ロッキングピア、長大・特殊橋の耐震対策も急ピッチで進む
NEXCO中日本名古屋支社 大規模更新・大規模修繕事業が本格化
中日本高速道路株式会社
名古屋支社
保全・サービス事業部長
池田 光次 氏
支承取替は8橋70基
伊勢湾岸道の鋼製ジョイント取替が急務
――支承取替えは
池田 今年度は、東名、名神、中央道の8橋70基の取替を実施します。
多くは鋼製支承をゴム支承に替えます。
――中日本ではオゾン劣化した支承を補修していますが、今後も継続していく予定ですか
池田 劣化の度合いに応じて、酷くならないうちに保護塗装を行っていきます。
――仙台東部道路で破断したのが記憶に新しいが、ハードニングによる破断ではないのかと言われています。昔のゴム支承は時間とともに硬化していく課題があるとも聞いています。名古屋支社としての対策は
池田 管内で出ている現象は表面劣化の割れなので、保護塗装で対応しています。
――伸縮装置の取替えは
池田 伊勢湾岸道の取替対象は本線では約130箇所が必要です。しかし現状は、28箇所しか取替えができていません。
伊勢湾岸道のジョイント取替状況
――損傷した数は
池田 ビーム型の損傷個所は55、フィンガーでくし部分が折れた箇所が5、フィンガーでクラック有7箇所です。67箇所のうち、28しかできていません。ただ、この中には何度も割れているものがある。応急措置をしても1回割れたものはすぐに再発します。
伊勢湾岸道のジョイント取替(施工方法)
――応急措置の内容は
池田 ビーム型は取替えても必ず溶接部分が必要であり、そこが割れてしまいます。このため、ビーム型はすべてやめて、鋼製フィンガーに取替える工事を行っています。鋼製フィンガーで損傷のないものは、溶接部をピーニング処理により疲労強度を高める長寿命化策をとってきます。鋼製フィンガーと下の箱断面の受け部材との溶接にクラックが入るので、その負荷を減らすために溶接部をピーニング処理することによって、疲労耐久性を上げるものです。壊れる前に対策すれば寿命が伸びます。クラックが入ったものは取替えるしかありません。
ピーニングによるジョイント延命化
――取替えとは
池田 全幅員分を取替えます。伊勢湾岸道のジョイントは大型で1ヶ所が幅16mで20tあり、工事は1基1億円、工期は2週間以上かかってしまいます。
――伊勢湾岸道の何橋でしたっけ
池田 最初に取替えたのは3年前、豊田南ICすぐそばの高岡高架橋です。
――マウラーでも損傷が出ていると聞きました
池田 マウラーも折れています。
――写真を見ると本当に破断ですね
池田 サポートビームが折れたのはつらかったですね。緊急工事により約16時間でサポートビームを取替えました。
こうしたジョイントは、残り100基あり、年間20基ずつくらい対策していきたいと考えています。今年度は夏前に7基、秋に6基を予定しています。
鋼橋塗替えは今年度4橋29,000㎡を予定
ターマラストを鉄筋防錆に活用
――鋼橋の塗替え実績は
池田 昨年度は3橋3,300㎡。今年度は4橋29,000㎡を予定しています。名二環の橋梁等です。
鋼橋の塗り替え
――塗替え時の溶射や重防食は
池田 溶射は使っていません。防錆材ではターマラストという塗料を鉄筋防錆用途に使用しています。中日本高速技術マーケティングが取り扱っています。もとは缶売りでしたが、マーケティングがスプレー缶にして使いやすくしています。
アルカリ性の塗料なので、完全なケレンができなくても錆が進みにくいため、応急措置で使っています。性質が面白いので桁にも塗ってみたいと考えています。現在は除雪車に塗って様子を見ています。
――PCB、鉛を含有した塗膜への対応は
池田 塗替えの際は、事前調査を行った上で計画を立てています。含有している場合は、基本的に湿潤状態で処理しています。PCBは見つかっていませんが。鉛は含まれている橋梁がほとんどです。
――塗膜剥離剤や循環式エコクリーンブラスト、IHなどの使用例は
池田 名古屋支社管内でIHの使用例はありません。ブラストは一昨年、名二環の橋梁塗替えで使用しました。
耐候性鋼材は57連で採用
端部は塗装済み
――耐候性鋼材は
池田 東海環状道に多く56連、東海北陸道にも1橋(JCT橋)あります。国交省施工区間で採用されていたものを、引き取り後に桁端塗装したり、交差道路の真上は塗装しています。開通して10年少々経ちますが、問題は発生していません。
――耐候性鋼材がある場所は
池田 山間部です。東海環状道の東回りや、西回りの名神とつながるあたりに使われています。
――山間部だと錆びが出やすいですね。塩を撒くし、夏場は霧が出やすいと思います。今後、錆びる前にブラストをかけて全面塗装していくことはありますか
池田 様子をみて、錆が落ち着いていかないのであれば塗装することも考えます。
――耐候性鋼材にきちんとブラストをかけるのは、通常の鋼橋の1.5倍かかると言われている。しかも、錆が硬くてとれないといわれていますが、表面の状況は
池田 チョコレート色にはなってきています。悪性錆は出ていないと思われます。
――地形的に谷間にある橋はないですか
池田 広い谷間のようなところを渡す橋梁でいくつも使われています。
異常気象対策 のり面、盛土など排水機能強化へ
――全国的に異常気象などによる土砂災害が相次いでいますが、名古屋支社管内でも道路に関する斜面や、古い法面、盛土構造などをそのように補強・補修して道路を守っていくのか、具体的な事例や計画がありましたら教えてください
池田 道路運営に土構造物の変状はつきものです。有識者による委員会(名古屋支社管内のり面防災対策検討会:委員長 八嶋厚・岐阜大学教授)を実施しています。
例えばのり面アンカーでは計画的にリフトオフ試験を実施し、のり面変状の計測データを委員会に報告した上で評価や対策への助言をいただいています。
のり面排水施設の大規模更新スキーム
のり面の補強補修事例
――アンカーは大規模更新事業に該当すると思いますが進捗状況は
池田 今年度の施工予定はありません。管内全体で該当箇所のアンカー状態のデータを取得した上で、委員会で検討を行っています。
――東名牧之原や東日本大震災の類似盛土対策は
池田 これについても管内全域の類似箇所を抽出し、当該箇所ののり面のボーリングを行い、土質と地下水位の調査を実施した上で委員会に報告し、検討しています。
盛土については土質を調査し、粘性土、真砂土、山砂、泥岩、しらすのいずれかが含まれていないか、盛土段数が3段以上ではないか、補修履歴や盛土内水位に問題はないか、隣接地への影響はないかを調査した上で、必要な個所は特定更新工事で対応します。
盛土の大規模更新
具体的には盛土内の浸透水排除対策、盛土補強対策、縦横断管漏水対策などです。
――豪雨水害などへの対策は
池田 のり面排水施設の大規模更新に取り組んでいます。3段以上の法面が対象で、幅0.3m未満の小段排水溝がないか、隣接地への影響がないかを確認した上で、該当するものについては排水系統の見直しや集水桝の改良、小断面排水施設の断面拡大などの改良を特定更新工事で行っていきます。
中央道瑞浪地区で亜炭廃坑空洞対策が必要
――そのほかの対策は
池田 中央道瑞浪地区における亜炭廃坑充填対策があります。中央道の恵那IC~瑞浪IC間で本線の下に高さ1.8mの亜炭の廃坑空洞があって、JHからNEXCOに民営化した時期に約70cm路面が沈下しました。戦時中の亜炭坑で、亜炭を採掘した際に柱状に残したところと採掘した空洞があります。その残柱部は全体の面積の2割程度しかなく、崩れ始めている段階です。沈下は落ち着いてきてはいますが、L2地震波揺動時には路面が陥没し、1m以上の段差が発生する可能性があるため、この空洞に充填する工事を行い補強します(飛島建設受注)。本線の両サイドからWJでボーリングして、空洞内に壁をつくって、中を埋める方法です。外側に粘性の高いものを注入することによってピラミッド状に壁をつくり、その後、残った中央部を低粘度材で注入していきます。
亜炭廃坑空洞対策平面図
廃坑陥没に伴う路面沈下/地質縦断図
――注入する材料はどんなものを使いますか
池田 主剤はキラ材と聞いています。陶器の廃材みたいなものです。飛島の特許工法で、キラ材と混和材で固めます。
――水の処理は
池田 水は注入する分、押し出される。地盤を固めていく。今秋から冬にかけて着手します。
――鉱山跡はどうしても古洞の問題がありますね。ここはさらに下層に古洞が存在するという可能性はないのですか
池田 調査をしたところ、ここはこの層だけのようです。
――NEXCOではこのような工事はけっこうあるのですか
池田 私は初めてで、聞いたことはありません。
点検・安全対策に新技術・新工法を活用
人材育成を重視
――新技術、新工法は
池田 以前に、E-MACやニューブリッジのことを話しました。そうした施設を使用して技術者の育成を懸命に行っています。
個別技術で現在、使い勝手がいいものはエンジ名古屋の「みち録」です。点検車両に取り付けて走行映像を記録するドライブレコーダーです。巡回車の走行映像データを全て集めていて、過去の路面状況などを映像で見ることができます。映像データは全てキロポストに紐づけされており、いつのどの区間の映像でもすぐ確認できます。
――ケーブル点検ロボットは
池田 斜張橋のケーブルを調査するために、試行的に使っています。管内では名港トリトンで扱い始めた段階です。名港の各大橋のような主塔高さがある斜張橋ケーブルは容易に点検ができません。こうしたロボットと、特殊高所技術などを併用しながら点検していく必要があります。
――ドローンの採用は
池田 昨年、瑞浪市釜戸地区で中央道に土砂流入があった際、現状把握で非常に役に立ちました。明け方と同時にドローンを飛ばして、(報道などの)ヘリが飛ぶ前にドローンで概況をすべてつかんで対策を打つことができたのです。こうした災害対策で非常に役に立ったので、ドローンをもう少し強化することをエンジ名古屋と話しています。
一方、ドローンの弱点は水で、雨が降ると飛べません。そのため防水性、耐候性のいいものを活用し始めています。
――安全対策では
池田 緊急避難信号送信システム「しらすんだー」と遠隔通報システムを合体させた安全対策を活用しています。安全旗に内蔵されているボタンを押すと警告音が鳴るシステムがしらすんだーですが、車両突入時に人の操作に頼るだけではダメで、それとは別に、ラバコーンにセンサーを取り付けるタイプと周波数を統合して、どちらでも現場に知らせられるようにしたシステムです。また規制先端にある矢印板にも同様のセンサーをつけることで、車がどこから突入しても作業員に知らせることができるようになります。昨年、多治見で作業員が規制内でひかれる事故があり、対応をさらに強化しました。
しらすんだー
西日本高速道路総合サービス沖縄の超指向性スピーカー(『ウルトラソニックインパクト』)も試行的に使い始めています。
また、トンネルなどの高所作業時において、リフターにはさまれることを未然に防止する『はさまれん棒』も使いやすいです。
――最後に付言して
池田 名古屋支社は他の支社より供用年次が古く、東西幹線ルートと港を抱えて、重交通であることが特徴です。日本一標高の高い高速道路である東海北陸道やゲリラ雪で有名な名神があり、雪の影響を非常に受けやすく、凍結防止剤を多く散布しています。さらに道路ネットワークが一番複雑な管内でもあります。このような特徴がありますので、どこよりも先に知恵と工夫を出さないとなりません。それをできるような人材を育てていくことが我々の仕事です。
――ありがとうございました
(2018年7月25日掲載)
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