大規模リニューアル ロッキングピア対策 特殊橋の耐震補強など
中日本高速道路の構造物の保全はどこまで進んでいるか
中日本高速道路株式会社
前 取締役常務執行役員 保全企画本部長
(現 中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京株式会社
代表取締役社長)
猪熊 康夫 氏
大規模更新 出来るだけ車線確保しながら施工したい
ロードジッパーを赤渕川橋で活用
――今後、桁の取替え、床版取替え、鋼橋床版の防水工施工など、とくに東名のような非常に交通密度の高い現場について、どのように取り組んでいきますか。例えば、平出高架橋の現場ではBluetoothを使用していましたが
猪熊 切り回しのことや情報提供のことなど工夫すべき点は沢山あります。過年度の東名の用宗高架橋の現場では、日本坂トンネル改築の関係で拡幅をしていたため、車線幅員3.25mで路肩をほぼゼロにすれば、工事しながらの4車線確保が可能になりました。東名ですので、新東名があるから迂回を促せるかな、という話もありましたが、静岡~焼津間は短トリップもかなり多い区間であり、システムカディを使用して、中央分離帯をおいて4車線を確保しました。問題は、4車線あるので大型車もスピードを落とさず走るため、システムカディに接触して、少し動くということがあったことです。
用宗高架橋では片側2車線を確保した
幸いにして、事故は起こらずに、渋滞も出ませんでしたが、東名は重交通路線であることを踏まえ、関係機関とも相談して、分離構造はもっと丈夫なものを使っていきましょうということで、ロードジッパーシステムを東名の赤渕川橋で使用したわけです。
赤渕川橋の大規模リニューアル工事ではロードジッパーを採用した
同工事は規制で上下2車線でしたが、コンクリートの中央分離帯があると非常に安心感があります。一部で対面通行規制区間があったため、新東名への迂回もお願いし、夕方などに若干渋滞が発生しましたが、分離構造に起因する事故などは起こらず、東名などではこのようなしっかりしたものを今後も使用していきます。
調布ICは仮ランプをつくれたので、交通を阻害せずにできました。外国の例をいろいろ調べてみると、狭い車線や仮橋での交通運用はかなり行っています。
調布ICでは仮設迂回路を設置して工事を行った
ドイツではリバーシブルや路肩運用もやっています。1960年代の初めに工事で規制をかけたら渋滞がすごく社会問題になったためです。車線幅を縮小して車線数を確保するというのを始めて、いまは車線運用(規制)のマニュアルもできています。都市間高速道路の車線幅は3.5m、都市内高速道路3種4種は3.25m。東名の用宗は3.5mから3.25mまで縮小しましたが、ドイツでは3.25m、場合によっては3m、小型車専用ならば2.5mの縮小もあります。我々だけで決められることではないし、関係機関などとも相談していかなければなりませんが、渋滞をさせないために工事ができないということではなくて、車線数を確保して上手く交通運用をしつつ工事ができないか、ということで、規制時の車線幅を縮小できないか模索したいと思います。
路肩を利用した車線規制例(フランス及びハンガリー)
小型車専用車線による車線運用(ドイツ)
覆工板を活用した迂回路 スイス
実際に東日本高速道路の北海道ではリバーシブルで運用を行いました。車線幅3.25mです。あちらでは堆雪余裕幅があって、路肩が3mあるからできるのですが、他ではなかなかできません。しかし車線幅員を3mまで縮小できれば、できるところは増えます。その可能性を追求していきたいと思います。そのときに、ロードジッパーのようなしっかりとした防護柵で仕切ることと、お客さまの理解を得ることをやっていければいいと考えています。
Bluetoothを使用して通過時間を提供
半断面施工 名神長良川橋で実施を検討
――タイムリーな情報提供は
猪熊 必要です。本線内は低速になってくると、トラフィックカウンターのデータは必ずしも正確に時間を提供できないというのもあるので、Bluetoothを使用した通過時間の提供を行っています。広域的な迂回もして欲しいため、迂回路の旅行時間情報も提供しています。それに加えて、Googleから情報を得て、一般道の所要時間の情報も提供しています。現在、施工中の大規模更新事業(平出高架橋など)でも行っています。
――半断面施工など、技術的な取り組みは
猪熊 交通運用との関係で車線数を確保するために半断面施工が必要であれば行います。今後、名神長良川橋などで実施について検討しています。40,000台弱が限界で重交通のところは車線数を確保すべく、施工方法を考える必要があります。
名神長良川橋
――他、床版取替えに関して
猪熊 間詰コンクリートの幅や量、地覆、高欄のプレキャスト化は、耐久力はもちろん現場施工の効率化という観点からも重要です。極論を言うとコストが少し高くても、早いほうが良いです。
床版防水 基本はグレードⅡ
鈍感で性能の良い床版防水が欲しい
――床版防水は
猪熊 基本はグレードⅡです。しかし今後、ずっとグレードⅡかといったら、現時点では、よく分かりません。
――床版防水は意見が大きく2つに分かれていますね。グレードⅡの代替として期待されているのがグースアスファルト防水ですが、それを使うとなると、舗装会社も何千万もするクッカー車を何台も買って対応する必要があります。使うかどうか分からない状況でクッカー車を用意する投資はできません。そこをはっきりして欲しいようです
猪熊 防水層に限らず施工時の条件に、極端に敏感なものはやめたほうが良いと思います。ある程度の平均値をとれる鈍感な材料の方が良いです。
グースアスファルト防水(当サイト既掲載)
――新設のプレキャスト床版の床版防水はそんなに悪くならないと思います。課題としては既設床版で取替をせずに切削したあとに、表面研掃をして防水を行うもので、どれだけ研掃をするか、不陸修正を行うかによって、防水工の性能も変わってきます。それは結局、施工に要する時間をどれだけ確保できるかに関わってくる。グースを使ってもそれは同じではないですか
猪熊 それは分かっていますが、規制に手間取り、施工時間が短くなって、研掃を9割しか行わなかったときに、性能が6割になるような敏感な材料ではいけません。
――中空床版橋の桁取替は
猪熊 仮橋が必須でしょう。
――中日本高速道路で中空床版橋を使っている主な区間は
猪熊 昔のRCはおおむねホロースラブで名神や東名に多く存在します。
ロッキングピア 3年以内に耐震補強完了へ
長大橋 55橋が対象 少なくとも照査は必要
――長大特殊橋およびロッキングピアの耐震補強進捗状況は
猪熊 ロッキングピアの対策が完了したのは119橋(自治体管理のものを含まず)のうち、まだゼロです。OVが約30橋で、全部で約150橋が対象となっています。
ロッキング橋脚を有する橋梁の耐震補強
――NEXCO西日本では斜角を有したロッキングピアなど難しいものから先に行っています。中日本では
猪熊 3年ぐらいを目標にやっているので、優先順位をつける時間的余裕はありません。工事の準備ができたものからやっています。期間内に完工させることに強い危機感を持っています。
――150橋すべて着手したのですか
猪熊 ほぼすべて設計が終わって、発注手続きを行っているところです。ただ、一部、不落、不調の工事があるので、組みなおしなどの対応が必要です。
――長大・特殊橋は
猪熊 平成6年道示以前のトラス橋、アーチ橋、ランガー橋、斜張橋、エクストラドーズド橋、ローゼ橋など55橋が対象であり、少なくとも照査は必要です。対策済みは4橋です。
耐震照査が必要な特殊・長大橋 橋梁一覧
――確かに大月管内などではトラスを多く見かけます
猪熊 東名の大井松田もそうですが、建設当時、トラスしかあのスパンを渡れる橋梁形式はありませんでした。従って、中央道はトラスが多くなっています。
――ロッキングピアで基礎をいじる必要のある橋は
猪熊 基本はいじりませんが、多少あるかもしれません。なるべくいじらないですむ設計を心掛けています。
――過去に行った主な長大橋の耐震補強事例は
猪熊 名港西大橋(鋼斜張橋)、落合川橋(鋼逆ローゼ橋)があります。落合川橋では、当て板補強やせん断ダンパー、上昇力抑制装置、制震ダンパーを設置し耐震補強を行いました。名港西大橋(上り線)では、部材補強および免震支承の設置、橋軸・橋軸直角方向へのダンパーの設置などを行っています。
落合川橋の耐震補強
名港西大橋遠景
名港西大橋で行った耐震補強
支承逸脱防止対策