全断面取替を標準に
継手構造の評価基準を明確化へ
――大規模更新・大規模修繕を見据えた床版の取り替え工法の見直しについては
広瀬 床版取替工法については今回手を入れました。設計要領第二集橋梁保全編において、床版取替え工法に関する内容(概要、床版形式の選定、プレキャストPC床版・使用材料・設計一般・構造細目)について新規追加および修正を実施しました。
――具体的には
広瀬 基本的に床版取替を行う場合は全断面取替えを標準にしています。また、床版形式はプレキャストPC床版を標準にしています。ただ、合成床版なども考えられるため、適切な要求性能を来年度にも示していかなくてはいけないと考えています。特に床版の継手の性能をどう要求し、評価するかというあたりは基準を決めていかねばならないと考えます。現状でもループ継手を標準にエンドバンド継手(オリエンタル白石)、合理化継手(川田建設)などがありますが、今後も新たな継手構造が出てきそうですので。
――使用材料や設計一般・構造細目の新規追加および修正について詳しく
広瀬 プレキャストPC床版に関する使用材料、構造細目等は、新設橋における実績を踏まえて以下のように設定しました。
・コンクリート強度は50N/mm2とし、間詰め部の継手にはループ継手を採用。
・間詰め部は耐久性を考慮し、エポキシ鉄筋とし、膨張コンクリートを標準。
・PC鋼材は1S15.2を標準。
――斜橋の床版取替えについて課題は
広瀬 斜橋の床版取替えで一番課題になるのは端部です。主桁を支える対傾構や横桁の向きによっては、パネルの版割(形状)、製作の仕方も考慮しなくてはいけません。現場に応じた設計・製作・架設がことのほか重要になります。できる限り現場打ちの面積を減らす努力が必要です。
――1橋、1橋に合わせたカスタマイズが必要ということですね
広瀬 そうです。菅野川橋のように斜形のパネルを並べていくこともできる橋がありますが、福島須川橋では、角部で異なる形状のパネルを製作・架設しています。
45°の斜角を有する菅野川橋の床版取替(左)、継手はエンドバンド継手を採用している(右)
福島須川橋の床版取替(左)、継手はループ継手を採用(右)
実績が多くなってくれば、桁形状および二次部材の形状、方向に応じたプレキャストパネルの製作・架設の標準を提案できるようになるかも知れません。
また、床版を取り替えるにあたって主桁に与える影響についても今後考える必要があります。元々、合成桁で設計している橋梁が問題です。非合成であれば、主桁のことをあまり考えなくても良いのですが、合成桁だと床版の剛度も期待して橋を製作していますから、床版を一回外して、再度取り付ける場合、主桁へどういう影響が出るのか、具体的にはスタッドの数が多く、プレキャストパネルで施工するのは大変です。それではスタッドを切り飛ばし再設置するのか、存置し再利用するのかも考慮しなくてはいけません。今後の課題です。
縦目地部に非金属性のせん断キーを採用
ピーエス三菱と共同開発
――全断面が標準といっても、やはり半割施工が必要な個所はどうしても出てくると考えます。そうした場所への対応を昨年度から研究されていたと聞きますがその成果は
広瀬 半割施工の際に生じる縦目地部は取り替え箇所の全延長に及び、塩害などにより劣化しやすくなります。そのため継手部を非鉄部材にするとともに接合面にプレストレスを導入することで劣化を生じにくい構造を開発しました。
――具体的には
広瀬 横締PC部材にプレグラウトPC鋼より線とポリエチレンシース、マッチキャストにガラス繊維強化プラスチック材料(GFRP)を用いた非金属性のせん断キーを用いることで、接合部を錆びさせず劣化させない半断面床版取替工法をピーエス三菱と共同開発しました。接合部のコンクリート表面には(接合時に通常のプレキャストコンクリートと同じく)接着剤を塗布しますが、合わせて段差などの形状を設けることでズレを防止しています。
半断面床版取替工法
半断面床版取替工法の施工手順
また、床版はプレテンション構造を採用しているため、半断面完了後すぐに交通開放できます。また、一体化後は接合部にストリンガー(縦桁)を設置せず、荷重に抵抗できます。耐久性能は100年相当の輪荷重載荷疲労試験により確認しました。同構造は取替え床版形式の1つとして今次の要領にも追記しています。今後現場での試験施工を行い、課題の洗い出し、修正を行っていく方針です。