神下S391 隣接桁から床版を取り込むことが可能な現場
HSPJを用いたプレキャストPC床版に取替え
神下S391
神下S391は桁に隣接して生田川ランプ【西行出口(下り)】があり、同ランプから床版を取り込むことができたため「施工条件面では非常に恵まれていた」(阪神高速)現場といえる。
神下S391は桁に隣接して生田川ランプ【西行出口(下り)】があった。その場を利用して床版を搬入
桁下から吊上げて床版を搬入できた
仮設対傾構の設置状況
床版架設前に既設桁の仮補剛材として、3主桁の垂直補剛材の配置箇所を中心に幅130mmのL型アングル材を24箇所、上下48本の追加対傾構を配置した。「床版を撤去した段階で合成桁としての機能がなくなっており、床版を把持した床版架設機(機械約6t+新設床版パネル8~10t)が載ると、鋼桁上フランジに発生する圧縮応力が許容値を超過する解析結果」となったためである。
プレキャストPC床版割付図
(左)着工前写真/(中、右)ツライチカッターやグラインダーを使った上フランジ上面の研掃状況
上フランジ上面の研掃状況および防食状況
床版の上フランジは神S360と同様、5mmトップの既設スタッドが残っている。本現場では、S360よりも橋長が短く、ケレン作業を最小限とするため、測量を行い「HSプレストレスジョイント」(以下、HSPJという。後述)の引き寄せ区間と新規にスタッドを溶植する箇所のみツライチカッターで切断し、さらにグラインダーでケレン処理した。上フランジ上面の塗装は、スタッド部に溶接開先用防錆剤を、その他は有機ジンクリッチペイントを塗装した。
60tラフタークレーンと専用の床版架設機を用いて施工
架設機の重量は6t程度に抑えて桁への影響を最小限に
本現場のプレキャストPC床版のサイズは標準版で橋軸1.95m×橋軸直角方向9.5mであり、重量は約8~10t、圧縮強度70N/mm2である。製作は昭和コンクリート工業の熊本工場で行い、ジャストインタイムで現場まで運び、60tラフタークレーンと専用の床版架設機を用いて全部で10枚架設していった。最初の2枚をクレーン架設した後、床版と主桁上に床版架設機が前後できるレールを敷く。3枚目以降は運ばれてきたプレキャストPC床版を1枚目に架設された床版の上にクレーンで置き、さらに床版架設機をクレーンで仮置きされたプレキャストPC床版を覆うような形で配置する。そして床版架設機でプレキャストPC床版を吊り上げ、前方に移動する。架設機は前方の伸縮脚のみジャッキ機能を有しており、段差を降りられる構造としている。所定の位置に到達した後は、鋼桁上のレールを撤去してチェーンブロックで床版を降下し、先行床版側に引き寄せて接合してHSPJにプレストレスを導入する。新しく架設した床版上にレールを敷き、床版架設機は自走してクレーン側まで後退し、次の床版架設作業に入るという工程を繰り返す。
最初の2枚はクレーン架設
3枚目以降の標準施工フローイメージ
クレーンで床版架設機を床版の上に据付ける/床版架設機の降下ジャッキ
床版架設機による施工状況
床版間のシームには接着材を塗布
床版架設機の本現場での運用サイズは橋軸方向4,125×橋軸直角7,600×高さ2,031mmとし、重量は約6tに抑えた。吊り上げ機構は、4点の5t吊チェーンブロックで床版を上げ下げし、装置のフレームが移動することで橋軸直角方向に±50mm、橋軸方向に前方50mm後方200mm位置調整ができる機能を有している。
また、床版架設機のレールの組立て作業を容易にするために、部材を人力で運搬できる重量にし、取外しがし易い構造とした。新設床版にはレールを固定するためのインサート孔を予め作っておき、レールを仮ボルトで固定した。
HSPJ 接合面にオスボルトとくさび形式のメスボルト構造を有する
オスボルト側のナットを締付けることで接合面にプレストレスを導入
プレキャストPC床版の継手構造はHSPJを用いた。高速道路本線においては初採用の工法だ。従来のループ継手の代わりにHSPJを採用することで、通常のPC床版より薄肉化できることや、現場打ちの間詰部を省略できることによる工程短縮効果や、接合部のボルトにプレストレスを導入することにより耐久性を向上することができる。さらに現場でのPC鋼材の挿入やグラウト工を不要とした。
同工法はプレキャストPC床版の接合面にオスボルトとくさび形式のメスボルト構造を有している。挿入部の長さは80mmだが、床版同士は面タッチであり間詰幅はほぼなく、間詰材を打設しない。
床版を桁上面に仮設置した後、センターホールジャッキで床版同士の離隔を残り3mmまで引寄せてから、専用のボルト締付け工具を使用してセグメントタッチさせる。引き寄せが完了したら油圧トルクレンチを使用して、オスボルト側のナットを締付けて接合面にプレストレスを導入することで床版同士の一体化を図る構造となっている。メスボルト内の皿バネに押し付けられた楔型のコマにオスボルトを押し込むことで、ボルトをワンタッチで接合させる仕組みで,接合後はコマとフタの楔機構により引抜き力を伝達する機械式継手だ。オスボルトの上面は箱抜き孔構造になっており、プレストレスの導入はオスボルトを油圧トルクレンチで締めるだけで手軽に行うことができる。オスボルトはプレグラウト樹脂で保護されているため、プレストレス導入後のグラウト作業は不要になっている。
引き寄せ装置で引き寄せ接合する
実際のHSPJ構成部材
床版引寄せ状況/HSPJボルト緊張状況(仮締め)/HSPJボルト緊張状況(一次締め)/HSPJボルト緊張状況(本締め)
床版最終締付け状況/床版架設完了状況
全ての床版の架設が完了した後、プレストレスの確認締めを行い、スタッドジベルを溶植し、床版と鋼桁の間に無収縮モルタルを打設して床版架設は完了となる。
スタッドの溶植/モルタルの打設
床版と桁の接合部の無収縮モルタルには剥落防止機能を付与
床版と桁は、無収縮モルタルを充填して一体化するが、無収縮モルタルの強度は床版の母材と同じく70N/mm2とした。無収縮モルタルには剥落防止機能を付与するため、ポリプロピレン繊維(『バルリンク』)を混入させている。
さらにフランジ上面と床版を繋ぐ部分の型枠はシールスポンジを使わず、床版の下部にインサートを仕込み、上フランジを挟み込む様に型枠を配置する構造とした。挟み込んでいる一方の型枠は透明型枠とし、打設時の充填性を確認できるようにした。
床版設置完了後は、神S360と同様、プレキャスト製のRC壁高欄(ケイコン製)を採用し、施工の効率化を図っている。
ケイコン製のプレキャスト壁高欄を採用した
現場はリニューアル工事期間3日目の夕方から開始し、11日目の夕方には床版上のすべての施工を完了した。新設床版パネル1枚当たりの架設はプレストレスの導入作業も含めて2~3.5時間程度であった。現場で施工に要した人員は、元請技術者が10人、職人が最大で40人/日ということだ。
施工完了状況
元請は清水建設㈱、主要一次下請は㈱進晃(架設)、平野クレーン工業㈱(クレーン)、㈱落合組(型枠)、㈱大阪防水建設社(モルタル打設工)、日本スタッドウェルディング㈱(スタッド工)、日本道路㈱(遮音壁)。床版製作は昭和コンクリート工業㈱、プレキャスト壁高欄製作はケイコン㈱、遮音壁製作は㈱栗本鐵工所。
今次神戸線リニューアル工事の舗装工は鹿島道路、一次下請は東亜道路工業、床版防水工の二次下請は雄交。
阪神高速道路は、こうした取替を必要とする既設RC床版を管内に少なからず抱えている。こうした施工の効率化を図ることのできる工法を用いることで、床版の更新を図っていく方針だ。