西日本高速道路九州支社は、九州縦貫道鳥栖JCT~久留米IC間の宝満川渡河部にある宝満川橋上下線の大規模リニューアル工事を進めている。同橋は上下線とも1973年に1964年鋼道路橋設計示方書に準じて設計された橋長154.7m、有効幅員14.5mの鋼3径間連続5主鈑桁橋で、支間長はいずれも48.0+57.5+48.0mである。横断勾配は2%、縦断勾配は-0.11%~0.16%、斜角は60°と非常にきつい。また直下の宝満川はH.W.Lが非常に高く桁下10cmに迫るほどの河川である。上下線とも一日交通量は約35,000台超、断面交通量7万台を超える重交通路線であり、大型車混入率も非常に高くなっている。既設床版は210mm厚のRC床版で、当初は防水工を施工しておらず、防水工を設置したのは、供用から実に四半世紀以上が過ぎた2000年12月(上り線)、2001年12月(下り線)であった。これを220mm厚のプレキャストPC床版に取り替える。施工にあたっては重交通であることを考慮して片側3車線中、2車線を確保しながら3断面に分割して施工する手法を採用している。縦横目地とも間詰め材に超高強度繊維補強コンクリートを採用しているが、縦目地部については1パネルにつき3本のポストテンション方式の横締めPC鋼材も併用している。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)
宝満川橋一般図(側面図・平面図/断面図)
宝満川橋遠景
疲労や浸水、塩害により既設床版が損傷
断面交通量は7万台 第2車線部の施工はセパレート規制
損傷状況
同橋は上下線とも1973年に供用された橋梁であり、上下線のRC床版とも下面は被りコンクリートが剥離して鉄筋が露出、一部鉄筋が腐食膨張によってコンクリート爆裂が生じている状態であり、床版上面も被りコンクリートが薄く、下面同様の損傷が生じている他、一部土砂化も進んでいる状況にある。交通量が多く、大型車混入率も相当数に上ることや床版防水を長期間設置していない状況から、疲労や浸水による損傷が生じていることは想像に難くない。構造物内の塩分濃度も高く鉄筋近傍の塩化物イオン濃度は1.77kg/m3と発錆限界値(1.2kg/m3)を超える量が検出された。同橋のパネル損傷率は床版取替の目安となる40%を超えたことから、今回床版取替を選択するに至った。床版取替面積は上下線合計約4,800㎡である。
床版の損傷状況
床版取替上の課題
床版取替上の課題となったのが、その立地条件と交通量である。同橋は宝満川渡河部にあり付近に断面交通量70,000台を超える交通量を転換できる迂回路は無い。そのため、交通影響を如何に最小限に抑えつつ、床版取替を行うかが課題となった。その結果、採用されたのが3断面に分割した床版取替工法と、それに応じた道路規制の導入である。
現場は1月から入ったが、まず正月明けからGW前までの期間に上下線の追越し車線、GW明けからお盆前までがセパレート規制により、第二走行車線部、最後に第一走行車線部をお盆明けから11月にかけて施工した。いずれも施工時は3車線を一時的に2車線に規制して施工したが、一番難しいのが、セパレート規制時である。
交通規制概要図
施工スケジュール
同規制時は規制延長が最も長く、2,854mに達する(他2つはいずれも1,954m)。同規制時はまず手前で第一走行車線を規制して、その後に第一走行車線と追越し車線側にセパレートさせて車を走行させるもの。安全対策として、手前側の第一走行車線でテーパー長を400m程とり、さらに並行車線部を200m程確保している。並行車線部については、舗装に自発光式道路鋲を置いて、路面を光らせ注意喚起に努めた。施工ゾーンは前方7割をコンクリート防護柵で固めて安全を確保すると共に、後方3割はポストコーンを配置して、トレーラーの出入りや退出時の加速がスムースに行えるよう、規制を長く確保した。
また、いずれの規制時も2インター手前から料金所や跨線橋などに注意喚起の設備を配置するなど、ドライバーへの周知に努めている。
斜角60°の斜角なりにパネルを製作し、場所打ち部を最小限に抑制
パネル数は合計390枚 横締めPC鋼材を一列につき3本配置
プレキャストPC床版の特徴
床版取替は全幅17.5mのうち、第一走行車線(路肩側)が6.5m、追越し車線(中央分離帯側)が6m、セパレート規制によって施工する第二走行車線部が5mという幅員で3断面に分けて施工している。橋軸方向のパネル長はいずれも1.9mで、間詰幅は210mmとした。施工サイクルは、1日2~3パネルを撤去・架設している。斜角が60°ときついが、新設プレキャスト床版のパネルは斜角なりに製作し、場所打ち部は両端の伸縮装置手前の約50cmに留め、最小限に抑制している。同部分も50Nのコンクリート圧縮強度を確保しており、プレキャスト床版と同等の強度を確保した。
床版構造
パネル数は1列あたり65枚でありこれを上下線とも3列配置するため、合計390枚のパネルを設置する。床版はいずれもSNC(福岡県粕屋郡志免町)の工場で製作した。パネルは全て、内部は裸鉄筋、継手部と高欄との接合部の鉄筋のみエポキシ樹脂塗装鉄筋(安治川鉄工製)を採用している。
縦目地と横目地の交差個所
3分割施工のため、今次現場では横締めPC鋼材を一列につき3本配置している。縦目地部は横目地部に用いる超高強度繊維補強コンクリートで十分対応可能だが、間詰部付近でもひび割れを許容しないため横締めPC鋼材を配置したという事である。但し床版架設時には従来、シース継手同士の雄雌のカップラーが施工上の邪魔になっていたが、それを回避するため、本現場のパネルは架設時はジョイントシースをパネル内に格納し、架設後にそれを引き出して隣り合う床版内のシースと接続する構造としている。
ジョイントシース/床版に貼られたカメレオンコード
新設プレキャスト床版は全てカメレオンコード(日本で初めてのカラーバーコード技術)を貼り付けている。同コードの中に、橋名、(床版の)製造工場、製造日、水中養生開始日および終了日、1週間強度、28日強度、工場出荷日、現場の入着日時、入着時受入担当者、据え付け日、据え付け担当者、出来型調書がデータとして入力されているものでICTを利用して品質管理の一元化を図っている。カメレオンコードそのものは現状、直射日光により2年程度で劣化するが、最終的にはカメレオンコードと床版のロット番号を紐付けることにより、製作時情報をロストせず、維持管理にもつなげていくことができる。大林組が中央道の松ヶ平橋の床版取替で始めた試みだが、現在では同社が施工する床版取替の8割でカメレオンコードを実施しているということだ。