オゾン劣化したゴム支承の補修方法も記述
2種類の工法が有望
――6章の支承では、ゴム支承の補修方法について新たに記述していますね
広瀬 ゴム支承の経年劣化の一因としてオゾン劣化が挙げられます。オゾン劣化はオゾンの作用によりゴムの分子構造に変化が起こり、ゴム表面にひび割れが発生するものです。ひび割れが進展し、被覆ゴムを貫通して本体ゴムに達すると、ゴム支承の力学性能の低下につながるため、ひび割れの進展防止および新たなひび割れの予防が重要であると考えます。そのため、ゴム支承の補修について、その必要性と補修材料の選定について追記しています。
――具体的には
広瀬 ゴム支承本体を守る被覆ゴムの1㌢深さぐらいにオゾン劣化由来のクラックが生じています。損傷としては軽微なものですが、そのままにしておくと大きな損傷を引き起こしかねません。ただし、ひび割れへの樹脂注入や外から再度被覆ゴムを巻く補修工法を施すことで、性能を回復させることができることが分かりました。材料レベルではなく力学性能ですね。せん断変形性能などです。
ゴム支承が設置時に施しているオゾン劣化対策としては、ゴムから(内部に含有させた)老化防止剤をしみ出させることで防止するタイプとEPDM(Ethylene Propylene Diene Monomer Rubber)という層を外側に巻き、最後に加硫する手法の2つに大別できます。傾向としてはEPDMを施している支承は劣化はなく、対象は老化防止剤染み出しタイプと言えます。
――補修材料はどのようなものですか
広瀬 10種類以上を試しましたが、明らかに性能を回復したのは既存支承の表面被覆ゴムに弾性特殊コーティング材を塗布する手法(川金コアテックK-PRO工法)と、三ツ星ベルト(保護層となるゴムを巻くタイプ)の2種類です。また、稀にひび割れが本体ゴムまで達していることがあり、そうした支承については取替を検討しています。そうした損傷を確認するための非破壊手法を現在研究中です。
ゴム支承の損傷状況と補修方法
保護層となるゴムを巻くタイプ
――具体的には
広瀬 X線を用いた非破壊検査方法です。
経年とともに性能が落ちてくるのは否めない
平成16年の低温オゾン性能試験を取り入れる前のゴム支承
――今回の熊本地震を見ていると、20年前に設置したゴム支承がこうした劣化により、設置時と同じ性能を有していたかを問う人も出てきていますが、性能が変化していることは考えられますか
広瀬 考えられます。ゴム支承はどうしても経年とともに性能が落ちてくるのは否めないと思います。ただ、橋梁の耐震に必要な性能は担保していると考えています。少々の劣化では、耐震性能に疑義が出るような状況には至らないと考えています。
――その根拠は
広瀬 東日本大震災時の仙台東部高架橋の知見です。同橋は供用から20年弱で、同地震によりゴム支承の一部が破断してしまいましたが、その時に破断したゴムの物性を調べています(土木学会構造工学論文集「東北地方太平洋沖地震により破断した積層ゴム支承の性能試験」2013年3月)。端的に言うと硬くなっていました。ゴム全体の変形性能は当初と比べるとおそらく落ちていますが、伸びないとはいえ、L2地震時の耐力は有している、ということが分かりました。力で抵抗できればゴムが破断することはないので、落橋に至ることはないと考えています。
尤も、現在のゴム支承はオゾン劣化対策を施したものが殆どであり、そうした支承で深刻な損傷が起きるケースはまだないと思います。しかし、平成16年の低温オゾン性能試験を取り入れる前のゴム支承については、対策を施しておらず、そうした初期のゴム支承はオゾン劣化対策を施していない支承もあり、注意が必要です。
――8章の耐震補強設計については落橋防止装置の溶接種別の明確化について記載していますね
広瀬 これは、落橋防止装置の溶接不良問題に対応したものです。溶接不良の一因として、製作会社における設計図面の溶接記号についての認識不足があるため、設計要領第二集橋梁建設編、同橋梁保全編において、鋼製の落橋防止構造を採用する場合の溶接種別(ルート間隔、開先角度、開先深さ等)の明確化について追記しています。
鋼製の落橋防止構造を採用する場合の溶接種別(ルート間隔、開先角度、開先深さ等)の明確化について追記
――設計要領第二集橋梁建設編の4章基礎構造の変更は
広瀬 場所打ち杭の鉄筋かご無溶接工法に関する項目を追加しました。
平成24年道路橋示方書の改定において、場所打杭の鉄筋かご製作時に溶接による仮止めが禁止になりました。その代替工法として、特殊金物による無溶接工法やなまし鉄線を用いて堅固に鉄筋かごを製作することになっています。
今回の改定ではそれに従い、場所打ちコンクリート杭の項目に鉄筋かごの製作を追加しています。特殊金物等による無溶接工法については、「場所打ちコンクリート杭の鉄筋かご無溶接工法設計・施工に関するガイドライン(2015年 日本基礎建設協会)」を参考にします。