道路構造物ジャーナルNET

トラス橋などの特殊・長大橋を多く抱える

NEXCO中日本八王子支社 中央道中心に長大構造物を補修補強

中日本高速道路
八王子支社
前 保全・サービス事業部長
(現 中日本ハイウェイ・メンテナンス中央㈱取締役経営企画部長)

井口 忠司

公開日:2018.08.21

 NEXCO中日本八王子支社は、中央道、長野道、中部横断道、圏央道、東富士五湖道、安房峠道路など6路線を管理している。都心近傍から山間地など通過路線は変化に富み、管理する橋梁は653橋・約111km、トンネルは64チューブ約67kmに達している(構造物延長については、上下線別カウントのため道路総延長にリンクしない)。中央道を中心に経年劣化などにより損傷している構造物も多く、橋梁床版取替えのリニューアル工事や熊本地震を踏まえた耐震補強工事等を進めているところである。今後管内の構造物をどのように守っていくか同支社の井口忠司保全・サービス事業部長(取材当時、7月から中日本ハイウェイ・メンテナンス中央㈱取締役経営企画部長)に聞いた(井手迫瑞樹)。

653橋を管理 延長比別では鋼橋が約4割超
 トンネルは64チューブ 在来工法は延長比約4割

 ――まず、現在の管内の橋梁とトンネルの内訳からお願いします
 井口 支社が管理する橋梁は全部で653橋です。橋梁延長比別では、鋼橋が約43%、RC橋が約30%、PC橋が約19%、PRC橋が約8%となっています。

構造物比率(NEXCO中日本八王子支社提供、以下注釈無きは同)
 地形的要因や建設時代の関係からPC橋とPRC橋は少なくなっています。供用年次では30年を超える橋梁が約75%。40年以上は中央道が多く、20年未満は圏央道や中部横断道となり、とくに10年未満では中部横断道の橋梁がほとんどとなります。



経過年別橋種構成比率(延長比(上)および延長(下 単位:km)

 トンネルは64チューブで、延長比では在来工法が約39%、NATM工法が約59%です。新しい路線である圏央道はNATM工法となっています。トンネル供用後、20年未満・以上の延長比率は約半分ずつとなっています。10年未満が延長比で約25%となっているのは、昨年開通した中部横断道の増穂IC~六郷IC間(暫定2車線)でNATM工法での長大トンネルが連続しているためです。40年以上は中央道本線が主で延長比約26%です。
 ――路線別の橋梁内訳では
 井口 全体延長約111kmのうち、中央道が約72kmと全体の約64%に達します。圏央道はPC橋が約4kmと路線の約68%を占めます。代表的な橋梁としては、PC・鋼複合橋の裏高尾橋などがあり、ほかにもPC箱桁橋で、架設方法としてはディビダーグ工法が多くなっています。



路線毎の橋種構成比率(延長)及び距離(単位km)

 ――路線別のトンネル内訳は
 井口 全体延長約67kmのうち、圏央道が約24kmと全体の約35%を占めます。あきる野IC~相模原IC間が八王子支社管内で、その間に相模原八王子トンネル(延長約3.6km)など長大トンネルがあります。



トンネルの経過年数ごとの工種別比率(延長比)および同全体比
 中央道は笹子トンネル(延長約4.4km)など約23.3kmで、大月管内にトンネルが多くなっています。長野道は塩嶺トンネル(延長約1.8km)など約6.3kmとなっています。


トンネルの路線別の工種別比率(延長比)および同全体比

PCT桁の間詰コンクリートが塩害により損傷
 伸縮装置からの漏水による桁端部の損傷も顕在化

 ――管内の構造物の管理状況について
 井口 橋梁については雪氷時の凍結防止剤使用による塩害で端部や掛け違い部の損傷が顕在化しています。とくに松本管内はジョイントから水の影響が著しく見られます。八王子管内は凍結防止剤の影響は他の事務所と比べて少ない状況です。中空床版橋の主版上面(中空部上面)への影響が懸念されることから、日常点検による舗装路面の点検を行っています。管内では顕在化した劣化損傷は確認されていません。
 松本管内のPC橋床版部では、T桁橋の間詰め部(後打ちコンクリートの境界部)が凍結防止剤に含まれる塩分が影響した損傷を受けています。学識経験者から意見を頂きながら塩害対策について、技術的な課題などを勉強しています。


PCT桁間詰部の塩害

 また、伸縮装置からの漏水により、塩分を含んだ水が桁端や下部工(かけ違い)に垂れて、支承の腐食やコンクリート部材の損傷が顕在化しています。
 鋼部材は経年劣化が進んでいます。腐食に関しては、桁端部や排水管周辺に不具合部分が多いことが日常点検で報告されています。塗膜劣化については、塗替え塗装を計画的に進めていかなければならないと考えています。
 耐候性鋼材は管内に1橋(長野自動車道の塩尻北IC~松本IC間に位置する鎖川橋)のみですが、環境による適応性からか劣化が進んでいるので、しっかりと取組む必要があります。原因としては、凍結防止剤が巻上げられて、桁に付着したことによります。幸いなことに孔食までは達していませんが、安定錆が形成できないので、早めに塗替え塗装を行う必要があります。


耐候性鋼材端部

 壁高欄および地覆部は、経年劣化と塩の影響で損傷が出やすい状況です。
 トンネルでは、ひび割れや漏水等の変状が見受けられます。しかし盤ぶくれなど緊急性のあるものは中央道ではありません。ひび割れ注入や漏水対策等特定更新工事として対応を開始しています。
 圏央道と中部横断道は比較的新しい路線であるため、大きな損傷は発生していません。中央道をはじめ、変圧を受けているトンネルもありません。内部の空洞は部分的にあり、辰野トンネルで初めてトンネルの特定更新として着手し、充填などの対策を行っています。辰野トンネルでノウハウを蓄積したので、こうした損傷をどのように補修するかというノウハウを次に生かしていきたいと考えています。

辰野トンネルで内空に注入および炭素繊維補強
 冬季の氷柱対策が必須

 ――内部空洞はどのように調べていますか
 井口 非破壊検査で調査をしています。厚さを非破壊で測り、現在の基準で置き換えて、不足している分に対して炭素繊維補強します。
 ――注入して炭素繊維補強を行うのでしょうか
 井口 過去に空洞充填されていますが、今回のリニューアルでさらに調査して、空洞のあるところには注入をしています。
 辰野トンネルの工事から言えることは、在来工法によるものでは、ひび割れは外力をともなう変状よりも初期欠陥によるものが多いということです。また、スプリングライン(打ち継ぎ目)の劣化が発生しています。日常管理において困るのは、冬季の氷柱です。その対策は非常に大変であるため、漏水部の非排水対応を進めています。
 ――受け樋を目地沿いにつけているが、その安全性が怖いという話を聞きました
 井口 氷柱は上で発生するのではなくて、端部で成長して大きくなっています。走行車線に落下するのが問題です。大月と松本管内では毎朝早い時間帯から氷柱の除去対策を行っている状況です。八王子管内でも圏央道で氷柱の除去対策を進めています。


トンネルの変状部位別割合および部位数

道路軸方向のひび割れも確認
 ロッキングピアは10橋

 ――変状が発生しているのは、打ち継ぎ目のみですか。道路軸方向のひび割れは発生していますか
 井口 道路軸方向のひび割れも生じています。辰野トンネルでも出ていて、変状が大きいところは炭素繊維で補強をしています。
 ――古いトンネルは大変ですね
 井口 点検結果をふまえて対策していきますが、本格的にリニューアル工事として補修・補強を行っているのは辰野トンネルが最初になります。早急に対策が必要な(健全度判定でⅣの)トンネルはありませんが、計画的に補修補強対策を行っていきます。
 ――辰野トンネル以外でリニューアル工事が必要なトンネルは
 井口 トンネルのリニューアル工事の対象は19チューブあります。先行した辰野トンネルでの実績を踏まえ、計画的に補修補強を進めていくことにしています。
 ――耐震補強の進捗状況は。NEXCO各社では、ロッキングピアは3年以内の対策、長大橋は10年以内の対策としていますが。まず、管内のロッキングピアの数と状況から
 井口 
管内に10橋あり、本線橋が上下線合わせて6橋(大谷第二橋上下線、天神橋上下線、国立橋上下線)、跨道橋が4橋(原山橋、北原橋、絵堂橋、緑橋)です。10橋とも設計は完了しています。大谷第二橋では工事を実施中です。それ以外は契約手続き中です。径間数は最大3径間です。


ロッキングピア10橋の耐震補強を進めていく

 ――どのような補強方法を採りますか
 井口 基本的にはロッキングピア部分のRC巻き立てと、上部工と橋脚・橋台を剛結して固定化する方法です。


通常の補強(天神橋)

 ――橋脚は上もしくは下の支承だけ残すという方法を取っているケースもありますが
 井口 幸いなことに支社管内のロッキングピアはすべて上下部剛結で設計が成立しました。

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