今後年間700~800億円コンスタントに執行していく必要あり
NEXCO中日本 大規模更新・大規模修繕事業は総額1兆円超
中日本高速道路株式会社
取締役常務執行役員 保全企画本部長
猪熊 康夫 氏
今年度は公表分だけで床版取替工3件
桁補強工1件、のり面修繕工事1件も発注
――今年度発注予定案件は
猪熊 現在公表させていただいている工事として、大規模更新事業に相当する床版取替工などが3件、大規模修繕に該当する桁補強工などが1件、のり面の修繕工事が1件ございます(下表)。
毎年の集中工事期間内での施工を目指す
工期は現在の取替工事の半分
――今後の大規模更新・大規模修繕工事の進め方の工夫は
猪熊 今回、用宗高架橋では東名高速道路の路肩幅が広かったため、上下とも2車線の対面通行により計画をしたところですが、場所によってはそれができない箇所もあります。現実には1車線で通しながら施工しなくてはいけない箇所も出てくると思います。そのための次善策として毎年行っている集中工事の期間内(2~3週間)の中でできるようにしたいと考えています。これは現在の取替工事でかかっている時間の半分の期間です。
大規模更新における橋梁の更新・修繕メニュー
――それはきつい……
猪熊 しかし、15年間で定められた計画の大規模更新・大規模修繕を行うには、現在の何倍ものペースで施工していく必要があります。その中で集中工事のほかにこれらの工事を頻発させて施工するようではお客様に多大なご負担を強いてしまいます。
技術者の確保が重要
IC間規制も念頭に
――大規模更新・大規模修繕はNEXCO3社だけでなく首都高速や阪神高速もほぼ同時期に本格化してきます
猪熊 それも考える必要があります。できるだけピークをずらしつつ箇所当たりの工期を短縮することを関係機関等とも十分協議をさせていただきながら進めないといけないと思っています。プレキャストPC床版自体の供給に不安はありませんが、その運搬や既設床版の撤去、新設床版の取替、床版防水工の施工などの技術者の確保について考える必要があると思っています。
――そのためにもIC間を交通規制することによって大規模更新と大規模修繕を一挙に行うということを考えていくべきではありませんか
猪熊 それも考えています。今年度発注予定の東名高速道路大井松田IC~御殿場IC間(左ルート)では実際にIC間規制を行った上で床版取替や床版防水工その他の施工を行う方針です。しかし、規制日数はできるだけ少なくしたいとは考えています。
詳細設計付、場合によっては測量付で発注することも検討
5,6橋まとめて基本契約 複数年に分けて段階的に施工
――そうすると人手を増やすことで対応することが次善策としてでてきますが、そこらへんをどう考えますか
猪熊 これまでの実績が少ない工種もありますので、今年度、来年度は現場の施工状況を見て、場合によっては歩掛りを取り、反映していくことも視野に入れています。
今年度発注工事の中にも、測量してみると図面と違うという案件もあります。床版形状もストレートがあれば斜角もあり、横断勾配がついていたり、合成桁か非合成桁かという違いもあります、そのため詳細設計付、場合によっては測量付でIC間あるいは5、6橋まとめて基本契約を結ぶことも考えています。具体的には現地で詳細に測量をした上で設計して、現地ごとの走行車両数や施工規模などの条件に応じて、複数年に分けて段階を踏んで施工を行うというような契約方式です。
――ロットが大きくなりかつ、IC間などで区切る契約手法は非常に合理的だと思います。ロットや施工効率面で保全工事を嫌気していた大手ファブも手を挙げる可能性が高くなりますね
猪熊 一方で、このような契約方式では、体力のある限られた企業しか参加できないという声もありますので、損傷状況や通過交通台数など状況に応じて現場条件に合った発注方法を模索していきたいと考えています。
異工種JVが基本
時間の内割を考慮
――なるほど、話を戻しますが先のような契約方式であれば、当然異工種JVが基本になりますね
猪熊 当然そうなると思います。
――床版どうしの間詰コンクリートの打設や床版防水の施工などを考慮すれば、できるだけ規制日数は欲しいというのが実施工する会社の偽らざる本音だと思います
猪熊 当社も規制日数の確保にはできるだけ努力します。その中で、養生が必要な工種はどれなのか? ということを判断し、時間の内割を考慮しながら施工することになろうかと思います。
床版防水はグレードⅡsを追及
グ-スアスファルト基層防水工も検討の余地
――新技術・新工法の採用について
猪熊 通過交通台数が多い箇所については、床版の半割施工での取替などが選択肢として出てくると思います。また、そうした箇所の高機能床版防水工については、集中工事での施工も考慮し、できるだけ短期施工で供用可能な工法(グレードⅡs 4時間で300平方㍍)も追求したいと考えています。グースアスファルト基層を防水工に用いる工法も検討の余地があると考えています。
グースアスファルト基層を防水工に用いる個法も検討の余地 (左)施工状況/(右)断面図(NEXCO総研提供)
継手構造はシンプルな構造に
間詰コンクリート部は耐久性の高い材料を検討
――床版の継手に対する配慮はどのように考えますか
猪熊 用宗高架橋では、床版厚を合理的な厚さにするため従来のループ継ぎ手ではなく合理化継手構造を採用しています。間詰コンクリートについては課題としては認識しており、今後は耐久性の高い材料を採用していくことも検討しています。
4支社に更新チーム、保全・サービスセンターに更新担当課を新設
人員は早期に増員目指す
――大規模更新・大規模修繕事業を効率的かつ迅速に行うためにどのような組織体制・人員配置を行っていますか
猪熊 当社には4つの支社(名古屋、東京、八王子、金沢)がありますが、昨年4月から各支社に更新チームを設けました。同様に昨年4月から御殿場、富士、松本、富山、飯田の5保全・サービスセンターに更新担当課を設けています。今年4月からは、静岡、八王子、大月、彦根、金沢、福井の6保全・サービスセンターに更新担当課を新設しています。
――人員数は
猪熊 そこが問題です。現在は支社が課長1人に担当者2人、各センターが課長1人と担当者1人という体制ですが、各センターの人員は早期に担当者2人の体制にしたいと考えています。
――本社の体制は
猪熊 委員会(中日本高速道路更新事業推進委員会)を設置しています。委員長は私が拝命しており、その下に全体計画、契約・積算担当、技術開発・基準担当、広報・交通規制担当という4つのワーキングチームを作って毎週1回会合を開催しています。構成員は組織横断的に集めており、1チーム10~15人で構成されています。
現地での状況をここにフィードバックし、ワーキングチームおよび委員会で議論した上で会社全体の更新事業の効率化につながる手法を模索・具体化していきたいと考えています。
――今後の更なる組織・人員体制の拡充については
猪熊 現在施工している新設事業(新名神や東海北陸道4車線化など)については2020年ごろに収束が見えてきます。そうした人員をシフトしていくことになろうかと思います。例えば桑名保全・サービスセンター管内の東名阪道は大規模更新・大規模修繕事業を行う必要がある箇所を抱えますが、四日市工事管内の新設事業が終わらないことには現在の交通を流すルートがありません。そうした事業はどうしても(事業だけでなく組織・人員の整備も)後ろに回すことになろうかと思います。
長大・特殊橋耐震 名港トリトン西大橋Ⅰ期線から上部工補強へ
落合川橋の耐震補強も進む
――名港トリトンなど特殊長大橋の補修・補強について
猪熊 名港トリトンは西大橋のⅠ期線(上り線、右写真)から上部工の補強に入ります。橋長758㍍、全幅員16㍍の3径間連続鋼斜張橋で同地に則した地震波を入れて現状を照査すると橋軸方向で桁衝突(飛島高架橋側)、水平支承の変位超過、主塔柱や主桁の塑性化、既存弾性拘束ケーブルの降伏が起き、橋軸直角方向ではウインド沓および水平沓の耐力超過、主塔および主桁の塑性化が起きるため、大規模なダンパーの設置や免震支承への取替、主桁断面の補強が必要になります。2016年秋ごろに事業が本格化します。
ダンパーは長さ約4㍍のシリンダー型制震ダンパーを採用します。定格加重は2,000kN、最大ストロークは650㍉と現在使われているダンパーの約2倍に達するものを使用しています。工事の受注者は瀧上工業株式会社です。
もう一つは中央道の落合川橋です。
落合川橋の全景と橋梁概要
落合川橋は橋長283㍍、総幅員20㍍の鋼逆ローゼ桁+鋼単純鈑桁橋で上部工の耐震補強を行っています(右図および写真)。耐震照査を行った結果、橋軸方向においてアーチクラウン部の降伏、アーチ橋両端から2本目までの鉛直材や補剛桁の降伏、橋軸直角方向でアーチ橋両端から2本目までの鉛直材や鉛直材端部が降伏、またアーチ支点に大きな上揚力が発生するなどの解析結果となり、そのため、アーチクラウン部や鉛直材については当て板補強、鉛直材端部には低降伏点型せん断パネルを設置、アーチアバットとアーチリブ及び横支材(新設)についてはPCケーブルで連結することにより上揚力に抵抗させる対策をとりました。また、補剛桁の降伏対策としては、P1橋台に低降伏点型鋼製せん断パネルを設置することで対応しています。合わせて単純桁部分も支承を免震タイプに取り替えるとともに落橋防止装置としてPCケーブルを設置しています。工事は2014年7月から開始しており今年の11月にも完成予定です。工事の施行者はショーボンド建設株式会社です。
他、長大特殊橋についても今後耐震照査を行い、必要があれば補修補強を行っていく方針です。
――ありがとうございました
(2016年5月19日掲載)
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