東京貿易テクノシステム(以降「TTS」)が運用しているLeicaレーザートラッカーAT960および計測ソフトウェア(『REGALIS GO!』)が、橋梁製作工場の計測工程において大きな変革をもたらしている。これまでの鋼製メジャーや下げ振り等を使用した寸法計測(1次元)においては各製品の出来形を確認するのみであった。これに対し、3次元座標計測では、製品の出来形のみならず、各ブロック間の取合い等の確認も可能となり、データの有用性が飛躍的に高まった。また計測データは3Dモデルおよびオブジェクトと連動しており、取得した計測データを現場にて3Dモデル上で視覚的に確認できるとともに、エクセルと連動させた自動帳票出力も容易に行うことが可能だ。今後は、計測データを利用して開発中の仮組立シミュレーションを用いることで、仮組立省略にまで結び付けていく方針だ。(井手迫瑞樹)
本体からT-Probeの先端座標を精密に算出することができる
計測距離は最大直径60mまで可能
レーザートラッカーは、本体からでるレーザービームをリフレクター(SMR)に当てることで、本体からリフレクターの中心座標(x,y,z)を精密に算出することができる3次元測定機である。LeicaレーザートラッカーAT960は、リフレクター計測だけでなく、ワイヤレスプローブ(T-Probe)や非接触ハンディスキャナー(AS1シリーズ)を使用でき、ロボット等を使用しての自動計測まで対応可能なモデルである。T-Probe計測は、T-Probe本体に配置されたリフレクターと10個のLEDにより、レーザートラッカーに対するT-Probe自身の位置と姿勢がリアルタイムに認識され、高精度のポイント測定が可能となる。小型かつ軽量で、測定中でもキャリブレーション不要のスタイラス(先の尖った棒状の治具)の付替えなど、ユーザーフレンドリーな設計でバッテリー駆動によるケーブルレスでの測定が可能だ。
レーザートラッカー本体/治具(白いFRP製の部分)とT-Probe(井手迫瑞樹撮影、以下注釈なきは同)
レーザートラッカーのヘッド部分/リフレクター
レーザートラッカーの測定原理(東京貿易テクノシステム提供)
計測距離は最大直径60mまで可能で、高性能プローブを用いることで、計測精度(T-Probe単体精度±35μm)+(リフレクター計測精度(±15μm +6μm/m))の高精度でボルト孔や鋼板の寸法計測などを行うことができる。
本当の意味でのICTを工場製作の分野で達成したい
1点あたりの計測に要する手間が導入当初と比較すると1/12に減少
記者が取材したのは、三井住友建設鉄構エンジニアリング千葉工場での鋼箱桁の部材寸法計測である。「本当の意味でのICT(3Dモデルを活用した生産性向上)を工場製作の分野で達成したい」(同社)という考えのもと、2021年11月に導入した。まず、リフレクターによるボルト孔3点計測を行い、実物の計測ブロックの座標を3Dモデリング(CAD)の座標に合わせることで、計測点を3Dモデリング(CAD)に反映させる。その後、プローブにより角部やボルト孔、フランジとウエブの交点(の座標、中心点、部材寸法)など確認すべき計測を行う。しかし、鋼材にじかにプローブを当てた場合、X,Y,Z方向の3平面を計測しないと計測したい1交点の座標をしっかりと図ることができないが、1平面を計測するには、3点およびダミー点を図る必要があり、さらに1交点を計測するにはそれを3平面、すなわち12点を計測しなければ、真に図りたい1交点を測定することがかなわず、「鋼巻尺や下げ振り、対角計測時の鋼製テープのダレや罫書のずれなどによる誤差は回避できるものの、計測に費やす時間がネックとなった」(同社)。
そこで、三井住友建設鉄構エンジニアリングでは、予め3Dプリンターを用いて部材寸法計測箇所に応じて製作したプラスチック製の計測治具を使うことで、その手間を回避した。治具は計測点にプローブの先端を突っ込むためのくぼみを設けており、治具の厚みなどを予め認識し、計測時に自動修正することで、その1点を計測するだけで交点を測定することが可能となり、1点あたりの計測に要する手間を導入当初と比較すると1/12に減らすことができるようになった。
計測用治具にはくぼみが設けてある
プローブの先端をくぼみに突っ込んで測定する
また、AT960XR導入前の従来計測では計測に2人工、更に計測後の事務所での帳票作成等に1人工の時数を必要としていたが、導入後は構造によっては最小1人工(最大2人工)で計測が可能となり、品質検査用の自動帳票作成と合わせて、大幅な省人化・省力化も図ることができた。
最小1人工(最大2人工)で計測が可能
3Dモデリングの座標に合わせている(三井住友建設鉄構エンジニアリング提供)
各部位の計測値も3Dモデリング上で見ることが出来(左)/エクセルによる帳票出力も容易に行える(中、右)
(三井住友建設鉄構エンジニアリング提供)
三井住友建設鉄構エンジニアリング 今後は夜間自動計測の実現を目指す
TTS 橋梁の補修補強や床版取替分野の計測などの用途にも働きかけていく
三井住友建設鉄構エンジニアリングの曽我明技術本部長は、「2021年11月の導入以降、徐々に計測方法を移行し、現在5橋で約300ブロックの桁計測に用いている。投資効果としては、5年程度でペイできると考えている。今後は、開発中の仮組立シミュレーションと連動させることで、計測スプライスの自動データ作成へと繋げていきたい。また更に、現在はプローブによる有接触で計測しているが、将来的には非接触タイプのレーザートラッカーを活用することで、夕方に対象となる桁を所定位置に設置したら、朝には部材計測が完了している、というような夜間自動計測を実現し、更なる効率化を図りたい。」と話している。
TTSは、既に橋梁ファブ約10社にレーザートラッカーと計測ソフトウェアのパッケージを供給しており、今後も3次元モデルを活用した検査のデジタル管理や仮組立シミュレーション、計測自動化で生産性向上の最大化を目指したい企業向けに販売していきたいと考えている。また橋梁の補修補強や床版取替分野の計測などの用途にも働きかけていきたい考えだ。