていました。基礎を補強する必要があるロッキングピアはありますか
井口 支社が管理する橋梁ではありません。
――斜角は
井口 天神橋以外は大きな斜角を有します。
長大橋はトラス33橋、アーチ4橋を管理
今年度は13橋発注 免震支承を基調に部材補強、制震も検討
――長大橋の耐震補強状況は
井口 トラス橋が33橋、アーチ橋が4橋で特殊橋梁は37橋あり、今年度からの工事発注で、管内の35%の橋梁(トラス橋13橋)で着手できることになります。今年度については、小原第二橋他4橋(八王子管内)、中野橋他7橋(大月管内)の2件を発注する予定です。これから設計を順次進め、本格的に工事を進めていきます。
管内特殊長大橋の35%で耐震補強に着手
管内特殊長大橋一覧
――トラスの場合、中央道はかなりスレンダーであり、格点部の腐食が出てきています。支承の交換をするとなると、そのための補強が必要になります。ここの工事は、基本的には耐震でいくのでしょうか、それとも免震や制震で対応するのでしょうか
井口 まずは免震支承を入れる方針です。それで照査をかけ、本体の補強を検討します。最終的には制震なども検討します。
中央道小原第二橋
――NEXCO西日本の阪和道で巨大なπラーメンやトラスの補強を行ったときに、巨大な負反力がかかるようなところで、浮くことを許容しつつ、橋ができるだけ動かない地震対策を施していた橋梁がありました。また、トラス橋はすべて補強すると重くなり、再計算になるので、制震で対応していました。中央道のトラス橋はかなりスレンダーですので、部材的にもたない部分も多く、耐震的に部材の断面補強をしていこうとすると重くなり、再計算になりますよね。そのため、制震が主になると思いますが、そこをもう少し詳しく
井口 補強の順番としては、鋼製ローラー支承から免震ゴム支承への取替を行います。次に上部工本体の照査をすると、部材がもたないということで、部材の入れ替えなのか、炭素繊維補強なのか、場合によっては部材の中にコンクリートを充填するなど、本体の照査をして補強を考えていきます。それでも本体がもたない場合は、制震装置を取り付けて抑えます。その過程のなかで、下部工や基礎の照査をして、基礎も補強が必要な場合は増杭をするなどの検討をします。
底沢大橋(格点部/支承部)
――発注方式は
井口 基本契約方式を考えています。代表的な橋梁1橋の設計をして、個別の工事の契約をするのと、残りの橋の設計業務をひとつの契約の中でまとめて行います。
――設計施工一括ですか
井口 設計施工込みの工事となります。例えば小原第二橋改良工事では、小原第二橋の設計は実施済なため個別契約先行で工事の契約をひとつ締結します。それと残りの橋の詳細設計を契約し、詳細設計が完了した時点で工事の契約を締結します。
――中央道の場合、過去には工事用道路がなくて苦労したことがありますが、今回の工事ではどのような規制をして現場に乗り込みますか
井口 まだ設計中なので、決まっていません。施工計画検討に入っていないので、期間や工事用道路についてはこれからです。工事用道路は基本的にはないところが多いですね。
――本線規制が必要になりますね
井口 現場環境は昔と変わらないので、本線からの資材搬入となります。規制が難しいところは、用地を借地して工事用道路を造ることも考えていかなければならないと思います。
点検は今年度で完了
塩害は松本管内中心に発生
――長寿命化修繕計画にもとづいた対策の進捗状況は
井口 平成29年度までの点検進捗率は、橋梁で約72%、トンネルで約81%となっており、今年度に完了する予定です。点検で診断区分Ⅲに診断されているのが、橋梁では約7%、トンネルでは約30%です。診断区分Ⅲ以下と判定された構造物は、次の点検までの5年以内に修繕を行うように、現在、補修計画を立案しています。特定更新等工事や耐震事業と一体的に修繕していくことにより効率的な修繕を実施していきます。
経過年数別橋梁損傷状況
同比率
一連単位で修繕していきますが、損傷は連単位で整理していて、床版やジョイントなど部分的な損傷も全部評価してⅢとなっているので、1橋すべてを修繕するわけではありません。ただ、塗装、床版、支承取替を一体的に行わなければならないので、まさに計画を立てているところです。
変位部位別割合(上)、変位部位別数(下)
――塩害、ASRについて
井口 管内においてASRによる損傷は見られません。塩害は松本管内が中心に発生していて、中央道では年間17t/kmの凍結防止剤の散布を行っています。
――17t/kmは量として多いのですか
井口 管内には八王子、大月、甲府、松本と4つの保全・サービスセンターがありますが、八王子、大月、甲府の3保全の合計散布量と松本の散布量がほぼ同一ですので、松本が多くなっています。