仮桟橋構築、ICT活用の取組み、NATMによるトンネル掘削を見学
国土交通省兵庫国道事務所 洲本バイパスで学生を対象とした現場見学会を開催
(仮称)炬口トンネルは約65%の掘削が完了
防音扉2枚設置、電子雷管の使用など、騒音、振動対策を実施
(仮称)炬口トンネルは延長963m、縦断勾配は起点側(炬口)から終点側(宇山)に向けて約1.8%の上り勾配となっている。NATM工法により2020年12月に起点側から掘削を開始し、昼夜2交代制で施工を進めており、8月末時点で621m(約65%)の掘削が完了している。
見学会は、鋼製支保工の設置作業、覆工コンクリート打設に用いる移動式型枠(セントル)や施工重機と仮設備などを施工者からの説明とともに見学した。また、周辺環境に配慮した施工方法についても説明を受けた。
地質縦断図および標準断面図 ※拡大してご覧ください/起点側(炬口)坑口(右写真撮影=*)
各工程の説明を受ける参加者(撮影=*)
地山の地質は花崗岩を主体とし、硬質である。しかし、断層や亀裂帯が数箇所で確認されている(地山等級はCⅡ~DⅠ~DⅢでCⅡとDⅠが大部分を占める)。そのため、落盤のリスクを少なくするため、掘削補助工法として小口径長尺鋼管先受工および一部で小口径長尺鋼管鏡ボルト工を採用した。湧水は約50m3/日が発生しており、水脈に当たる箇所では湧水対策を実施している。また、本工事全体で発生する約97,000m3の岩ズリは、兵庫県および洲本市と連携して盛土に活用したり、民間圃場整備(農地の区画整理、農道や用排水路の整備など)事業にて活用している。
岩ズリは盛土や民間圃場整備に活用する(撮影=*)
掘削作業ではドリルジャンボでφ45mmの孔を削孔し、深さ約1.2mの位置にエマルション系含水爆薬(アルテックス)を装薬している。爆薬は地質、安全性、効率性、コストを総合的に考慮した結果、ダイナマイトではなくエマルション系含水爆薬(アルテックス)を採用した。地山等級Dパターンでは上半先進ベンチカット工法(トンネル上半部を先行して掘削)で、地山が比較的な良質なCパターンでは補助ベンチ付き全断面工法での掘削を行っている。
ドリルジャンボと切羽削孔状況(左写真撮影=*)
発破では騒音、振動、低周波音が発生することから、近隣住民の生活環境を保全しながら作業を進めることが本工事の課題となった。発破の時間帯、制御発破による振動対策や2重の防音扉による騒音対策などを近隣住民と話し合いつつ、環境対策を実施している。なお、振動対策の制御発破は、通常の電気雷管では振動が大きく伝わるため、起爆時間を小型コンピューターとコンデンサーで細かく制御して振動を小さくできる電子遅延式電子雷管「EDD」(カヤク・ジャパン)を採用した。
騒音対策として2重の防音扉を設置した(撮影=*)
鋼製支保工設置と吹付コンクリートの施工は、エレクター付コンクリート吹付機を用いている。2分割された鋼製支保工を同機のエレクターで把持し、後方に設置したレーザートランシットで設置基準となる3点を切羽に照射し、それをガイドにして建込み、各部材をボルトで接合していく。Dパターンはトンネル軸方向1m間隔で下半(側壁部)下部まで、Cパターンは同1.2m間隔で上半(アーチ部)下部まで支保工を設置している。
吹付コンクリートの施工(左)/鋼製支保工の建込み(中央・右 撮影=*)
後方に設置されたレーザートランシット(左写真 撮影=*)
支保パターンによる鋼製支保工設置の違いがわかる。写真左側がCパターン、右側がDパターン(撮影=*)
吹付コンクリートは、セメントに高炉セメントB種を用いて強度18N/mm2、スランプ10cmにて現場練り混ぜしたものをエレクター付コンクリート吹付機に投入してポンプ圧送し、急結剤「デンカナトミックZ」を筒先で添加することで岩盤面に付着、早期硬化するようにしている。吹付厚はDパターンが150mm、Cパターンが100mm。通常は普通ポルトランドセメントによるところだが、六価クロムの検出が懸念されたため高炉セメントB種に変更している。
ロックボルトは、Dパターンでは長さ4.0mのねじり棒鋼を軸方向1.0m間隔、周方向1.2m間隔(19本)、Cパターンでは長さ3.0mのねじり棒鋼を軸方向1.2m間隔、周方向1.5m間隔(15本)で打設している。
ロックボルトの打設
覆工コンクリート天端部打設では圧力計で充填管理 引抜きバイブレーターも使用
脱型時期は積算温度方式を用いて決定
覆工コンクリートはアーチ形状で1スパン10.5m(300mm厚)で施工しており、現場見学会時には3スパン(31.5m)の打設が完了していた。移動式型枠(セントル)は幅約12.2m×高さ約7.4mで、1スパンの打設量は約90m3である。コンクリートは、高炉セメントB種を使用して高性能AE減水剤(夏季は遅延型、その他期間は標準型)を添加、強度18N/mm2、スランプ18cmとしている。
移動式型枠(セントル)/覆工コンクリート打設完了部(撮影=*)
打設順序は、側壁部を打設したのち天端部を充填していく。側壁部は左右均等かつ高さ50cm打設するごとにコンクリート打設口を切り替えつつ、セントル打設窓からフレキシブルバイブレーターを入れ、締固め作業を行う。天端部は吹上方式のコンクリート打設口(吹上口)から充填し、アーチ形状の覆工コンクリートが完成する。
側壁部は左右均等に打設できるように防水シートに赤線で目印を入れている(左写真撮影=*)
側壁部の締固め作業。写真奥にバイブレーターが見える(右写真)
打設にあたっての課題は、特に天端部において所謂逆巻き打設となることから、天端部のコンクリート充填不足、密実性の確保が難しいことだ。
課題の解決として、セントル天端部の中央部と両端部に圧力計を設置して充填圧力の確認を行うことで、コンクリートが隙間なく充填され、充填不足が発生しないよう管理している。また、天端部の軸方向に4本の引抜きバイブレーターを配置しておき、充填圧力を確認後に吹上口とは反対方向(未施工側)に引き抜き、締固めを行いコンクリートの密実性を確保した。
圧力計を用いて充填状況を管理した
引抜きバイブレーターは4本配置
覆工コンクリートの脱型時期は、コンクリートの温度と養生時間からコンクリート強度を推定する積算温度方式を用いて決定している。まず、解析で脱型に必要な強度を導き出し、本工事では2N/mm2を計画脱型強度とした。試験施工で得た若材齢強度試験結果とコンクリート積算温度の相関式にあてはめると、約10時間で2N/mm2に達することが確認できた。1回目の打設でも計測、積算を行い、同様の結果を得たことから、2回目以降は打設後のコンクリート温度を計測することで、所定の強度が発現されていると判断して脱型をしている。実際には打設は昼間に行い、翌日に脱型をしていることから、脱型までの時間は17~18時間を確保できており、所定以上の強度が発現していると想定される。
積算温度計設置状況
防水工はトンネル内への漏水を防ぐために、覆工コンクリートに先立ち、吹付コンクリート面に防水シート(SGシート)を設置するもので、現場見学会時には74mの設置が完了していた。湧水が局所的に多く水みちとなる箇所では、吹付コンクリート面に裏面排水材を設置したうえで、防水シートを設置して、下部に設けた排水溝への導水を確実に行えるようにしている。
裏面排水材の設置(左写真撮影=*)/防水シートの設置
トンネル掘削にともない発生する濁水対策では、坑外に60m3/hの処理能力を有する濁水処理設備を設置している。アルカリ性に偏った排水をpH調整した後、土粒子やセメント分などの濁質を取り除く。処理水のpH値が基準以下になっていることを確認し、海に放流することで環境に影響を与えないようにしている。
濁水処理設備(撮影=*)
炬口トンネル南部工事の一次下請けは、久保工務店(トンネル工)、大和日昇建設(法面工)、全淡クレーン(クレーン工)、イケダプロテック(吹付プラント設備工)、フジテックス(濁水処理設備工)、岡電気工業(仮設電気工)、宮本組(残土処理工)など。
■兵庫国道事務所 「YouTube」チャンネル
https://www.youtube.com/@user-sr4uf5ze4u
・現場見学会で視聴した各工事の施工過程動画アップされている。