道路構造物ジャーナルNET

スパット台船を利用して桁を安定化 P2~P3間114.79mの架設を完了

阪神高速 淀川左岸線(2期)豊崎入路 一括架設ブロックは合計8本のPC鋼より線を使って吊上げ

公開日:2023.06.30

 阪神高速道路は、2025年大阪・関西万博に向け建設中の淀川左岸線(2期)豊崎ICのうち豊崎入路等鋼桁工事にて桁架設を進めている。最大支間となるP2~P3間の施工法を中心に記事をまとめた。新淀川大橋に隣接していることや、河川の特徴から従来の台船を繋留しての桁架設は行えず、また、阪神なんば線などの橋梁が下流にあることから桁ブロックの移動を台船では行えず、右岸側ヤードまで全て陸送し、ヤード内で部材を小ブロック化した上で、550tオールテレーンクレーンで河川上のスパット台船に地組し、現場まで曳航した上、クレーン台船や吊上げ機構で架設していることが特徴だ。(井手迫瑞樹)

河川部の3径間を先行して架設
 現在はP2~P3間114.79mの架設を完了

 豊崎入路等鋼桁工事は、新御堂筋の新淀川大橋に新設主桁を増設し拡幅する①延伸入P1~P3(橋長174m、鋼重952t、鋼2径間連続鋼床版箱桁)、拡幅部から分岐して河川部から淀川左岸線(2期)と同延伸部に繋がる②延伸入P3~P4(橋長72m、鋼重652t、鋼2径間連続鋼床版箱桁(但し、現工事ではそのうちの左岸線2期分の単純桁のみ施工))、料金所を設けた③延伸入P4~2期入P2(橋長120m、鋼重670、鋼2径間連続鋼床版箱桁)、料金所から土工部へと接続する④2期入P2~A2(橋長189m、鋼重655t、鋼4径間連続鋼床版箱桁)の4橋梁を製作・架設する工事だ。


上部工工事個所(阪神高速道路提供、以下注釈なきは同)

 先行して施工しているのが河川部の3径間(①延伸入P1~P3)であり、現在はP2~P3間114.79mの架設を完了している。今回は同架設にスポットを当てる。


延伸部P2~P3間架設概要図

橋脚位置を揃えて、たわみ差の発生が出ないように配慮
 ベントを4基設置 B2,B3ベントは吊上げ架設時の反力も支持

 さて、同橋のP1~P3および将来、延伸部に繋がるP4、P5橋脚までの上部工はいずれも新御堂筋の鋼床版箱桁とつながる構造となる。そのため、橋脚位置を揃えて、たわみ差の発生が出ないように配慮した。
 上部工の施工はまず桁を仮支えするためのベント架設から始まる。ベントはP3 側からP2側へ4基設置した。ベント間距離はP3~B1が13.77m、B1~B2が14.4m、B2~B3の台船と吊り上げ設備により一括架設する部分が55.2m、B3~B4が16.8m、B4~P2が14.3mである。


ベント設備検討図(B1およびB2)

ベント設備検討図(B3およびB4)

ベント設備設置状況

 B1とB4ベントは4本の400H鋼で支持され、B2、B3ベントは倍の8本の400H鋼で支持される構造であり、H鋼の根入れ深さも前者が19~20mに比べ、後者は26.5~27.5mと深くなっている(いずれも中間支持層で支持)。B1,B4ベントは主桁架設時の反力を支持する目的のベントであるが、B2,B3ベントは主桁架設時反力に加えて一括吊上げ架設に伴い発生する反力も支持する構造としている。杭の打設はバイブロハンマー工法、ベント構造の架設は200t吊りクレーン台船を用いた。


ベント設備設置状況

 ベントの設置は4月の第1週目から杭打設を開始し、同4週にはベント構造の架設までを完了した。だいたい杭に2週間、ベント構造の架設に2週間かけたということだ。

左右の先行架設ブロックを200t吊クレーン台船で架設
 P3側は桁幅が急に広くなる構造であるため部分的には箱断面を3分割にして架設

先行架設ブロック
 ベント設置後はまず左右の先行架設ブロックをスパット台船で架設地点まで曳航し、200t吊クレーン台船で架設していく。


先行ブロック架設計画図

先行ブロック桁架設状況1

先行ブロック桁架設状況2


先行ブロック桁架設状況3


先行ブロック桁架設ステップ図

 桁製作はJFEエンジニアリング㈱津製作所にて製作した。1ブロック当たりの長さは7m程度、鋼重は10~15t程度であり、トレーラーによる陸上輸送で右岸の地組ヤードまで運搬した。「右岸側は葦の茂る自然豊かな環境であるが、河川管理用道路として使われている部分があり、今回の桁運搬もそれを利用した。河川を運搬路として使う方法もあるが下流側に架かる橋梁とH.W.Lのクリアランスが厳しく、水深が浅い箇所もあることから大型の背の高いものを運ぶには浚渫などが必要であるため、スピードとコストの面から陸送が適していると判断した」(阪神高速道路大阪建設部 坂井康人 事業調整担当部長)。施工ヤードは奥行き60m、幅75m、4,500㎡の広さを有しており下部工の施工にも使われた。先行架設ブロックおよび一括架設ブロックの地組は、550tオールテレーンクレーンにて実施した。 先行架設ブロックはP3~B2ベント間の約31.37mとB3ベント~P2間の約38.2mである。両ブロックはGW後の5月8日から架設を開始し、15日には完了した。
 その架設は200t吊クレーン台船で架設することが条件となる。それを踏まえて550tオールテレーンクレーンで1ブロック30~40t程度に地組し、300t積みスパット台船に積み込んでいった。現場近くまで曳航した後、200t吊クレーン船で架設していった。P2側は桁幅が狭い(2.5m程度)ため概ね箱断面を左右2つに割る形で架設できたが、P3側は桁幅が急に広くなる構造((4.65m程度)淀川左岸線延伸部と2期線の分岐部であるため))であるため部分的には箱断面が3分割以上となり中間にウエブが存在しない桁ブロックが出てくる。そうした箇所は先に左右のウエブを有する断面、最後に中央部を落とし込む形で架設していった。
 また、ベント杭が下部に存在する部分の側床版部の架設はベントを撤去した後に架設する手順としている。
 先行架設ブロックの架設および本締め完了後、一括架設ブロックの架設前にB1とB4ベントは解体した。


先行ブロック桁の地組状況

約7mを一括吊上げ架設
 合計6本のスパットで台船を固定

一括架設ブロック
 中央部はブロック長47.9m(桁高2.8m、幅3.3m、重さ約170t)であり、吊り材にPC鋼より線(φ28.6mm)とセンターホールジャッキ、吊り材保持機構からなる吊上げ設備により約7m一括吊上げ架設した。隣接する新御堂筋の既設橋脚(新淀川大橋)に極めて接近する位置で架設するため、施工には慎重を期した。
 右岸側のヤードで合計5ブロックを地組し、さらに550tオールテレーンクレーンを用いて、1,000t積台船(長さ40m、幅15m)上で1つの大ブロックに組み上げ、前日までに現場近くまで曳航した。


1,000t積台船地組配置図

台船への地組状況

現場への曳航状況

一括架設ブロック架設計画図

 スパット台船は通常1隻しか運用しないが、一括架設ブロックは吊上げ架設のため既設の新淀川大橋の際まで寄る必要があり、1,000t積スパット台船の既設橋側の2本のスパットは固定することができなかった。2本のスパットだけでは台船の繋留が不安定で吊上げ作業時の安定性に欠けるため、後方に500t級スパット台船を配置し桁を載せている台船とつなげたうえでスパットを降下させ、合計6本のスパットで固定することで吊上げ作業時の安定性を確保することにした。


2つのスパット台船をつなげている(井手迫瑞樹撮影)

 現場では、当日(5月31日)朝に架設位置までさらに進み、台船を吊上げ位置に固定した上で、吊具にPC鋼より線を玉掛けし、9時40分過ぎに地切りを開始した。ジャッキ自体のストローク量は約1mであり、1ストロークのタイムは980mmで9.1分、吊り上げ速度は、毎分約100mm/分とし、リフトアップ+盛替え他を勘案すると吊上げ1サイクル辺りは、960mmで11分程度であった。ただし、新御堂筋に極めて近接していることもあり、要所要所で各部確認を行いながら施工し、12時30分過ぎには、桁を所定の位置まで吊上げ、仮添接作業に入ることが出来た。


吊上げ架設のための設備/片方4か所の吊り点で吊っていた(井手迫瑞樹撮影)



一括架設ブロックの吊上げ架設状況(井手迫瑞樹撮影)

 既設橋との離隔は600mmほどしかなく、擦過を避けるために緩衝材として俵ブイを設置し、さらに歩道部にガードマンを配置して作業に臨んだ。前後の桁ブロックとの支口はハの字型にして入れやすくしているが、それでもクリアランスは10mmほどしかない。そのためP2側を50mmほどセットバックして施工しやすくしている。桁の閉合後はベントを撤去し、側床版を架設していった。


既設桁との離隔はあまりない/仮締め状況(井手迫瑞樹撮影)

 一括架設ブロックの施工は台風が近づいていたために急遽予定を前倒しして施工したが「奇跡的にほとんど風もなく、水面も安定した状態で波立っておらず、理想的な状況で架設することができた」(坂井氏)。

 P1~P2間、P3~P4間は次の渇水期に施工する予定である。

 また、9月からは新御堂筋を一部規制し、現在の上流側(豊崎入路と隣接している部分)歩道部を撤去し、横桁で新淀川大橋と豊崎入路桁を繋ぎ、その上に新しい鋼床版を設置して既設橋梁を拡幅する工事を開始する。その間、上流側歩道部は新淀川大橋の車道部を一部規制して仮設歩道とする。新しい歩道部は豊崎入路桁の最外側に設置する。
 元請はJFEエンジニアリング・横河ブリッジJV。一次下請は寄神建設、ミック、オックスジャッキなど。

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム