阪神高速道路は、堺線湊町付近や、神戸線湊川付近、松原線喜連瓜破付近など6つの大規模更新を行っている。いずれも交通が過密な箇所での更新であり、同社の持つ技術力を結集して事に当たらねばならない。長丁場での施工が要求される箇所がある一方で、喜連瓜破橋は、万博までのわずか3、4年(現場施工着手からは3年足らず)での架替えを目指しており、非常に厳しい対応が要求される。一方、通常の保全も、橋梁では毎年の定期点検で2,000件以上のAランク損傷、20件程度のSランク損傷が発見されており、その対応を日々行っている。鋼部材の腐食や錆、鋼床版や鋼桁の疲労亀裂などが散見される一方で、コンクリート橋脚でもASRによる損傷が多発している個所もあり、そうした部分の補修も急務となっている。新技術の開発なども含め、渡辺尚夫保全交通部長にその詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
大規模更新予定箇所
湊町 対象9基のうち1基を発注
フーチングは溶射により防食 その上で鋼・コンクリート複合構造に改造
――進捗中の大規模更新事業の目的と概要、進捗状況を堺線湊町付近から教えてください
渡辺保全部長 堺線の湊町付近に位置する高架橋は1972年に供用された区間で設計示方書は鋼道路橋設計示方書(昭和31年)です。地下街函体直上に高速道路の基礎が設置され、(函体への)荷重軽減のため鋼製フーチングを採用しています。しかし地下水の浸入により、鋼製フーチングに腐食が進行していることから、抜本的な腐食対策として基礎の改造を必要としました。ただ、詳細に調査してみると、腐食はさほど進行しておらず、フーチングはそのまま使えることがわかりました。そのため腐食進行を抑制することと、モニタリングができるようにすることが必要ということになりました。
湊町付近の高架橋とその損傷状況
湊町高架橋リニューアル概要
そのため、対策として、地下街の函体の天端上には止水壁を設け、鋼製フーチング側面にコンクリート製のボックスカルバートを設置し、維持管理空間を確保したコンクリートと鋼の複合構造物へ改造するものです。
現状は、試験工事として対象となる下部工9基のうち1基の発注を済ませています。施工はまだ本体にかかれておらず、施工準備としての街路の支障物撤去と地下埋設物の移設を行っています。また、作業に必要な覆工版設置のための路面嵩上げ(40cm程度)まで施工している状況となります。
路面の嵩上げ施工
――まだ本体工までは至っていないんですね
渡辺 施工方法はほぼ決まっています。しかし、現場はまず地下埋設物の調査に長い時間を要します。現場は「地下埋設物銀座」といっても過言ではない場所ですから。その調整に時間をかけ、ようやく今年の年明けから、現場施工に入ることができました。
――長丁場になりそうですが、今後の工程は
渡辺 覆工版下で鋼製フーチングの周囲にある保護コンクリートをWJにより撤去します。除去後はフーチングの腐食やさびをブラストにより除去し、溶射により防食します。そのあと維持管理空間を確保するためのカルバートボックスを構築します。
――保護コンクリートの撤去にかかる時期はいつごろになりそうですか
渡辺 今年度末の施工着手を目指しています。
――既設コンクリートのはつりにWJを用いると書いていますが、下は地下街です。どのような養生を行って施工するのですか
渡辺 保護コンクリート自体の厚さは知れていますので水量はそれほどでもなく、施工しつつ水やガラをバキュームしていく方法で事足りると考えています。
――ブラスト工はオープンでやるのですか
渡辺 そうです。尤も今回は試験的に全面を除去して溶射しますが、今後はその試験施工と、函体内面の防食状況も確認しながら、全面的なブラストが必要かどうか劣化の状況を見定めていきます。
――コンクリートとの一体化はどのように
渡辺 函体天端部分を一体化して、側面はカルバートボックスを配置し、鋼材表面の腐食が確認できるようにします。
――工期は
渡辺 3基を大阪・関西万博までに施工する予定です。残る6基は万博以降に施工することを考えています。施工する箇所も中央分離帯側になってきますので、規制形態は警察と協議して決めていくことになります。
本工事の元請は鴻池組です。
湊川付近 橋脚増設工事が進捗 T型橋脚の梁長は最大27m超
アーバンリング工法で基礎を施工 橋脚は鋼製
――神戸線湊川付近の高架橋について
渡辺 対象となる高架延長は約400mです。供用年次は1968年で、設計示方書は鋼道路橋設計示方書(昭和31年)です。本橋は国道交差点(東尻池)や運河渡河など制約条件が多く、支間長が長くなることに加え、国道2号の限られた道路敷地内にコンパクトな構造の基礎建設を余儀なくされました。上部工の死荷重軽減を図るため、箱桁が扁平となり、床版および桁に疲労亀裂が数多く発生し、さらには兵庫県南部地震で変形などの被災を受け、補修して再利用したことも亀裂の要因となっており、上部構造の抜本的な対策が必要となっています。
湊川付近の高架橋の状況と損傷状況
基本的には桁の架替えが考えられています。ただ、架替えすると基礎が持たないため、先に橋脚を増設する工事を先行発注しています。こちらの方はすでに現場の基礎工事に入っています。構造は西と東でそれぞれ2連ということになりますが、このうちの東橋の方から先行着手しています。現在、セパレート橋の新設P1の南側と新設P2の施工に入っています。いずれもアーバンリング工法で基礎を作り鋼製橋脚を施工します。施工はMMB・森組のJVです。
湊川付近高架橋下部工施工概要図
湊川付近高架橋下部工手順概要図②
――増設する橋脚の数は
渡辺 7基です。形式は通常の鋼製橋脚4基、張出しの長いT型橋脚は基部がRC構造の鋼複合橋脚が3基です。ピア高は結構高く15m程度はあると思います。
――鋼製橋脚の継手は
渡辺 弊社の設計基準により柱、梁とも現場溶接を基本としていますが、架設検討とそれに関する管理者協議がまだですので未定です。国道2号の規制などが絡みますので、一部添接を入れなくてはいけない可能性があります。
――並行する国道2号は重交通ではないですか
渡辺 通過台数は多いですが、車線数は4車線あり、現在の規制も基本的にはゼブラゾーンのみで済んでいます。しかし、今後は中央分離帯側の橋脚の施工に入るため、その際は内側の1車線を規制することになろうかと思います。
施工状況概要図
工事規制状況
新設橋脚部基礎のボーリング調査/圧入掘削状況
新設橋脚部基礎の配筋状況およびコンクリート打設状況
――このセパレートが開いている箇所に作る新設P3橋脚は門型橋脚にするのですか
渡辺 T型ですね。橋脚高は12m。梁の張出長は12.2mと12.4m(梁長さ27.1m)で計画しています。
――結構な張出し長ですね
渡辺 おっしゃる通りなのですが、この付近も地下埋設物が多く、柱を立てるのは中分側しかなかったというのが実情です。当社では、この程度の張り出し長は施工していますので問題はないと考えています。
――P4、P6もT型橋脚ですか
渡辺 そうです。
――橋脚の建て込みや梁の架設はどのように行うのですか
渡辺 基本的にはクレーン架設を考えています。ただし、既設桁の上空制限を受ける個所は夜間交通規制を行っての移動多軸台車を考えていますが、架設検討とそれに関する管理者協議がまだですので、未定です。
橋脚増設は2022年度末までの完成目指す
支点は既設桁に対して突き上げ応力を低減
――工期はどの程度を考えていますか
渡辺 鋼製橋脚の増設は2022年度末までの完成を目指しています。
――増設橋脚の支承はどのようにかみ合わせますか
渡辺 増設橋脚は、将来桁を架替えた後は荷重を受ける橋脚になりますが、既設桁に対しては、構造系そのものまで変えるような荷重分担は考えていません。桁の活荷重応力を少し受けるよう突き上げて、桁の応力低減を図ります。
――では増設橋脚に入れるのは支承ではない
渡辺 そうです。支点的に突き上げるだけであるため、いわゆる「支承」とは少し違います。既存橋脚間の中間支点に増設した橋脚で桁の曲げモーメントを低減し、既設桁の疲労をこれ以上進まないようにする、ということです。
――既設桁そのものの架替え時期は
渡辺 検討中ですが、2025年大阪・関西万博以前に行うことはありません。時期は検討中です。架替えの際は、神戸線の長期通行止めを検討することになりますが、これが本当にできるのか、関係機関との協議が必要です。
――ただ既設桁は実際に疲労損傷が起きており、そのまま桁を変えない状況が長くなると舗装すなわち走行安全性の面で悪影響が出てくるのではないですか
渡辺 舗装に影響が出ていたのは、兵庫県南部地震の時に部材の取り込み口として鋼床版に開口部を設けた個所があったのですが、そこを溶接で塞いだ結果、溶接部に亀裂が入って舗装に影響が出たものです。神戸線をリニューアル工事した時に、鋼床版開口部の溶接で閉塞していた箇所を全部ボルト添接に変えました。それにより、舗装面に対して影響が出ないようにしています。
湊川付近高架橋の鋼床版損傷対策状況
湊川付近高架橋の鋼床版(左)および鋼桁(右)の亀裂損傷状況
――それ以外の個所では疲労による亀裂損傷は起きていないのですか
渡辺 床組みの鋼床版に関しては、手当てが基本的には終わっています。ただ、桁にも損傷が出てきています。桁の疲労亀裂には2つ要因があります。1つはコーナープレートの溶接部分から発生するもの。もう1つは、活荷重応力から生じる疲労亀裂です。後者は詳細調査を行った際に100か所超を発見して、全部当て板補強しました。コーナープレート部も亀裂が生じていた個所は全部当て板補強しましたが、合わせて溶接部分の仕上げをきれいにするような措置も施しました。溶接部を滑らかにすることで、疲労損傷を生じにくくしています。
――これらの対策は予防保全的観点からも行ったのですか
渡辺 当て板補強は損傷部のみです。コーナープレートの溶接部分の仕上げ対応は予防保全的に溶接仕上げの悪い箇所全てで施工しました。ただ、これらの措置を行っても、長期的にはまた疲労亀裂が生じてくる可能性は否めません。ダイアフラムも省略されており、変形による応力集中を考えると、やはり桁の架替えが必要と考えます。しかも床組みの鋼床版部はかなりの当て板を施していますから死荷重はかなり増えています。
鋼床版(左)および主桁(中、右)の当て板状況
――それは桁の損傷を惹起しかねませんね
渡辺 そのため発生応力を低減する措置を早めにやろうと動いて、ただこの桁は使い続けられない、というのが実感です。
喜連瓜破橋 ヒンジの沈下が顕著
架替えにより対応 連続鋼床版箱桁方式を採用
――次は松原線喜連瓜破橋について。ここは支間中央のヒンジ部が垂れ下がり沈下する状況になっているため、桁下キングポスト形式による外ケーブルで引っ張ることによりさらなる沈下を抑制している個所ですね。ここは松原線自体の交通量も激しく、高架下道路(国道309号、同479号、大阪府道179号)の交通量も多く、大型車混入率も高い箇所ですが、どのように更新していく考えですか
渡辺 同橋は1980年に供用されました。設計示方書は道路橋示方書(昭和53年)です。おっしゃる通りの補強により沈下の抑制はできたものの、沈下量の回復までは至らず、一方で、桁や橋脚柱頭部付近のコンクリート強度の低下も懸念されたため、長期的な耐久性を維持することが難しいと判断し、架替えにより対応します。橋脚自体は健全性が確保できましたので、柱頭部まで撤去して、その上に鋼製梁+支承を架けて、通常の3径間連続鋼床版箱桁を架設します。
喜連瓜破橋の現況
桁下交通量は非常に多い交差点だ/ヒンジ部が24cm沈下している
――床版についてUFC床版は考えませんか。ハニカム型であれば鋼床版と重量は変わりませんよね
渡辺 架設に要する速さが鋼床版の方が優れています。高速を止める期間はできるだけ短くしたいわけで、その点はやはり鋼床版箱桁が優れていると考えています。
――鋼床版は従来の鋼床版ですか。それともNEXCO西日本が中国道リニューアルで用いている高耐久鋼床版のようなものを採用されますか
渡辺 技術提案交渉方式による施工のため、詳細はまだ詰めている段階です。
――松原線の断面交通量および大型車混入率は
渡辺 6万台弱、大混率は10%程度です。
――こういう交差点の上は塗り替えが困難なため、防食はより耐久性の高い溶射を使うケースがありますが、ここではどのような手法を採用する予定ですか
渡辺 通常の重防食塗装を考えています。個人的には、桁を覆う常設足場をセットしたいと考えています。
――NSカバープレートやCusaの類の?
渡辺 そうです。景観的にも配慮できると思います。
――施工着手時期は
渡辺 来年夏頃を考えています。