阪神高速道路堺建設部は、大和川線事業のうち5.5㌔(内0.5㌔は堺市からの受託)を進めている。シールドトンネルは、最小離隔が1㍍を切る条件下での厳しい施工で、FLEXや様々な工法、測定技術を駆使しながら慎重に掘削を進めている。また、同トンネルでは条件により数種類のセグメントを使い分け、内空断面の確保、大規模地震時の損傷制御などに取り組んでいる。詳細を加賀山泰一部長に聞いた。(井手迫瑞樹)
――まず堺建設部の事業概要から
加賀山部長 阪神高速道路(株)は建設中の大和川線のうち三宝JCT~常磐西出入口の手前間5.0㌔ と、堺市施行区間1.6㌔のうち0.5㌔を受託し、施行しています。堺市施行区間1.6㌔のうち1.1㌔と松原市内の区間2.7㌔は大阪府が施工しています。堺市施行分の分担は少し複雑で地下掘割構造都とたて坑含む常磐西ランプ部は当社、シールド施工部及び常盤東ランプ部は大阪府が所管します。また、舗装以降の工種(薄皮施工)は当社が全て施工します。大和川線全線の基準統一化を図るため、大阪府さんにも阪神高速道路の基準に基づき設計・施工していただいております。
事業区分
構造概要
シールド工事は往路を完了
往路・復路間の最小離隔は僅か986㍉
――進捗状況は
加賀山 堺市から受託している0.5㌔も合わせて工事進捗率は全体で約7割に達しています。特に土木関係は8割超に達しています。設備(ジェットファンや換気所など)関係は契約が完了し、工場製作に入り出した段階です。
土木関係をもう少し詳しく言うと、開削トンネル部は年内におおむねの施工を完了する予定です。シールドトンネル部は約2㌔ありますが、往路のシールド掘削が完了した状況です。これから反転作業を行い復路のシールド掘削に入る予定です。年内には再発進し1年弱で掘削を完了する予定です。同シールドマシンは外環道のトンネル、首都高中央環状線などに使われているものと同型で、規模は国内で5本の指に入ります。
特徴は往路と復路のトンネル間の最少離隔が986㍉と1㍍を切っていることです。都市内を走ることから用地買収をできるだけ少なくするためのもので、シールド外径12.47㍍に対してこの離隔距離というのはちょっと無いと思います。そもそも当初はこのシールド区間も開削トンネルとして計画されていました。しかし河川やJR、南海、上水道設備など既存の構造物と非常に輻輳する箇所で、上部をオープンにして施工することは事実上不可能なため、縦横断線形を苦慮しつつシールドで工事することになったものです。
往路と復路のトンネル間の最少離隔は986㍉
FLEXシステムを採用
変位と応力を観測しつつ推進圧を制御
――シールド工法の詳細をもう少し教えてください
加賀山 本線の平面線形は最小曲線半径が400㍍程度でかつ縦断勾配は最大3%(ランプ区間は最大7%)に達し、線形としては直線区間が少なく、縦断・平面共に曲線変化があります。なお、泥土圧シールド工法を採用しており、当シールド機では曲線施工をスムーズに行うための中折れ装置を設けています。また、シールドジャッキの推力を状況に応じて制御し、シールド機の姿勢をコントロールするFLEX(シールド自動方向制御)システムを採用しています。
大和川線平面図および縦断図
大和川線シールドトンネル概要図(左)/シールド機(右)
――その外径で離隔が1㍍を切るというのも珍しいと思いますが、地山への配慮は
加賀山 大和川線のシールド工事ではJR阪和線、南海高野線、河川などの重要構造物の直下を施工することになり、地盤変状を極力抑制する必要があります。そこで、シールド機には掘削時に発生するテールボイド(セグメントリングと地山との間に発生する空隙)部の裏込材充填を掘削と同時に行う同時裏込注入管を4基搭載しています。
> また、シールド工事の復路は往路掘削による地盤のゆるみ等の影響が考えられますので、地山探査装置にてマシン直上の地盤のゆるみを確認することができます。また、セグメントの変形による地盤変状を抑制するため、形状保持装置を搭載しています。具体的には往路トンネルのポイント箇所のセグメントに多角的にひずみゲージを設置し、復路の工事で損傷が生じないように変位と応力を観測しつつ推進圧を制御しながら施工します。
設置されたひずみゲージ