阪神高速道路の維持管理報文連載
④大規模更新・修繕事業 技術開発(その1) ―RC床版防水材料の評価と新材料開発の方向性―
阪神高速道路株式会社
技術部 技術推進室
谷口 惺 氏
1.はじめに
大規模更新・修繕事業において大きなウェートを占める鉄筋コンクリート床版(以下、RC床版)の劣化対応に着目し、技術開発(技術評価を含む)を行っている事例を紹介する。RC床版は橋面からの水の供給が原因で疲労損傷が促進されることが確認されている1)。RC床版への水の浸入を防ぐため、平成14年に道路橋示方書2)が改訂され、アスファルト舗装を施工するコンクリート系床版上に防水層を設置することが原則とされた。平成19年には、これを補完する資料として、防水層の要求性能や性能試験方法を規定した道路橋床版防水便覧3)(以下、防水便覧)が制定された。
防水便覧では防水性やせん断接着性をはじめとする性能を評価するため、床版を模擬したコンクリート平板を用いた試験方法が規定されている。これらのコンクリート平板は新設床版のように表面が平滑な状態であるが、阪神高速道路の舗装補修工事では、床版を傷つけないよう入念に既設舗装を撤去しているものの、床版の不陸等が原因で切削機のビットが床版に当たり、表面に凹凸が生じる場合があり、舗装補修工事の実態と室内試験に基づく性能評価に差異が生じている可能性がある。
そこで、複数種類の防水層(塗膜系防水層、シート系防水層、複合防水層)を対象に、舗装補修工事を想定したコンクリート平板表面に凹凸のある試験体を用いて性能試験を行い、より性能の高い防水層の品質規格を作成するための基礎資料として、それぞれの防水層の性能を把握した。当社が阪神高速グループビジョン2030に示した「最高の安全と安心を提供する阪神高速」を目指した取り組みの一環として、より性能の高い防水層の基準化を行い、実橋への適用を図ることで、RC床版の長寿命化を図ることを目標に本検討に取り組んでいる。
2.床版防水材料の分類
RC床版上に施工する防水層は、図-1のとおり、シート系防水層、塗膜系防水層、その他床版防水層および防水機能を有する舗装に分類される。シート系防水層は、施工方法により流し貼り型、加熱溶着型および常温粘着型に分類される。塗膜系防水層は使用する材料によりアスファルト加熱型、ゴム溶剤型および反応樹脂型に分類される。さらに、反応樹脂型はウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系およびアクリル樹脂系(MMA)に分類される。また、その他の防水層として、床版表面に生じた微細なひび割れを充填する含浸系材料と塗膜系防水層を組み合わせた複合防水層や、舗装自体が防水機能を有するグースアスファルト舗装も実用化されている。
阪神高速道路では土木工事共通仕様書4)に規定した品質規格を満足する塗膜系防水層またはシート系防水層を使用しており、近年しゅん工した工事では、より施工性に優れる塗膜系防水層が主流で、床版連結部等の特殊部のみシート系防水層を施工している。