グレードⅡを意識し、床版の表面性状にこだわる
床版打換えと断面修復を峻別
――3つの基準にまたがるものとしては、床版防水関連がありますね
広瀬 グレードⅡ(高性能床版防水)を意識し床版の表面性状に拘った改定を行いました。現状、構造物施工管理要領(保全編)では、表面粗さについて1mm以下が望ましいとしています。しかし実態は1mmを超える場合が大半で、下地処理は不陸調整剤によって平滑化処理を行うか、防水材料の層厚施工で対応していました。
床版の表面粗さ例
――まずは床版補修方法の明文化について
広瀬 高性能床版防水いわゆるグレードⅡを満足させるためにはその基盤となる床版が健全でなければなりません。そのため床版の補修方法は「床版打換え」によるものとし、補修材はコンクリート系とすることを明文化しました。床版上面の断面修復材(モルタル、ポリマーセメントモルタル)はあくまで応急対応用の材料であるため耐疲労性や防水層との付着の面で懸念があり、グレードⅡを対象とする床版の補修材には適さないと考えています。
床版の補修方法フロー
――規模的にはどのくらいで応急対策/床版打換えを分けたらいいのですか
広瀬 一箇所1㎡程度未満・以上を目安と考えればよいと思います。
――現場では舗装を剥がしてみないと、断面修復材(主にモルタル)程度でよいか、打替えが必要か、判断が難しく、よって材料の用意が難しい場合もありますが
広瀬 そのために非破壊検査なども含めた事前照査の必要性について記しています。
――打換えの場合、母材のひび割れへの対応や母材と打換え材との一体化はどのように行うのですか
広瀬 不慮の事象によって床版を切削してしまった際に、マイクロクラックの発生が懸念されます。そのため高浸透性のプライマーを使用し、補修することを推奨しています。
表面粗さを1mm以下に
平滑差が床版防水層の性能に与える影響は大
――既設床版の表面粗さを緩和するための諸施策も実施しています
広瀬 現状において構造物施工管理要領では既設床版は表面粗さ1mm程度が望ましいとしています。1mmの根拠は、(防水工や不陸調整材などの)材料使用量が過大とならないために定めているに過ぎないもので、本来は新設床版相当の表面粗さに抑えることが望まれています。
――しかし既設床版は新設床版ほどの平滑さを追求できている状況にはないと思いますが
広瀬 おっしゃる通り実際は1mmを超える場合が大半です。現場によっては表面粗さが3mm程度になる箇所もあり、最大では5mm程度のところもあります。次工程の床版防水は、不陸への対策が大きく2つに分かれており、4社が不陸調整材の使用、2社が防水工の厚層施工によるものでした。
これらの不陸対策のどちらを実施するべきかを試験によって確認した結果、不陸調整材を用いる必要があることが分かりました。
――その試験手法と結果は
広瀬 表面粗さ2mmの供試体に防水材標準量を施工したもの、防水材を厚層施工したもの、不陸調整材で平滑化したものを用意して、防水層上にホイールトラッキング試験(負荷1,029N、9時間載荷)を実施しました。供試体の劣化を促進させるために鉄輪を使用しています。
その結果、平滑化していない供試体では試験後の引張接着強度が基準値以下に低下することが確認されました。すなわち厚層処理もしくは標準量施工の床版防水工では、供用後の輪荷重によって防水工の接着不良による不具合が発生する懸念があります。標準量施工の場合では凸部(防水層が一番薄い部分)において防水層の破れを確認しています。
表面粗さの影響評価
加えて引張接着試験の破断面を評価したところ標準量施工と厚層施工ではプライマー層と平板面での界面破壊となっており、不陸調整材による平滑化処理を行った供試体では母材破壊となっていました。
引張接着試験の破断面(表面粗さ2mm)
こうしたことから切削によって不陸が発生すると(平滑化しない場合)防水工の膜厚の不均一や面接着ではなく点接着などが生じること、切削時にマイクロクラックが発生することが疑われ、接着不良や凸部での防水層の破れ、マイクロクラックの進展が影響することが推定されました。
不陸調整材の規定を追加
新設下地処理にはダイヤモンド研掃工
――そのため不陸調整材の規定を追加したわけですね
広瀬 そうです。グレードⅡは平滑な床版面においてのみ要求性能が保証されています。そのため、床版面を平滑にするために樹脂モルタルを基調とする不陸調整材を用いる場合があります。これについて事前に防水工と一体化した供試体を用いた性能照査試験で性能を確認したものを使用することにしたものです。
不陸調整材を使用する場合の確認フロー図(平成29年7月暫定)
――下地処理の標準工法も規定されていますね
広瀬 新設を対象としたものです。新設時の床版コンクリート打設には被膜養生剤を用いていますが、これが適切に除去されていない場合、床版防水の接着不良を引き起こすことがかねてから懸念されていました。そのため適切にそうした被膜を除去しつつ、表面粗さに影響の無い工法としてダイヤモンド研掃機(左写真)を標準としました。
ロッキングピア やり方によっては中間橋脚の補強は最小限に
斜π橋はせん断補強が必要な橋梁も
――さて、オーバーブリッジとして用いられているロッキングピアや斜π橋などに対する耐震補強について技術的な対応を教えてください。問題がある基礎はどのように補強すべきでしょうか
広瀬 基礎を補強することを避けるためには橋脚の耐力を上げないことです。そのための方策としてはせん断耐力を上げるように連続繊維シートを貼り付けて補強するとか、基礎に影響を与えない補強の仕方を採用するなどのやり方が考えられます。
ロッキングピアを有するオーバーブリッジ(井手迫瑞樹撮影)
――具体的なやり方は
広瀬 構造にもよりますが、東原橋(九州道熊本IC付近、熊本地震で被災したオーバーブリッジ、上下部完全剛結にした)では、発生断面力を診ると剛結にしてもほとんど橋脚基部に力は発生していません。力は殆ど両側アバットに集中しており、中間橋脚にはあまり(力が)来ないのです。地震時の力の入り方は各部材断面の剛性で分配されるので力はより硬いところに寄っていくわけです。だから橋台は固く、橋脚は相対的に柔らかいわけです。
――ということは、中間橋脚は(倒れないように)剛結はしても補強は最小限で済む、と
広瀬 東原橋のようにアバットもピアも剛結構造にした場合はそういうことが言えると思います。だから中間橋脚の補強は最小限で済み、基礎は先ほど申し上げた既設基礎の許容塑性率の範囲内に収めることができると思います。
――橋台は剛結だけでなく支承の場合には桁掛り長なども増やしているのですか
広瀬 増えています。橋台の支承条件を固定化する際に、前面にコンクリートを貼り付けて拡幅しますので。
――斜π橋の補強についてはどのように考えますか
広瀬 必要だと思います。熊本地震でも落橋こそしなかったものの、鉛直材全体に大きなせん断ひびわれが生じていました。復旧性を考慮するともう少し損傷を抑えたいですね。この形式は幅員が狭い形式(幅員5m程度以下の1車線ないし歩道橋)で損傷の起こる可能性が高く、検証が必要です。
――どのような補強方法が適当ですか
広瀬 せん断耐力を上げる補強部材が必要です。(編注:連続繊維補強シート貼り付けや波型鋼板を利用した補強など)
CFRPシートの適用範囲拡大目指す
トラスのガセット部や鋼鈑桁の曲げ耐力補強分野
――さて、次に新技術の開発動向について教えてください
広瀬 炭素繊維シートを用いた鋼構造物の補修・補強工法の適用範囲拡大について検討を進めています。
――現在も鋼板桁のウエブやフランジの腐食箇所などに対する補修・補強に使われていますが、どのような形式の橋または部位に範囲を拡大するのですか
広瀬 トラス橋のガセット部や下弦材の補強と鋼鈑桁の曲げ耐力補強に拡大することを考えています。トラスのこうした狭隘かつ複雑な部位は定期点検により少なくない箇所で腐食や減肉、孔食が発生していることが発見されるようになっています。この補修・補強は、従来当て板により施工していました。しかし、アングル材や斜材を取り付けて添接せねばならず、取り付け部材の重量も重いことから、難しい現場となっていました。ここに軽くて施工も簡単なCFRPシートを用いて耐力が不足している分の補修・補強を行おうというものです。
適用範囲の拡大目指す
ガセット部の補強実験
――貼り方としては外面のみですか。それとも内外両面に貼るのですか
広瀬 できれば外面だけでいきたいと考えています。ただ、それだけでは効果が薄い可能性もあり、もう少し検討が必要です。また、こうした部分(ガセットなど)は、力の方向が複雑ですので、シートの貼り方も工夫しなくてはいけないと考えています。また、補強量を決めるため、損傷によって失った耐力を的確に把握する手法についても検討を進めています。
――外面だけの場合、内面は補修塗装を施し、錆の進行を防ぐだけにするということですね
広瀬 そうです。
――桁の曲げ耐力補強分野は
広瀬 大規模更新事業で床版の取替工事が進んでいます。その中で現在の要求性能に合わせるため既存の床版に比べて取替床版を厚くすることから、床版死荷重増により既存の主桁が耐えられない箇所が出てくることが予想されています。こうした個所に対して事前にCFRPシートを貼り付けて断面補強することで座屈耐力を上げ、桁高を増やすことなく安全な床版取替および補強後の安全性を確保しようというものです。現在は非合成桁→非合成桁、合成桁および合成桁→合成桁への対応について検討を進めています。合成桁→非合成桁については炭素繊維シート補強では難しく、断面性能を上げるか外ケーブルで補強するなどで補強する必要があると思います。貼る場所としてはできるだけウエブのみにして、フランジには必要としても最小限に抑えたいと考えています。
鋼鈑桁の曲げ耐力実験
――研究は現状どこまで進んでいますか
広瀬 各個に耐荷力実験を行っており、良好な結果が出ています。
――もう一つは
広瀬 鋼床版補強対策の材料・工法開発です。現在は、疲労亀裂が出ている個所、もしくは出ることが予想される個所への補強・予防保全としてSFRCが施工されています。100年以上の補強効果が期待できますが、その反面コンクリートの打設及び養生に時間がかかり、施工のための規制を長時間必要とします。
高剛性舗装の構成
グースアスファルトと高剛性舗装の累積損傷度比較
当社では東亜道路工業などとともに交通規制を低減でき、かつ一定程度(約30年)の高耐久性が期待できる高剛性舗装を開発しました。熱可塑性樹脂を添加したアスファルト舗装で、一般のアスファルトと同様の施工が可能です。
輪荷重走行試験の結果、鋼床版の損傷度を算出すると、高剛性舗装を基層部分に施工した場合の累積損傷度はグースアスファルト舗設時の約1/3に抑えることができ、SFRCほどではありませんが、施工の際の交通負荷を軽減しつつ、ほぼ現在の基層打替サイクルと同様の期間、鋼床版の耐久性を確保することが期待できます。
――今後の開発スケジュールは
広瀬 試験施工による現場適用性も確認した上で、平成30年7月にはマニュアルを作成したいと考えています。
――ありがとうございました