鋼部材の疲労・防食 塩害対策も待ったなし
NEXCO中日本東京支社 大規模更新・長大橋耐震補強をいかにスムーズに進めるか
中日本高速道路株式会社
東京支社
保全・サービス事業部長
関谷 富彦 氏
耐震補強対象は60橋 落防未対策は最大50橋
特殊橋はトラス・アーチなどで40橋
――長大橋、特殊橋を含めての耐震補強の進捗状況は
関谷 昭和55年以前の橋梁は、平成7年の兵庫県南部地震の被災を受けて17年度からの橋梁耐震補強3カ年プログラムで対応しています。下部工の耐震補強や免震支承への取替え、一部で落橋防止装置の設置などを行っています。平成8年までの橋梁については、熊本地震を受けてロッキングピアの補強と、高速道路の緊急輸送路としての速やかな機能確保のために耐震性能2への対策を行っています。昭和55年から平成8年に建設された橋梁が約60橋あり、耐震補強の設計を実施している状況です。さらなる耐震として約70橋を対象にしているが、落橋防止の未対策が約50橋あります。厳密にいうと落橋防止装置の設置はほかの対策との組合せで数が変わりますが、最大で約50橋になるという予定です。
供用年次の古い長大橋を多く抱える
――下部工の補強は
関谷 60橋の設計に応じて必要な箇所を補強していきます。
――特殊橋梁については
関谷 トラス橋とアーチ橋などで40橋あります。1橋(諸渕橋)が完了済みです。今年度は、補強工事を発注するのが15橋、補強設計予定が10橋です。
特殊長大橋の耐震補強進捗状況
――今年度発注の橋梁は
関谷 東名高速道路において、皆瀬川橋他6橋(7月17日公告済み)と、藤沢川橋他2橋(第2四半期公告予定)、向田川橋他1橋(第2四半期公告予定)を発注予定です。
――耐震補強はこれから行うわけですが、錆や孔食、疲労による損傷は、現状どのようになっていますか
関谷 疲労や老朽化による顕著な変状はありません。また、錆による変状も東名では計画的に塗替塗装を行ってきた橋梁が多いため、大きな変状は確認されていません。
耐震補強を実施しなければならないトラスなどの特殊橋梁は、御殿場の東名 下り線左右ルートと改築でつくった上り線の区間に集中していますが、左右ルートに分かれることにより交通が分散していることや改築事業として平成4年開通に開通していることもあり、比較的大きな変状が発生していない理由の一つと思われます。
――補強するとなると難しいですね
関谷 補強にあたっては、昔の工事用道路が使えないものもあるため、工事用道路を新たに造ることから行わなければなりません。
景観を意識してきれいにつくったトラスに、補強の為に部分的にコンクリートで巻き立てをするのは心苦しくありますが、必要な対策は施さざるを得ません。
――課題として、トラスの場合、支承取替えも出てくると思います。NEXCO東日本が所管する片品川橋では、巨大なジャッキをかませて上げたりしています。格点部の補強だけでもものすごい補強となり、そのために重量が変わり、補強方法から考えないとなりません
関谷 それぞれの橋で正解が一通りではないので、施工方法と補強方法の組合せをいくつか検討したうえで、最適な補強方法を選ぶ必要があります。前例が少ないため、苦労すると思いますが、そこは当社のエンジニアの力の見せ所と考えています。地震は、いつ来るか分からないので、あまり時間をかけず進めていく必要があります。
橋梁点検は今年度で一巡
今年度修繕対象は24橋
――橋梁の長寿命化修繕計画に基づいた対策の進捗状況は
関谷 診断区分Ⅲに対して次回の点検までの補修ということで計画を立てて行っている。
――Ⅲの橋梁数は
関谷 診断区分Ⅲの橋梁数は、49橋(H29.3末時点)です。
今年度、点検を約300橋で実施して、長寿命化修繕計画の一巡目の点検が終わる予定です。修繕(診断区分Ⅲ対象)は24橋実施予定です。
――診断区分Ⅲの橋梁ではどの部位が損傷しているか
関谷 伸縮装置などの橋梁付属物や桁端の損傷が多く見られます。西湘バイパスでは、飛来塩分による影響で、桁のフランジが腐食して桁補強をしなければならないものもあります。
下フランジの損傷状況
――樋が割れて、下に漏れてしまい損傷を起こしているものがあると名古屋支社では言われていました
関谷 樋が設置できないような狭い遊間のジョイントからの漏水があり、損傷が進んでいるものもあります。
――伸縮装置漏水対策でも独自の手法を活用していますね
関谷 乾式止水材および止水ゴムパッキンを伸縮装置の下に設置し、二重止水構造としています。またプラスチック製の桶を用いた簡易排水装置も東名などで、側方型充填材を用いた止水構造を新湘南バイパスで採用しています。
コンクリート橋の塩害も進む
一部で脱塩工法を採用
――昨年か一昨年、横河ブリッジが行った鋼橋塗り替えも取材に行きましたが、防食機能の劣化が進んでいました
関谷 小田原厚木道路は、大型車交通量はそれほど多くないですが、損傷が進んでいる箇所は多くなっています。西湘バイパスの滄浪橋や小田原厚木道路の早雲橋の損傷が進んでいる状況です。
――原因は飛来塩分ですか
関谷 冬期に凍結防止剤として塩を撒くことは、ほとんどないので、飛来塩分によるものと思われます。
滄浪橋の損傷状況①
滄浪橋の損傷状況②
――滄浪橋のPC桁損傷状況でははく落に見えるが、PC鋼材まで損傷しているのですか
関谷 せん断クラックではないことは確認しており、構造上問題がないことは確認しています。コンクリート自体は損傷が進行しています。
――写真をみるとPC桁の表面被覆(塗装)をしていますね
関谷 表面は応急的に修復しています。
――東名高速道路の由比PA付近の塩害状況は
関谷 そこまで酷く傷んではいません。今期計画に補修・補強は入っていません。いつかは桁と床版の補強をしなければならないという状況ではあります。
――脱塩工法を行うと聞いていますが、電気防食を用いた手法ですか
関谷 そうです。コンクリート構造物の表面に設けたチタンメッシュおよび電解質溶液を陽極(+)とし、コンクリート中の鋼材を陰極(-)として、一定期間通電することにより、電気泳動でコンクリート中の塩化物イオンを外へ排出させる方法です。
今回、結果を検証した上で滄浪橋全線に拡大をしていく予定です。
電気化学的脱塩工法概要図
同工法施工フロー
――JR東日本が日本海側で電気防食をやっているが、脱塩までやるのは徹底していますね。JR西日本が試験的に脱塩再アルカリ化という工法を十数年前にやっていましたが
関谷 脱塩工法の長所としては、塩化物イオン濃度を低減させ腐食の進行を抑制する効果や、鋼材周辺のpHの増加により防錆環境を改善させる効果があります。ただ、それで本当に腐食の進行が抑制できるかどうかはやってみないと分からないところがあります。
――脱塩の場合は腐食の進行抑制というよりも、腐食因子をなくすということですか
関谷 そうです。飛来塩分がコンクリート内に侵入するので、あわせてひび割れなどの補修もしっかり実施していきます。
――脱塩にあたっては、ずっと通電をするのですか
関谷 脱塩装置の数が少ないので、桁ごとに何日間ずつ通電させ、移動しながら施工をしていきます。電流はコンクリート表面積あたり直流電流で1.0~2.5A/㎡、約8週間通電させる予定です。東京支社では、電気防食は滄浪橋と由比の薩埵(さった)高架橋の2箇所で行っています。
――ASRによる損傷はありませんか
関谷 東京支社管内にASRによる損傷はありません。