SMartD 放電破砕工法を馬蹄形ジベル合成床版の撤去に特化させた技術を採用
1日当たり20箇所、8m程度の延長を撤去できる
床版の撤去・架設
本桁の現況構造は活荷重合成桁であり、フランジ上には馬蹄形ジベルが多数存在する。いかにして既設床版の撤去を行うかが、床版取替における最大の課題である。合成桁は床版撤去後の座屈に対し留意する必要があり、座屈防止のため仮設対傾構を設置し、桁間の床版を先行撤去し、主桁上のコンクリートを最後に撤去する手順としている。その際にネックになるのがこの馬蹄形ジベルである。各施工会社ともワイヤーソーでできるだけ低く、切断する手法をどの現場でもチャレンジしているが、ひげ上の鉄筋部分は容易に切断できるが、根元の文鎮状の厚い部分の切断にはどうしても多大な時間を要してしまう。また、WJでコンクリートをはつる方法もあるが桁下が長良川であることを考えれば、水を使った作業は難しい。そこで本現場では発想を転換し、上フランジ上面のコンクリート全厚をほぼ一括して馬蹄形ジベルと縁切りできる精密衝撃破砕工法「SmartD」を施工し、その後にひげ筋と根元の文鎮状の鋼材を撤去する方法を採用した。
「SmartD」施工状況① 削孔状況(左写真2枚)/薬剤の装填(右写真2枚)
「SmartD」施工状況② 養生状況/養生撤去後の状況/二次破砕状況/床版の分離
「SmartD」施工状況③ 床版の分離・吊り上げ/床版の吊り上げ
SMartD工法は、阪神高速道路などがジョイント撤去時に採用している放電破砕工法を馬蹄形ジベル合成床版の撤去に特化させた技術である。まず事前に解析し検討した配置に従い馬蹄形ジベル周辺に装薬孔を設け、瞬間的に気化・膨張する薬剤のカプセルを装薬する。これに3,000Vの電圧を与え瞬時に気化させることにより、馬蹄形ジベル周辺のコンクリートだけを破砕し、床版コンクリートと桁間の縁を切る。破砕後の床版は4.9tクローラークレーンで吊り上げて撤去する。同工法は1回あたり6mで1日2回、2班体制で施工するため、現在施工している中央分離帯部の場合、上下線G4桁を12mずつ施工している。
コンクリート撤去後は馬蹄形ジベルだけが残るが、ジベル撤去方法も面白い。グラインダーでまずひげ鉄筋部を切断し、残った文鎮状の厚い部分に対して、文鎮状の鋼材と上フランジの隅肉溶接部をコの字型にグラインダーで切れ目を入れる。そしてハンマーでたたくと、「ぽこっと取れる」(同JV・池谷所長)のだ。これを繰り返すことで「1日当たり20箇所(2班合計40箇所)、8m程度の延長を撤去できる」(同)ということだ。その後は、グラインダーで平滑仕上げを行い、上フランジ上面に防食塗装を施し、スタッドの溶植、スポンジ型枠の設置を行っていく。
コの字型にグラインダーで切れ目を入れる
ハンマーでたたくと、「ぽこっと取れる」
はつりおよびケレン状況
上フランジ上面の塗装状況
サスティンジョイントを継手部に採用
エポキシ樹脂塗装鉄筋とECFストランドを使用
床版は全体で936枚のパネルを設置していくが、現在施工している中央分離帯部はその3分の1に当たる312枚、面積にして5,100㎡を設置していく。中分部における1枚当たりのパネル規模は、幅8,260mm×長さ1,994mmで重量は9.55tである。工事着手前を比較し、増設桁と中分部の床版が増加しているため、さらなる死荷重増加を避けるべく、新設床版厚は既設と同厚である190mmとした。これは、継手部を標準のループ継手からサスティンジョイントという上下2段の突合せ継手、間詰コンクリートを160N/mm2の圧縮強度を有する超高強度繊維補強コンクリート『サスティンクリート』を用いることで実現した。継手部の鉄筋強度はSD345であり、鉄筋径は上段がD16、下段がD19を用いている。さらに最下部はいわゆるあご付き構造とし、継手部下面の型枠配置作業を省略できる構造とした。塩害対策としては、耐久性照査を行い、エポキシ樹脂塗装鉄筋(安治川鉄工製)とECFストランド(住友電工製)を使用している。
床版架設状況①
床版架設機とバッテリー台車(井手迫瑞樹撮影)
床版架設状況
今後は中分部と上下線の床版パネル同士で縦継手部が発生するが、縦継手部にもサスティンジョイントを採用する。中分部と上り線、中央部と下り線の床版パネル間は縦継手部を跨ぐ形で横締めPC鋼材を配置し、継手部にもプレストレスを導入する。
サスティンジョイントを採用した
床版架設機は、「裾野~沼津間の床版取替工事で用いたリフターを小型化したもの」(同)を2セット用いている。中分部には架設機(約42t)を2台配置し、橋台側から中央に向かって架設していく。
とりわけ中分部の床版架設においては上下線に挟まれた狭い規制帯の中で、背後のトレーラーから吊り上げ、運搬台車に載せ替える工程が必要になる。左右の供用車線の安全を妨げないため、リープヘル製の80t吊オールテーレンクレーン(ATC)を採用し、旋回半径を極小化して作業に当たった。上下線の床版取替時はG1側外部に旋回できるため国産の100t吊ATCを用いて施工する予定だ。
リープヘル製ATC/門型架設機のコントロールパネル/
新設床版パネルの運搬はバッテリー台車で行っている。中分部の架設機は前後の脚間が12m、左右の脚間が4.5m、メインビームの長さが20mとなっている。現在の中分部の床版架設は、基本的にG4桁上に脚を設置する形で機械を移動させるレールも敷設している。床版の架設は2班(1班15人、内訳:架設班6人、PC床版運搬および上段足場組替班4人、ジベル切断班5人)体制を組み、1日1班当たり6枚、合計12枚の架設を目標として施工していく予定だ。
床版防水は、中分、下り、上りの分割断面ごとに床版上面完了後、GⅡを施工していく。そして基層(FB13、厚さ40mm)、表層(高機能Ⅰ型、同40mm)を敷設して完了となる。床版防水および舗装は一定幅のラップ部を設け、さらにラップ部は防水工と舗装で別位置にすることで、水の浸入が起きにくくなるようにしている。
支承取替は96基
可動部はすべり型積層ゴム支承
橋面下においては、既設支承の取替と既設塗装の塗替えを進めていく。支承取替は96基におよぶ。既存支承は固定部が鋼製のピン支承、可動部が鋼製ローラー支承だった。発錆などの劣化が生じているだけでなく、現行の規格を満足しないため、L2地震時に対する耐力を有するゴム支承に取替えている。取替後の支承構造は、固定部が積層ゴム支承とした。一方で可動部は積層ゴム支承では地震時移動量に対し、必要な寸法が大きくなり桁端に収まらない点、下部工耐震補強を減らすため、支承の可動固定条件を変更しない目的から、すべり型積層ゴム支承とした。
伸縮装置も現況構造は止水構造が劣化しているため、床版取替に併せて、鋼製フィンガージョイントに取替える。
塗替えについては、循環式ブラスト工法の採用を検討している。
同現場ではJV側職員を17人配置、技能者は50人から、最大100人を投入して施工にあたっている。
元請は、三井住友建設・瀧上工業・日本ピーエスJV。主要一次下請は、西和工務店(床版取替)、菅野工業所(主桁補強、足場)、野田クレーン(主桁補強、箱桁架設)、コンクリートソーイング(切断工)、三井住建道路(床版防水および舗装)、三好塗装工業(塗装塗替え)。