圧縮強度の特性値が130N/mm2を有する超緻密高強度繊維補強コンクリート
高知県 上吉野川橋吊橋部の床版を『J-Thifcom』で上面補修
高知県は、早明浦ダムに架かる上吉野川橋吊橋部の床版補修を行った。同橋は1971年3月に当時の本四公団が、本四連絡橋を作る前のパイロット工事として建設した橋梁である。橋長321.36m、有効幅員6mの3径間連続鋼吊橋で、吊橋主塔間の中央径間長は250m、補剛桁は3主の床組トラス構造であり、既設床版は180mm厚の天然軽量骨材を用いた当時としては珍しいプレキャストRC床版である。プレキャストRC床版とはいっても、パネル同士の間詰部は延長方向には鉄筋は無く、幅員方向は鉄筋が入っており。それに間詰モルタルを打設した程度である。林業が盛んな地域のダムを跨ぐ箇所に架けられているため、大型車の往来がかなり頻繁で、かつ地域の生活道路としても使用されており、山間の一般道路橋としてはかなり交通量が多い印象だ。今回はその床版を取り替えるのではなく、床版上面を薄くはつり、圧縮強度の特性値が130N/mm2を有する超緻密高強度繊維補強コンクリート『J-Thifcom』を用いて、平均20mm厚で薄層補修し、補修後の床版たわみ量を6/100に抑えた現場を取材した。(井手迫瑞樹)
上吉野川橋全景写真
セメント成分が脆弱化、鉄筋も凍結防止剤の影響で腐食による損傷
床版裏面にも浮きがでている状況
吊橋部床版の総面積は1,500㎡である。橋軸6.6×橋軸直角3mのパネルを敷き詰めて構成されており、床版にはクレーンで設置する時に使われたとみられる吊り治具の切断跡が見受けられる。損傷は主に重荷重の車両走行による疲労と凍結防止剤による塩害が生じており、床版上面は防水層をかけていない影響で脆弱化し、また、鉄筋も凍結防止剤の影響で腐食による損傷が生じている。
上面の舗装撤去し、はつり工、研掃工を行った後の床版上面
より具体的には、表面の軽量骨材そのものの状況は比較的損傷が少ないが、セメント成分が脆弱化し、床版同士の間詰モルタルは相当に抜け落ち、床版全体の一体性が低下している状態になっていた。床版裏面は過去の補強で炭素繊維シート補強を全面貼りしているが、浮きが出ている状況であった。
天然軽量骨材/吊り治具の切断跡
ハンドガンタイプの回転式WJを用いて端部ぎりぎりまで研掃
地覆側を先行打設して、より効率的に補修、敷均し機を用いて一括打設
そのため、舗装を剥がして、電動チッパー+WJ(水圧240MPa、水量30l/m)で脆弱部をはつり取った。既設床版厚は180mm程度で、WJによるはつり厚さは基本2~3mm程度であるが、チッパーによって施工した脆弱部では30~最大50mm近く、鉄筋の裏側まではつり取った個所もあった。WJは地覆近くの端部100mm程度の範囲を確実に処理できるように、ハンドガンタイプの回転式WJを用いているが、端部ぎりぎりまで施工できるようにカバーを角型にし、入念に研掃できるよう工夫した。はつり及びWJは片側1車線4日程度で施工を完了した。
WJの施工は端部ぎりぎりまで施工できるようにカバーを角型にした
J-Thifcomによる上面補修は、下流側についで上流側の順に行った。下流側については、まず地覆側400mm幅程度について、橋軸方向250m全長に人力施工にて先行で打設した。損傷部を先行打設したのは、練混ぜ回数や練混量を把握するため1バッチ当たりの打設延長を2cm厚で定量化するために行ったものである。施工時は片側交互通行で供用しているため、その後の施工において活荷重によって生じるバタつきによるひび割れの発生が懸念される。それを防止する目的で、目地部を先に固める補修を行った。上流側については、間詰部をあらかじめ充填し、その後地覆側400mm幅程度と中央側に上下線打継ぎ目地用の300mm幅程度の型枠を配置して先行打設し、残りの部分を両端の400mm幅と300mm幅の先行打設部にレールを設置して、敷均し機を用いて一括打設した。
上吉野川橋主径間補修図
地覆側400mm幅程度と中央側に上下線打継ぎ目地用の300mm幅程度の型枠を配置して先行打設するための準備
後地覆側400mm幅程度と中央側に上下線打継ぎ目地用の300mm幅程度の型枠を配置して先行打設
間詰部は20mm深くはつりこみ、炭素繊維グリッドを中間部に配置
電動レイキやフィニッシャによる転圧で高い品質を確保
間詰部については、一般部より20mm深くはつり込み、40mmの打設厚とした。さらにJ-Thifcom打設厚の中間には炭素繊維グリッドを間詰部と両一般部にタップするように配置(橋軸方向に150mm)し、J-Thifcomで炭素繊維グリッドをサンドイッチするように打設することで継手部のたわみ抵抗性とひび割れ抵抗性を向上させている。なお、間詰部のJ-Thifcom打設前には最下層に砂を入れて転圧し、J-Thifcomが下に抜けないよう配慮している。
先行して補修する前の間詰部
間詰部へのCFRPグリッド配置/間詰部の施工
打設施工は、性能とのトレードオフで少し手間を要する。水セメント比は17%とセメントリッチであり1㎥当たりのセメント量は2tに達する。「きわめてねっとりとしたコンクリートであるが、チクソトロピー性(揺変性)がある」(サンブリッジ)ため電動レイキで施工すれば流動性は担保でき、その後の高周波振動フィニッシャによる転圧も可能であるため、良好な品質が確保できる。
混錬作業中のJ-THIFCOM/製造されたJ-THIFCOM/ねっとりとした性状
電動レイキによる施工
フィニッシャによる転圧
左官仕上げおよび養生作業
打設が完了した床版上面
また、既設との界面には接着剤を塗布する必要がなく、ある程度の水分を散布するだけで確実な接着強度を確保できる。接着剤の施工および養生も不要であるため施工面の効率化を図ることができる。
片側1車線の打設に要した期間は4日
片側1車線の打設には4日間かかった。レール引き用の先行打設と、損傷部の先行補修、間詰部の施工を最初の2日間で行い、最後の2日間で残る大部分を施工した。
J-Thifcomの打設完了後の上面には、改質Ⅱ型TOP5mmを薄層で施工した。
舗装まで完了した状況
施工に要した人員は、WJはつりが5人、打設18人、J-Thifcomの練混ぜに10人をそれぞれ配置した。
補修に関する調査は第一コンサルタンツ。工事の元請は四国開発。一次下請はサンブリッジ、二次下請は四国ニチレキ、コンクリートコーリング。