炭素繊維シートによる鋼部材の補修・補強工法を周知
――他、補修補強関係は
青木 昨年、鋼部材の新しい補強工法としてNEXCO総研では「炭素繊維シートによる鋼構造物の補修・補強工法設計・施工マニュアル」を作成しました。これを今回の改定で周知しています。
――同工法の詳しい内容は
青木 NEXCO総研と長岡技術科学大学(長井正嗣教授、当時)、川崎重工業、新日鉄住金マテリアルズ コンポジット社、倉敷紡績の5者で共同開発した手法で、腐食事例の多い鋼桁端部を主な対象とした炭素繊維シート接着による補修補強工法です。長岡技術科学大学で高弾性CFRPシートによる実物大桁を用いた荷重載荷試験(桁高1.3㍍×桁長7.8㍍)の結果、所定の効果を確認しており、すでに中央道や沖縄道の鋼橋で実績を上げています。
CFRPシートによる補強は主に橋脚の耐震補強やコンクリート橋の補修・補強分野で多く用いられてきました。鋼部材でも曲げ、引張耐力の向上を図る補強工法としては既に要領化されています。例えばトラス橋などの軸力部材や桁フランジの垂直応力への補修などです。
腐食事例の多い鋼桁端部、とりわけ、支点部のスティフナーや近傍のウエブに多く生じていますが、そうした個所は支点部の局部座屈やウエブのせん断座屈の危険性が高くなっています。そうした個所に対しCFRPシートによる工法は、従来の当て板補修と同様に、せん断耐力を向上させることが可能です。
こうした損傷は古い橋に多く、特に張出し長が短い鋼桁+RC床版構造は、外面が風雨に曝されやすく、端部は特に湿潤状態が長くなります。また、積雪寒冷地ではジョイント部からの凍結防止剤の混じった漏水により腐食や断面欠損を生じやすく、現実に生じている個所も散見されることから需要は大きいと考えています。
そうした鋼桁端部の補修補強は、鋼板当て板による補修補強が行われていましたが、部材の重さや施工時のハンドリングの悪さからなかなか対策が進まない状況にありました。高弾性CFRPシートは軽量で施工性にも優れるため、足場も簡素化でき、工期も短縮できます。ハイピアの鋼橋のこうした補強はベントの仮設など足場に大きな費用を要しましたが、CFRPシートによる補強ならば、こうしたものが不要でトータルコストが半減できます。
腐食が進み一部断面欠損した鋼桁 従来の鋼板による補強は部材重量が重くハンドリングが悪い
――補修補強性能はどのような試験で確認したのですか。そもそもシートが鋼部材の変形に対し十分追従できるのでしょうか
青木 各種試験体を用いて①FRPシートの追従性確認試験、②補剛材の圧縮座屈試験、③ウエブのせん断座屈試験および、実物大試験による最終確認を行っています。
従来のプライマーだけでは座屈に伴う大変形に追随できない可能性がありましたので、弾性層としてヤング率の低いポリウレア樹脂のパテ材をプライマーとシートの間に挿入する工夫を施し、一軸圧縮試験を行いました。その結果、鋼材が座屈を起こしても剥がれず追従することを確認できました。
補剛材の圧縮座屈試験では、補剛材下端の腐食を模擬した試験体を用い、無補修およびCFRPシートをフランジへ定着している試験体、定着していない試験体でそれぞれの耐荷力確認を行いました。
その結果、CFRPを貼付けた試験体では、CFRPを鋼換算して算定した予測値通りの補修効果を示し、FRPを鋼換算断面として設計可能なことが確認できました。なおフランジへの定着の有無によって補修効果がほぼ変わらないことも確認されました。
ウエブのせん断座屈試験では、腐食事例を想定して、フランジとの境界部付近に貫通孔を明けた試験体を用いて、繊維方向を45°にクロスで貼り付け、腐食によるせん断耐荷力の低下を補える補修効果があるか試験しました。45°貼り付けするのはウエブの斜め張力場の方向に合わせたものです。
実物大のせん断座屈試験では、無補修の腐食を模擬した試験体において、健全時と比べて約16%の耐荷力低下が見られましたが、これに対しCFRPを貼付けた試験体では、健全時の耐荷力まで回復することが確認できました。
性能確認試験の状況 工法概要図
――具体的な構造及び施工工程はどのようなものですか。
青木 基本的にコンクリート構造物の補強と同じです。表面を研掃し、孔食している部分にはパテを詰め、その後にプライマー、弾性材としてポリウレア樹脂パテを塗布し、高弾性炭素繊維シートを貼り付け、アラミド繊維シートで表面を保護、仕上げ塗装して完了します。シートは上フランジの下端からウエブの補修面を覆い、下フランジ上面に張り出す形で貼り付けます。
素材は基本的に樹脂と繊維シートのみであるため、軽量で狭隘な個所でのハンドリングも優れています。