阪神高速道路は今春(5月19日午前4時~6月7日午前6時)、3号神戸線京橋IC~摩耶IC間約4.2kmの上下線において終日通行止めを行ってのリニューアル工事を行った。同現場では舗装補修を約62,000㎡で行ったほか、床版取替を2箇所(528㎡と198㎡)で行っている。床版補修としては、鋼床版(対象3,768㎡)のうち、亀裂が顕在化している箇所約500㎡でSFRC基層による補強を行った(SFRC補強非対象の鋼床版はグースアスファルト基層を施工)。RC床版部約32,000㎡で複合床版防水工法を施工した。同防水工法はHI-SPECシール工法(LTタイプ)+タフシールを採用している。また、伸縮継手は147箇所で補修、24箇所でジョイントレス化を行った。人家連坦地での施工であることから静粛性を担保するために、鋼床版のグースアスファルト基層の撤去においてはIH工法、伸縮装置の撤去においてはSJS工法を採用し、騒音や振動の抑制を行っている。 床版取替は1969年に供用した神S360の上下線と神S391下り線(以下、神下S391)で施工した。神S360は橋長30m、全幅員17.6mの鋼単純合成鈑桁(5主桁)である。一方、神下S391も橋長21m、幅員9.5mの鋼単純合成鈑桁(下り線のみで3主桁)という構造になっている。既設RC床版厚は両橋ともに180mmである。桁間隔は前者が3.85m、後者も3.65mと比較的広く、疲労による損傷を蒙りやすい構造となっている。実際に両桁のRC床版ともコンクリートの水平ひび割れや鉄筋腐食などの損傷が顕著であることから、今回取替に至った。(本記事の1P目は床版撤去、2P目はUFC床版を用いた更新、3P目はHSPJ床版を用いた更新が主となっています)(井手迫瑞樹)
阪神高速神戸線リニューアル工事現場
Hydro-Jet RD工法で事前に桁と床版間の接合部コンクリートを除去
新型の鋼製補強材を適用し、コスト・効率を改善
撤去準備工および撤去工
両橋ともに、通行止めを行う前の供用時に、床版下で床版と鋼桁間の接合部コンクリートをWJで斫り、合成機能を担保するための鋼製補強材と特殊モルタルによる仮設材に置換え、通行止め後の床版撤去工程を大幅に短縮するHidro-Jet RD工法を採用した。同工法はWJ時の施工性能向上と使用する水の漏出を防止する足場としてクイックデッキの防水仕様を用いている。通行止め後は、床版を複数台のロードカッターで切断し、床版撤去時に補強材を撤去、スタッドをプラズマ切断するだけで良く、さらにブレーカーでフランジ上面コンクリートをはつる必要がないことで、施工期間の短縮とともに、施工時の騒音・振動を大きく低減できる。
WJ施工状況/足場には防水処理を施している
神S360は、5主桁であり、3桁と2桁に分けた、アンバランスな状況で床版撤去を行う必要があった。そのため床版撤去の橋軸方向の切断は、G3-G2間のG3側に近い位置を分割撤去の切断位置とした。なお、神下S391については下り線だけの3主桁であるため、撤去時のバランスは課題なく施工することが出来ている。
両箇所の床版撤去計画図
本工事では、新型の鋼製補強材(フランジガード)を適用した。開発当初は、WJの切削高さ50ミリに対応した形式(旧型)であったが、WJの精度向上によって切削高さを35ミリ前後でコントロールが可能となったことから、軽量薄型化した補強材を開発していた。この薄型化した補強材は体積が激減したことにより、鉄塊の削り出し製造から、精密鋳物(ロストワックス)での製造に切替え可能となりコストダウンに成功していた。
様々な状況に対応するためにフランジガードの種類を増やした
本工事ではさらにコストダウンを目指し、1本拘束専用の補強材を新たに開発した。この1本高速専用の補強材は形状としては2本拘束を半分にしたものになっている。これによって、①要求されるせん断耐力が大きく、スタッドの間隔が狭い桁端部において、2本拘束と1本拘束とを組み合わせることにより、障害物を回避しながら効率的にフランジガードの配置ができる。②支間中央部のせん断力が小さい箇所では、1本拘束を適用する。これらの対応で、補強材のトータルコストを前回工事(守口線)に対し、50%近く大幅に削減できた。
WJ施工後の桁床版接合部/ここにフランジガードを配置し/モルタルを注入する
次にWJによる切削技術に関しては本工事では、長さ850mmの短尺ノズル(標準は1,200mm)による機械式WJ装置を開発した。神下S391では、各主桁間に、後設の補助桁が2本入っており、主桁間隔は3,650mmであるものの、補助桁を含めた桁間隔は1,000mmを切っていたためだ。短尺ノズルは、長尺と比べて、重心が取りにくく、施工精度が悪くなる。そのため、狙ったところを確実に除去するための機構、調整システムを装置した。この短尺ノズル方式のWJ装置を3セット用意し、1日2箇所を同時に施工した。WJの1日当たりの施工は、解析で算出された1日当たりの施工区間長を超えないように、施工する場所の組み合わせを考慮する。各箇所を必ずしも完全に終わらせるのではなく、日の施工延長が最大となる、効率性を重視した計画とした。1日のWJ施工完了後に、フランジガードを装置し、専用の充填モルタル『ハイプレタスコンHS』を注入した。
施工時はひずみ値と中立軸の位置を計測しながら、上の交通に影響を与えないよう細心の注意を払っている。
神S360 2種類のクレーンとアームローラーを使い分けて既設床版を撤去
神下S391 交差桁の影響を考慮し、クレーンとアームローラーを使用
通行止め後は、直ちに床版の切断、撤去を行う。神S360は上下線5主桁構造であり、中央分離帯がG3桁直上にある。床版の切断はG3-G2間のG3桁近傍(但し主桁は完全にかわす)で実施した。神下S391は、橋軸直角方向に約2mごとに切断して撤去した。両橋とも、昼間はロードカッター、夜間は騒音を抑制するためにワイヤーソーを使って切断した。
既設壁高欄は、全て25t吊ラフテーレンクレーン(以降、『RTC』)により吊切りし、撤去した。高欄は、床版張出部を含む形で、橋軸方向に切断し、床版自体は板状に残す形とした。さらに撤去ブロックごとに切断した後、床版下で鋼製補強材を取り外し、充填したモルタルをはつり出し、既設スタッドを上フランジ上5mm高さでプラズマ切断した。床版の搬出は、桁上の25tクレーン、路下の70t吊RTC及び、床版の架設にも適用する、機体重量の軽いアームローラーの3種類の方法で実施した。
高欄や中分の撤去計画図、左:神S360、右:神下S391
既設壁高欄の切断状況
撤去方法を使い分けたのは、既設合成桁への荷重負担をできるだけ軽減するためだ。神S360は、既設床版全体を37ブロックに分けて切断した。上り線(G2・G3-G5近傍)の切断列は21ブロックにわけ、標準1ブロック当たり長さ1.4m×幅9mで6t以下のサイズとし、中央部10ブロックをアームローラー、両端部11ブロックを25t吊RTCで撤去した。下り線(G5→G1)は16ブロックに分け、標準1ブロック当たり長さ1.85m×幅7.6mで6.5t程度のサイズとし、両端部6ブロックは25t吊RTC、中央部10ブロックは橋梁下の並行道路を規制して据え付けた70 t吊RTCにより吊り上げ撤去した。『時間を少しでも短縮しなくてはいけない集中工事において、並行道路があり、上手く使えたのは条件面で非常に恵まれた』(阪神高速道路)といえる。
神S360の床版撤去施工フロー
カッターによる切断状況
桁下のスタッドジベル切断状況写真
既設床版の撤去状況(左:25tRTCによる撤去、中:70tRTCによる撤去、右:アームローラーによる撤去)
神下S391は、橋軸方向のみ15ブロックに分けて切断、撤去していった。標準1ブロックは長さ1.4m×幅8.5mで5.9t程度のサイズとし、京橋側9ブロックをアームローラー、摩耶側6ブロックを25 t吊RTCで撤去した。摩耶側は、25 t吊RTCの定格荷重やブームの旋回能力などを考慮し、最小で長さ600mm程度、最大で同1,900mmとブロック分けを工夫して撤去した。同橋でアームローラーとRTCを使い分けたのは、京橋側に生田川下り線西行入路が上部を横過している区間があるため、25t吊RTCを据え付けられないためだ。
神下S391 の床版撤去施工フロー
床版撤去状況(アームローラーと25tRTCを使い分けた)
RTCとアームローラーの使い分けは、周辺環境の影響、機材の能力、工期の短縮などを考慮し、決定した。アームローラーは桁への負担が少なく、クレーンのような旋回作業を必要としないため並行道路への影響がない。しかしながら、撤去床版ブロックを把持して輸送する荷重を考慮すると、床版下の縁切り作業(フランジガードの撤去及びフランジ切断)は1パネル毎となる。各RTCを使用して撤去する場合は、対象範囲の縁切り作業を全て先行して行うことができ、「効率性が向上する」という特徴があったためだ。
WJ施工、フランジガードの設置などの準備工は、神S360は2023年1月6日~4月15日に実施し、神下S391は2月7日~3月末にそれぞれ完了した。床版の撤去は5月19日早朝に神S360、同14時に神下S391を開始し、それぞれ22日未明、21日16時には、全ブロックの撤去を完了し、床版架設を担う、鹿島建設と清水建設に引き渡した。
ほぼ床版撤去が完了した状況(神S360)
床版撤去工事の元請は飛島建設。一次下請は第一カッター興業(WJ)、福谷建設(補強材設置およびハンチ部のはつり工など)、佐藤鋼業(ハンチ部はつり工)、ディライト(足場工)、大阪防水建設(足場内防水工)、TBCダイヤモンド(コアボーリング、カッター工)。