延長比の構造物は26%を占める 橋梁は30年超が約5割
NEXCO西日本北九州高速 関門橋を10年間かけてリフレッシュ
西日本高速道路株式会社
九州支社
北九州高速道路事務所長
下登 新一 氏
低濃度PCBや鉛化合物含む塗膜13万5,000平方㍍を塗り替え
RPR工法や塗膜剥離剤、重曹ブラストを活用
――鋼橋の塗替えおよび関門橋などPCBや鉛が含有している塗膜の対策は
下登 関門橋のみリフレッシュ工事の一環として塗替えを行っています。平成23年度から施工中で総面積135,000平方㍍、26年度までに22,000平方㍍を完了し、現在さらに63,000平方㍍を実施中です。同橋は少し特殊でして、亜鉛溶射を下地にしてその上に既存塗膜が塗装されています。また、既存塗膜には低濃度PCBや鉛化合物(主に鉛丹錆止め塗料)が含まれています。そのため、塗膜剥離剤やRPR工法(電磁誘導加熱、左上写真)を用いて既存塗膜層を剥がしたうえで重曹を研削材として用いたブラスト(左下写真)により亜鉛溶射下地を傷めずに塗膜を剥ぎ取り、その上で重防食塗装により塗りなおしています。重曹ブラストは通常の金属系ブラストと違い、あくまで(塗膜剥離剤やRPRで施工後の表面に)残った塗膜を除去するためのものです。重曹は柔らかいため下地の溶射層を傷つけることはありません。ブラスト施工後は表面を全て拭いて重曹を除去しています。その後に再塗装しています。試験施工において付着性能も確認済みです。試験施工時に表面の処理状態、素地調整程度の見本版を作って、現場ではそれと比較することで確認しています。
なお、関門橋以外では、桁端部については金属溶射(主にTAPS)を施工しています。今年度は鞍手IC付近にある長谷川橋の4支承線(316平方㍍)で施工しています。
他の橋梁については今のところ塗り替えはありません。
――高機能舗装の進捗状況と今年度の予定は
下登 北九州高速道路管内の高機能舗装敷設率は平成27年3月末現在で90.32%となっています。現在発注工事は2件15.663㌔あり、現在4.341㌔を完了しています。床版防水についてはほぼ設置していますが、ほとんどがGⅠで今後橋面上の舗装打替や大規模修繕事業の一環としてGⅡを設置していきます。
――さて、その関門橋のリフレッシュ対策について
下登 同橋は本州と九州を結ぶ橋長1,068㍍の3径間2ヒンジ補剛桁吊橋で、供用後42年を経過しています。海峡部である現地条件も影響して劣化が進んでおり、平成23年度から10年間をかけて計画的な予防保全を考慮したリフレッシュ工事に取り組みます。内容は補剛桁の塗替え、腐食しているボルトの交換、床版の補修、舗装の打替え、ケーブルの防錆対策、ハンガーロープの塗替え、支承の取替え、検査路の取替などです。現在は橋台部の床版打替、舗装のみ完了しています。
――具体的な損傷状況をメインケーブル関連から
下登 以前、東側主ケーブルのケーブルバンド1か所を撤去し腐食状況を確認したところ部分的に錆が発生している断面欠損等は無い状態でした。特にケーブル内は常時90%近い湿度に曝されていることも分かりました。吊り橋のメインケーブルの取替は不可能に近く、現実的にはこれ以上の錆の進行を抑制し、長寿命化を図るしかありません。そのため、外面の錆は落とし、ケーブル外面の塗替えを行うとともに内部の湿度を抑制するシステムを導入していきます。
また、ケーブルバンドについては、取替えを予定しています。ケーブルとバンドの合わせ部またはバンドとバンドの合わせ部についてもブチルゴムを挿入し、2成分変成シリコンでコートする対策を施します。加えて点検用のハンドロープや同支柱も取替を行います。
一部で塗膜のひび割れ、剥離が発生
SGめっきを使用した鋼製検査路に取替
――補剛桁の状況は
下登 一部で塗膜のひび割れ(左写真)や剥離が生じています。線支承が腐食や固着により機能しなくなったため、床組みが横方向に拘束されてしまい、活荷重により大きな応力集中が起こってしまって、大きなひび割れが外桁の支点上リブプレートの溶接部に軒並み出ている状況です。検査路にも損傷が進んでいるため、通常の亜鉛メッキより防食性能の高いSGめっき(亜鉛(94%)アルミミニウム(5%)マグネシウム(1%)合金)によって防食した鋼製検査路に架け替えています。スパンが10㍍程度飛んでしまう構造のため剛性を上げる必要もあったため、コストなども考慮した結果、FRPやアルミ製も比較した結果SGめっきを用いた検査路を採用しています。同検査路は本四架橋の海上橋などで実績があります。
支承の腐食状況
――どうしてこのような損傷が起き、床組支点部に損傷が集中したのでしょうか
下登 走行車両の荷重などによる許容応力以上の曲げとせん断の力が加わったことや、リブプレートの下部にある線支承が機能していないため、応力が集中したためと想定してます。
――床組み支点部の補修補強は
下登 支点上リブプレートの亀裂損傷に関してはリブプレートの上側にフィレットをつけた形の板厚19㍉に取り替える方法を採用しました。
――床組の連続化は
下登 関門橋の床組は現在40㍍毎にジョイントがある構造ですが、ジョイント部の維持管理性や走行性の向上のため、床組の連続化の検討しています。
ただし、耐震検討を行うと、床組連続化のために橋台と主塔部にダンパーと固定ケーブルをつけてアンカレイジまたは主塔と床組の間をつないで床組の挙動制御することが必要になります。
また、関門橋のタワーおよび橋台部近傍の既存の大型鋼製伸縮装置は、異音や腐食が発生していますので、その対応が課題です。部分的な解体、清掃と部品交換で済ますか、あるいは全面取り換えを行うか、検討課題です。
橋台部でWJによるはつり、断面修復を施工中
山中、広丸の両高架橋で大規模対策予定
――橋台部は
下登 橋台部のRC床版が大きく損傷しており抜本的な打替えを行いました。橋梁本体の床版の損傷はほとんどありません。また、下関側の橋台壁面で塩害による損傷が進んでおり、まずは駐車場に面しており第三者被害が想定される面についてWJにより全面をはつり断面修復工を施す工事を進めています。
(左)補修中橋台部の全景写真/(右)損傷部の拡大写真
――舗装の打替えおよび防水工の施工は
下登 高性能防水工および舗装の打替えを実施中です。床版も含めた路面対策全てで言えることですが、通行止めは難しく車線規制で対応する必要があり、その際には事前に広く利用者にお知らせし、ご迷惑を最小限に抑える必要があります。
――大規模更新・大規模修繕事業について
下登 今年度の該当箇所はありません。平成28年度は疲労および塩害で損傷している関門道(門司港~門司間)の山中高架橋(90㍍)、広丸高架橋(80㍍)(いずれも鋼単純非合成鈑桁)について調査結果をもとに床版の取替えか部分補修で良いか判断したうえで対策に取り組む予定です。両橋ともトンネルの間にある橋梁ですので、対策にあたっては補修補強工だけでなく交通の切りまわしも慎重に考慮する必要があります。
――ありがとうございました