事業区間の構造物比率は約8割
NEXCO中日本秦野工事事務所 山岳工事では現場アクセスに苦心、各現場で工期短縮策を採用
中日本高速道路株式会社
東京支社
秦野工事事務所
前 所長
長浜 勲 氏
中日本高速道路(NEXCO中日本)東京支社秦野工事事務所は、新東名高速道路の神奈川県伊勢原・秦野市境から神奈川・静岡県境間の23.9kmの事業を担当している。区間西側は丹沢山麓を通過し急峻で狭隘な地形となっているため、現場へのアクセスとして工事用道路の新設やインクラインなどの建設が求められた。橋梁やトンネルの建設にあたっても現場での制約や工期短縮の点からさまざまな工夫を行っている。実際にどのような施工をしているのかについて、長浜勲前所長(7月1日付で本社 技術・建設本部 建設企画部 建設企画課に転任)に聞いた。
※伊勢原大山ICを除く未開通区間の橋梁・トンネル・IC・SAなどの名称は仮称です。
構造物比率はトンネル59%、橋梁17%、土工24%
区間内には秦野ICと秦野SIC、山北SICを計画
――管内の概要から
長浜 新東名高速道路の海老名南JCT~御殿場JCT間53.3kmの建設事業を厚木工事事務所、秦野工事事務所、沼津工事事務所の3事務所で担当しています。このうち、厚木工事事務所管内の海老名南JCT~伊勢原JCT間は既に開通し、伊勢原JCT~伊勢原大山IC間は2019年内に開通予定です。残る伊勢原大山IC~秦野IC間は2021年度に、秦野IC~御殿場IC間は2023年度に、御殿場IC~御殿場JCT間は2020年度に開通予定となっています。(※編集部注:8月27日に公表された開通予定時期見直しを反映しています)
秦野工事事務所は、神奈川県伊勢原・秦野市境から神奈川・静岡県境間の23.9kmを担当しています。通過市町村は、秦野市が10.9km、松田町が2.2km、山北町が10.8kmです。
特徴としては構造物比率が非常に高いことが挙げられます。東名高速道路の同等区間では構造物比率が約2割ですが、新東名高速道路の当事務所担当区間では約8割になっています。内訳では、トンネル延長が14.2km(59%)、橋梁延長が4.0km(17%)、土工延長が5.7km(24%)です。
事業位置図(NEXCO中日本提供、以下同)
地形は秦野ICの東側と西側ではまったく違います。東側は一部が家屋連担地域で、そのほかは丘陵地となっています。西側は丹沢山麓を抜けていきますので、急峻かつ狭隘な地形です。そのため、西側の構造物比率は約8割に達しています。
――橋梁数とトンネル数は
長浜 ランプ橋を除いた橋梁は12橋です。最長の橋梁は、葛葉川橋の1,013m(下り線)となります。秦野SAの東側に位置し葛葉川や複数の沢を横架する秦野市菩提地区を通過しています。
橋梁一覧表(2019年4月末時点)
トンネルは上下線あわせて18チューブあります。最長は厚木工事事務所と両側から掘削している高取山トンネル(上り線3,855m、下り線3,902m)で、当事務所の所掌は上り線1,573m、下り線1,609m、です。防災等級が「AA」(排煙設備または避難通路、給水栓、水噴霧設備、監視設備などの非常用設備を原則設置しなければならない)の1,500m以上のトンネルが5本あることも特徴です。
トンネル一覧表(2019年4月末時点)
――事業区間内に建設されるインターチェンジ、サービスエリアなどを教えてください
長浜 伊勢原大山ICの次のインターチェンジとして、秦野市西端に秦野ICがあり、国道246号と接続します。特徴は、取付のランプが長いことで約2.3kmあります。
秦野IC完成予想図。上方が新東名高速
スマートIC(SIC)も2箇所に計画されていて、ひとつは伊勢原大山IC~秦野IC間に建設される秦野SAに併設する秦野SICで上下線フルのSICです。さらに、県境付近に東京方面のON/OFFのハーフSICとなる山北SICを計画しています。山北町には東名高速道路のICがなく、初めてのSICとなります。秦野SAは、新東名高速道路・駿河湾沼津SAと同等規模で面積約12万m2の上下線分離型SAになります。
秦野SA完成予想図/山北SIC完成予想図
東側は埋蔵文化財が多く、発掘調査が必要
西側は工事用道路の建設に時を要する
――全体の進捗状況は
長浜 秦野ICの東側と西側で状況は大きく違います。東側の施行命令(JH)は1999年ですが、西側の事業許可(NEXCO)は2006年と7年の差があります。さらに、地形も東側が丘陵地、西側が山岳地ということもあり、東側のほうが工事が進んでいます。
2019年6月末時点では、用地買収率は松田町が100%、秦野市と山北町が99%で、土工、トンネル、橋梁(下部構造・上部構造)工事に全面着手し、20件の工事を契約しています。土工・トンネル・下部工の出来高率では、東側の秦野市が65.2%、西側の松田町30.0%、山北町7.4%、上部工は秦野市で2.8%、松田町と山北町は0%です。
契約工事一覧
――施工にあたって、秦野ICの東側と西側での課題を教えてください
長浜 東側の特徴は埋蔵文化財包蔵地となっていることで、とくに秦野SAには全面的に埋蔵文化財が分布し、深さ方向では最大12層にわたっています。この地に特徴的なものとしては、“天地返し”の遺構があります。これは、江戸時代の富士山の宝永噴火(1707年)で火山灰が畑に厚く降り積もって耕作ができなくなったことから、宝永の火山灰の下の土を掘り起こし、後から降り積もった宝永の火山灰と掘り起こした土の上下を入れ替えて、新たに耕作を行ったものです。また縄文時代の敷石住居も多く出土しています。管内で約23万m2の埋蔵文化財調査が必要ですが、現在、約8割の調査が完了しています。(2019年6月末時点)。
埋蔵文化財の一例
西側は東名高速道路よりも山側に位置しますので、急峻かつ狭隘な地形で工事用道路の建設に非常に時間がかかっています。国道246号から串刺しのように道路をつくっていて、一部は現道の拡幅もありますが、現道がないところは山を切り開いて新設しています。
向原工事用道路(左右写真)
清水東工事用道路
――新設の工事用道路は何本で、延長は
長浜 主なところで5本、最大で約1.2kmです。
――供用後の工事用道路はどうするのでしょうか
長浜 工事完了後は、行政に移管して有効活用してもらう予定です。地元行政も山側の道路がなかったので、維持管理は大変だと思いますが、町の発展のためには将来有効活用できると喜んでもらっています。
工事用道路が完成したとしても、本線が通過する高さは工事用道路面から、さらに80~100m上のところもあります。工事用仮橋やインクライン、工事用エレベーターを設置しないと、現場にアクセスすることができません。その準備工が今年中にほぼ目途がつくという状況です。
――現場着手までに大変な労力がかかるのですね
長浜 そうです。また、現場付近では希少猛禽類も確認されており、それらの保護の観点から、自然環境検討会を設置し、有識者のご意見を頂きながら工事を進めています。