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阪神高速道路の維持管理報文連載

③フレッシュアップ工事による維持管理

阪神高速道路株式会社
大阪管理局 保全部
保全管理課長代理

村上 陽二郎

公開日:2017.04.19

1.フレッシュアップ工事の概要

 阪神高速道路は、一日約74万台(平成27年度)と非常に多くのお客様に利用されている。そのため、自動車の荷重を直接受ける舗装・伸縮継手装置などの設備は非常に傷みやすく、昭和39年の供用以降、定期的に補修を実施してきたところである。
 舗装・伸縮継手補修工事は他の補修工事と比べ大きな騒音が発生することから、沿線の方々への影響を考慮すると、夜間の実施は難しい。また、平日に車線規制により工事を実施することも交通への影響が大きいため非常に困難である。そのため施工は交通量の少ない土日祝日の昼間に実施することになるが、年々増え続ける損傷を規制工事のみで実施すると非常に長い工事期間が必要となり、工事渋滞によるお客様への影響も多大なものとなる。
 このようなことから、阪神高速においては、終日通行止めを基本とした大規模補修工事(フレッシュアップ工事)を実施してきた。必要な工事を短期間で集中して行うことにより、お客様や沿道の皆様に与える影響を最小限にすることが可能となる。
 昭和48年の堺線を対象としたフレッシュアップ工事を皮切りに、損傷状況を勘案して1路線ごと周期的にフレッシュアップ工事を実施しており、平成28年度には11月1日~9日の8日間、3号神戸線の尼崎西ランプ~阿波座ランプ間を対象としたフレッシュアップ工事を実施している。

2.フレッシュアップ工事による効果

 平成28年度に実施した3号神戸線のフッレッシュアップ工事では、同工事で実施する舗装・伸縮継手補修等を通常の車線規制工事で実施した場合、工事日数が約190日必要になると試算された。また、比較的交通量の少ない日・祝日の昼間に実施した場合、約4.5年の期間が必要となる。
 これに対して、終日通行止めにより工事の集約・効率化を図ることで8日間の工事期間で完了させることができる。
 この工事期間の短縮により阪神高速の渋滞量を車線規制工事に比べて、約1/10に縮減できると予測しており、これによりお客様の遅れ時間(※)は、のべ約442万時間短縮され、時間便益の損失額としては、約106億円の縮減効果が見込まれると試算した。
 ※遅れ時間とは平常日と工事日の一般道路を含めた総走行台時間の差

3.フレッシュアップ工事における取り組み

①平坦性を重視した伸縮継手先行撤去・後付工法の採用
 伸縮継手前後では、舗装補修を繰返すことにより舗装との段差が生じ、スムーズな縦断線形ではなくなり、騒音・振動の原因となっている。そのような箇所では地元の方からの苦情も多く平坦性の向上が求められている。
 フレッシュアップ工事では、舗装と伸縮継手を通行止めの区間内で同時に補修できるため、通常の規制工事に比べて、路面の平坦性の向上に優れた施工手順を採用できるメリットがある。
 路面の平坦性を確保する上で最も重要となるのが舗装と伸縮継手とのすりつけである。伸縮継手が設置された状態で舗装を施工すると、連続した舗設をすることができず、また人力による伸縮継手へのすりつけが生じるなど平坦性の確保が困難である。
 そこで、路面の平坦性確保のために、先ず伸縮継手の撤去およびアスファルト合材による埋め戻し(仮埋め)を行い、次に埋め戻し部分を含めて連続した舗装の切削及び舗設を行い、最後に舗装高さに合わせて伸縮継手を設置する手順を採用している(図1、写真1)。これにより、舗設の際に伸縮継手へのすりつけが生じないため舗装に凹凸が発生せず、伸縮装置も平坦性が確保された舗装に対して設置することが可能となる。施工にあたっては、切削の段階で仕上がり高さに合うように切削深さを詳細に調整するとともに舗設時においても水糸等を用いて施工高さを調整している。
 また、長年の補修の繰り返しにより、同工法を用いても不陸が解消されない場合は、縦断線形を一から見直し、舗装高さを最適な高さになるよう見直しを行っている。
 縦断修正施工後に実施している振動測定においても振動低減効果が確認されているところである。


図1 伸縮継手先行撤去・後付工法

(伸縮継手撤去後仮埋め部 舗装切削状況) (施工高さを調整しながらの舗設状況)

(舗設後の伸縮継手設置状況)
写真1 伸縮継手先行撤去・後付工法施工状況

②ジョイントレス化の推進
 阪神高速では、可能な限り積極的にジョイントレス化を推進しており、ジョイントレス化についても作業効率や耐久性・施工性の向上を目指した技術開発に取り組んでいる。

◆床版連結工法
 床版連結とは隣り合う床版と床版を繋ぎ合わせる事で連結化を行うジョイントレス化工法の一つである。
 床版連結について施工の効率化を目的とした新たな連結工法を試験的に導入している。従来の工法は、床版打ち替え範囲における新設鉄筋と既設鉄筋の定着に重ね継手ではなく、スタッド溶接による鉄筋継手工法を採用し、床版打ち替え範囲をコンパクトにする工法を採用してきたが、同工法は多工種で部材数も多く作業効率が低いことから改善の余地が多くあった。
 そこで、新たな連結工法では、上段鉄筋は重ね継手とし、下段鉄筋の代わりにハンチ構造の成形鋼版を設置することにより、鉄筋接合の簡略化、鋼版部材の単純化(部材数減)、施工時間の短縮という観点で開発したものである。(図2)


図2 新型床版連結工法

◆埋設ジョイント工法
 埋設ジョイント工法は、隣接する既設PC桁橋間を主に舗装材料を用いて路面を連続化する工法である。
 従来より阪神高速において採用してきたのは、PC桁区間の伸縮継手を撤去し、基層にエキスパンドメタルで補強されたグースアスファルトを用いて舗装を連続化するものであるが、桁の温度伸縮に対しては追従できるものの桁のたわみによる伸縮継手部の回転に対しては耐久性に課題があるため、遊間部の舗装にクラックやポットホールが発生することがあった。  そこで、グースアスファルトよりも変形追従性に優れた高たわみ応力緩和型アスファルトを用いた砕石マスチック混合物(高たわみ性SMA)を代替材料として試験的に採用しているところである。同材料は、試験温度を変えて実施した曲げ試験、曲げ疲労試験、クラック貫通試験の結果から、いずれの温度においても、グースアスファルトよりも曲げ強度、たわみ性、耐久性、ひび割れ抵抗性に優れている。またジョイント部だけでなく、前後の基層も含めて高たわみ性SMAを適用することで施工性、平坦性の向上を図ることができる。施工した箇所において現状において損傷は発生していない(図3)。


図3 改良型埋設ジョイント工法

③安全対策への取り組み
 近年、高速道路上の逆走による事故が多発していることを受け、逆走事故ゼロを目標とした取り組みが全国的に展開されている。フレッシュアップ工事においても、工事区間の出口および本線合流部における大型矢印の路面表示、高輝度矢印版の設置や不法侵入検知装置の設置などを実施している(写真2)。
 その他、安全対策として夜間でも見やすい超高輝度標識への取り替えやカーブ区間の垂直面表示などの安全対策の他、昨年のフレッシュアップ工事においては、新たに追突事故軽減を目的として、渋滞末尾への追突事故が多発するカーブ手前に渋滞発生を知らせる渋滞末尾情報提供装置や追突注意を喚起する看板を設置している(写真3)。
 さらに、本線とランプの分合流部やカーブ区間などにおいては、走行の安全性を高めるためすべり抵抗値の高い密粒度ギャップアスファルト舗装を採用している。


写真2 出口部逆走対策(大型矢印路面表示)


写真3 渋滞末尾情報提供装置
(前方の渋滞をセンサーにより検知し、車のハザードライトをイメージしたライトが点灯)

④沿道環境への影響を軽減する工法の採用
 阪神高速の沿線においては、病院、学校などが近接し、特に配慮が必要であると思われる箇所が多数存在する。
 そのような箇所に対しては、最新の工法を用いて沿道環境への低減を図っている。

◆IHヒーターによる舗装撤去工法の採用
 鋼床版部の舗装撤去において、特に基層(グースアスファルト)の撤去では、従来よりブレーカー等を用いた人力剥取りにより鋼床版からグースアスファルトを剥がしているが、非常に大きな打撃音が発生する。そのため、騒音低減を目的としてIHヒーターを用いた舗装撤去工法を試験的に採用している。
 この工法は、IHヒーターにより鋼床版部を加熱させることでグースアスファルトと鋼床版間の接着層を剥離させ、グースアスファルトを撤去するため、人力剥取りが不要となり、工事騒音を大幅に抑制できる工法である(写真4)。


写真4 IHヒーターによる舗装撤去工法

◆ワイヤーソーを用いた伸縮継手撤去工法
 伸縮継手撤去においては、通常コンクリートブレーカーを使用しているが、非常に大きな騒音が発生する。そこでワイヤーソーを使用した伸縮継手撤去工法「SJS(Silence Joint Slice)工法」を導入している。当該工法はコンクリートブレーカーを使用せずに既設伸縮装置が撤去できるため、工事騒音の抑制を図ることが可能となるものである。(写真5)


写真5 ワイヤーソーを用いた伸縮継手撤去工法

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