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馬蹄形ジベル部の撤去対策にSMartD工法を採用し、スムーズに上フランジ直上のコンクリートを撤去

NEXCO中日本名神長良川橋 上下2車線を確保しながら3分割で床版取替

公開日:2023.10.18

 NEXCO中日本が進めている名神長良川橋の大規模更新工事は、上部工の増設桁架設を完了し、床版架設を開始している。同橋は岐阜羽島IC~大垣IC間の長良川渡河部に位置している橋梁であり、傷んだ床版を撤去して取替を行う工事を進めているが、取替に際し、現行の4車線を維持するため、分離構造となっている上下線中間部の空間へ新たに細幅箱桁形式の増設桁を架設し、その上にも床版を配置することにより、常時4車線を確保できるようにして施工するものだ。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)


名神長良川橋一般図(三井住友建設・瀧上工業・日本ピーエスJV提供以下注釈なきは同)

周辺道路概要図

平均断面交通量は約49,000台、大混率は30% 疲労が卓越した損傷
 上下線の中間部に増設桁を架設して床版を新たに設置し、上下4車線確保しながら3分割で床版取替

 同橋は岐阜県羽島市~大垣市間の長良川渡河部にかかる昭和39年に供用された鋼3径間連続合成鈑桁橋×3連(上下線合わせて計6連)の橋梁である。橋長は630m、現況の有効幅員は上下線それぞれ10.4mで、平均断面交通量は約49,000台、大型車混入率は30%に達している。名神高速道路の岐阜羽島IC~大垣IC間は開通後50年以上が経過しており、当該橋梁においては、輪荷重の繰り返しによる床版の劣化に加えて、凍結防止剤の散布による塩化物の侵入に伴う床版劣化の進行が主な原因とされる損傷(床版下面の浮き・剥離・アスファルト舗装路面のポットホール)が発生している。ただし塩化物イオン量の鉄筋近傍値は1.1kg/m3と高くなく、どちらかといえば、疲労が卓越した損傷である。現状でも渋滞が起きている状況で、従来のように対面通行規制や車線規制による断面分割施工を行えば、大渋滞が発生する可能性が高い。さらに一般道の渋滞も招く可能性がある。そのため、更新工事中に供用車線数を減少させず、大渋滞の発生を防ぐために、同橋の下部工が上下線一体構造であること、上下線が近接していることを利用し、上下線の中間部に増設桁を架設して床版を新たに設置し、上下4車線(車線幅3.25m)を確保しながら中央→下り線→上り線の順に3分割で床版取替を行う手法を採用した。また、他現場のような集中工事期間下での施工ではなく、通年施工を行っている。


施工フロー

 (※下部工編はリンク先参照)
 上部工増設に伴う下部工の補強は既に完了し、このほど増設桁の架設も完了、現在は中央部の床版取替を行っている。
 今回は上部工編ということで、まずは増設桁の架設から報じる。増設桁の形式は、橋長210mの鋼3径間連続細幅箱桁橋×3連である。総延長は既設橋長と同じ630m、桁幅は1.2m、鋼重は1,200tに及ぶ。これを2022年1~3月にP3~P6間、2022年12月~23年2月にかけてA1~P3間、P6~A2間をそれぞれ架設した。


増設桁の設置状況

増設桁はクリアランスを考慮して細幅箱桁
 一時的にG1~G3とG4の桁間を切り離し、G1~G3の桁は供用部と縁が切れた状態で補強

 床版取替は上下線を合わせて、3分割施工で実施することから、上下線の間に新設する増設桁は中分床版架設後の交通開放時において、上下線のG4桁(もっとも中分側の桁)の補強が不要となるような箱桁断面かつ更新後の9主桁状態で決定される箱桁断面としている。


細幅箱桁構造を増桁として採用

 増設桁は、上下線供用下において、中分の隙間に桁を送り出してなおかつ降下させなければいけないため安全面も考慮して、上図のような細幅箱桁構造を採用した。当然、箱桁は既存の鈑桁と比べて剛度が高いため、設計段階でその均衡を取ることに腐心した。とりわけ支間長が70mと非常に長いので既設鈑桁と箱桁のたわみの均衡がなかなか取れない。また、上下線は常時車両が通過しているため交通荷重によりたわみや振動が生じる。その状況で桁架設および既設鈑桁の補強設計にトライアルした。増設桁と既設桁(中分側のG4)は横桁で連結することで、上下線を一体化した構造とし、なおかつ上下線のG4桁は増設桁の剛性を増すことでG4桁に作用する断面力を低減し、補強が不要となるよう調整した。増設桁とG4をつなぐ横桁の仮添接板のボルト孔は、施工段階ごとのたわみや活荷重による振動などを考慮して縦長孔構造とし、本締め時に本添接板に取替える施工方法とした。本添接板設置時においても増設桁の横桁の横桁仕口のボルト孔を現場孔明けとするなど誤差を調整可能な連結構造・施工手順とした。


対傾構を一時撤去

ダブルフランジで桁補強

仮設対傾構の設置と横桁補強

 増設桁とG4を転倒防止のため仮添接板でつなげた後、G4とG3の間の対傾構は全て一旦撤去する。増設桁と繋げたG4に架設した中分床版に活荷重が作用することにより、G3との間のたわみ差は試算すると実に76.9mmに達する。増設桁と繋げたG4とG3が連結したままでは、G1~G3にも活荷重が伝達してしまい、満足な補強効果を得ることができない。そのため、一時的にG1~G3とG4の桁間を切り離し、G1~G3の桁は供用部と縁が切れた状態で補強する。主な補強メニューは支間中央部の上フランジ側にダブルフランジ補強、下フランジ側に当て板補強、中間支点部は、負曲げによる上縁引張に対して外ケーブルで鋼桁にプレストレスを導入し正曲げを与え、かつ上フランジの少し下に板リブを添接するダブルフランジ補強を行う。
 そのあと同桁上の既設床版を撤去し、それが完了した後に主桁補強を実施し、プレキャスト床版の架設を行い、最後に、切断した個所と同じ位置に再度対傾構を設置して繋げていく。

 施工に際してはまず吊り足場を全体にかけていく。吊り足場には施工性を追求し、吊りチェーン間隔が広くかつ、所定の安全性、載荷能力を有するクイックデッキを採用した。



クイックデッキの設置状況

増桁架設 吊下げ台車送出し工法を採用
 施工効率は1日当たり2ブロックで、3径間の架設には2か月程度を要した

 さて、増桁の架設はちょっと特殊な方法を採っている。従来こうした現場では手延べ桁を用いた送り出し架設を行うケースが多いが、橋台背面で増設桁を地組みして、架設するため、路面より高い位置で送出すことになり、供用している走行車両に対して視覚的な圧迫感を惹起することや、桁降下量がかなりの高さに達してしまうため、同手法は採れなかった。


増設桁の設置フロー

 本現場で採用したのは、吊下げ台車送出し工法である。
 機材は門型クレーンと、門型支持架台およびピン架台、運搬台車から構成されている。 上記の3設備を設置する前は、いずれも中分部の高欄を撤去し、仮設防護柵を設置、車線幅を3.25mに縮め、かつG1桁側に振っており、その空いたスペースに機材および門型支持架台およびピン架台、運搬台車を動かすためのレールを敷設して施工している。仮設防護柵は550mmという薄さのものを確保し、上下線の車線幅の減少を最小限に抑制している。


架設機材概要図(ピン架台・運搬台車・門型吊上設備・門型支持架台)

 門型クレーンは、桁下(桁下高は12.3m)のトレーラーから鋼桁ブロックを吊り上げて搬入し、運搬台車に載せ替えるための機材である。そして運搬台車に載せ替えたられた鋼桁ブロックは所定の位置まで運ばれ、さらに隣接するブロック同士の継手を本締めしピン架台(支間あたり11箇所配置)にチェーンブロックによって降下させ、ピン架台に仮置きする。1径間の主桁ブロックの架設完了後は、軌道上に設置した門型支持架台に吊り替えて、主桁ブロックの高さを調整し、キャンバーを合わせて1径間分のボルトの本締めを行っていった。

 施工効率は1日当たり2ブロック(1ブロックは長さ8.6m、桁高2.7m、最大18t)で、3径間の架設には2か月程度を要した。
 通常のベント架設とは違い、増設桁を順次架設するごとに既設桁のたわみ量も変化するため、ピン架台の高さ調整量は、実測値と設計値を比較しながら決定していった。


増桁A1~P3

増桁P3~P6

増桁P6~A2

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