場合によっては再注入するとマクロセル腐食を引き起こす可能性
フェールセーフ的に外ケーブルで補強
――では、次にコンクリート構造物についてはどのような改定を行っておられますか。PCグラウトの再注入の研究もされておいでと聞いていますが
広瀬 PCグラウトの充填不良箇所が確認された場合には、PCグラウトを再注入することを基本としています。なお、再注入については基礎研究を行っています。元々、空洞があってそこに高い塩分が入っているグラウトがある場合、再注入するとマクロセル腐食電流が流れてしまうという問題があって、腐食が促進されてしまうという事態に陥ることが分かってきました。理論的には言われていたことですが、それを今回、実験で確認しました。
――それは非常に大きな知見であると同時に、対応策が必要ですが
広瀬 電気化学的なモニタリングやプレストレス導入工法等を検討する必要があります。そもそも経年の割に劣化していない箇所は空気や水、その他の劣化因子は入りにくいと考えられます。但し、損傷を生じ、重症化するケースもあります。そうした場合に対応するため、PC鋼材の破断およびPCグラウトの充填不足が確認された橋梁については状況や調査結果に応じて、鋼材破断が確認されていない場合でも外ケーブルによる補強、モニタリングを実施することを設計要領第二集橋梁保全編に追加しました。
実構造物は安全側に造っていますから、仮にケーブルが半数破断したとしても直ちに構造物に大きな影響が出るということはないのですが、フェールセーフとして外ケーブルで補強することにしました。モニタリングは、外ケーブルの張力を測定することで(張力が上がった場合、既設ケーブルの一部が破断したとみなす)判断する手法です。
合わせて、実材料強度を用いた設計、PRC設計の活用による合理的な設計方法の実施についても追記しています。
――PCグラウトの充填不足は特に上縁定着部(平成2年まで標準、平成6年以降禁止)において顕著であるようですが、1990年代後半のノンブリーディング剤の使用以前以後でも大きな画期があるようです。NEXCO総研としてはどのように考えておられますか
広瀬 ノンブリーディング剤使用の有無、上縁定着、床版防水をしていなかったことによる影響も大きいと思いますが、PC鋼棒で建設した橋梁について危惧しています。PC鋼棒を使った橋は空隙率が小さくグラウトが入りづらいこと、鋼線の場合は数本破断しても生き残った鋼線が構造を守りますが、鋼棒は基本的に単独の部材ですから破断すると直ちに危険に直結します。時期的な知見は今のところありません。
――そうしたPC鋼線、PC鋼棒の腐食や破断を確認するため、どのような点検手法を用いますか
広瀬 点検は基本的に目視および打音です。損傷が生じている場合は、たいがいクラックや遊離石灰が生じています。そこがケーブルの定着帯か、ケーブルに沿った位置で出たりしているか、など何らかの手がかりがありますので、そこから詳細な調査に入っていきます。
――クラックや遊離石灰だけで判断するのか、それとも錆汁で判断するのか
広瀬 両方ですね。確かにクラックや遊離石灰が出ているだけでPCのシースの中に穴をあけてグラウトを再注入すると逆に空気や水を招いてしまいやぶ蛇になるという指摘もあります。