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継手部に大成建設が開発したHead-barジョイントを採用

NEXCO西日本 九州自動車道思川橋・本名川橋(上り線)を大規模更新

公開日:2023.07.10

本名川橋トラス桁部 床版撤去は構造を考慮し、全幅を3分割
 側縦桁の損傷が11本 交換した上で床版を架設する手間が必要

本名川橋(トラス桁部)
 トラス桁部は全幅が13mにおよび、トラスの最外側にブラケットおよび縦桁を有する構造となっている。また、過去にPCMを用いた下面増厚を行っている。勾配もきつい。横断勾配は8%におよび縦断勾配も5%に達する。そのためトラス部のクレーンアウトリガーの設置の際には鋼製架台を製作・使用し、縦横断勾配による勾配及び高低差を解消させている。アウトリガー設置位置はトラス主構に荷重が作用するよう配置した。


本名川橋建設時図面

本名川橋上り線一般図(曲線や縦横断勾配がわかる)

下り線を対面通行規制しながら上り線を施工した

 撤去は2主構+4縦桁であることを考え、全幅を3分割する形で施工した(橋軸方向は2mピッチ)。まず路肩壁高欄と床版のラインでワイヤーソーを用いて水平切断し、地覆および高欄を撤去する。次いで床版にカッターを入れて切断していくが、下面増厚時の補強用格子筋があり、思いのほか切断に手間を要した。また、撤去時の既設床版のジャッキアップにあたっては、トラス部材(主構)の損傷を避けるため、スラブアンカー部分のコンクリートを先行して斫り、抵抗を減らしたうえでジャッキアップした。



既設床版は3分割して撤去(井手迫瑞樹撮影)

 橋長は約140mあるが、A1方向は鈑桁の床版取替(前述)を行っており、重機が逃げられないため、P1からA2方向へ片押しで69枚(1枚当たり約13.3m×2mで重量は16t。撤去は3分割のため204枚となる)のプレキャストPC床版パネルを配置していった。1日当たりの施工量は3~4枚ほど。プレキャストPC床版の間詰部及び高欄打設は、思川橋同様の仕様を用いている。


トラス桁上の床版架設状況(写真上部側のクレーンを用いて片押し架設していった)(井手迫瑞樹撮影)

トラス桁部および/単純合成版桁のプレキャストPC床版割付図


本名橋の桁架設状況

 また、トラス部の床版取替で課題となったのが側縦桁の損傷である。「上フランジの腐食が事前にわかっていた箇所が11本もあり、床版を撤去した状態のところで取替え、その上で床版を設置しなくてはいけない」(同)ためである。そうした箇所は11本あり、長さは1本あたり7.5mほどある。損傷要因は中分や壁高欄の隙間からの塩分を含んだ漏水の供給が考えられる。「床版撤去用の足場を組んでからも活荷重振動で、足場上にコンクリート片が落ちていたので傷みは酷かった」(同)ようだ。取り分け、同橋のような古い場所打ちコンクリート床版は上フランジを撒くように打設しているケースもあり、上フランジの側面、下面でコンクリートが剥離しているケースも多かったということで、その撒いているコンクリートのひび割れから水が浸入し、鋼材を腐食させたようである。
 また、床版を撤去している最中も側縦桁の損傷が新たに見つかることもあった。しかし、交換する鋼材は損傷個所に応じて設計し、製作するため、新たに損傷が見つかってもにわかに取替えはできない。そこで、L型の当て板を左右につけてウエブでボルト接合する、または炭素繊維補強シートによる貼付け補修を行って対応した。
トラスの主構については、床版と接続する上面の損傷はなかった。しかし下部の格点部の損傷は生じている。閉断面構造のトラス材であることからワンサイドボルトを用いた当て板補強を検討している。

新設床版の版合わせの難しさ 一枚合わせるのに30分以上かかる箇所も
 床版の張出し長さが変わるとともに版とハンチの相対位置はずれていく

 新設床版の架設において技術的に難しいのは、勾配とRによって生じる新設床版の「版合わせ」だ。横断勾配は8%、縦断勾配は5%、合成勾配は10%を超えている。曲線半径は350m(右写真)ときつい。新設床版は桁に合わせて斜めになるようにおく。しかし版は5%勾配に対応している。場所によって全部高さが変わってきてしまう。さらに線形はR=350(右写真、井手迫瑞樹撮影)ときついが、桁はまっすぐであるため、床版の張出し長さが変わるとともに版とハンチの相対位置はだんだんずれていってしまうため、対策が必要であった。「事前に既設の鋼桁位置は桁下からの3D測量を精密に行い、その結果を反映して床版を製作、架設を行った。」(同)。桁位置とRや勾配の状況に従って版の形が微妙に異なる。そのため「版合わせはすごく難しい。架設は夜間に行っているが、通りも高さも合わせるのが難しく、当初は、一枚合わせるのに30分以上かかる箇所もあった」(同)。


版合わせは難しい/厳しい勾配と曲線であるためだ(右写真は井手迫瑞樹撮影)

 床版は製品誤差もあるため、なかなか完全には合わない。その為、高さ調整ボルト、平面位置の調整を行い、床版の平坦性、舗装幅員を確認し、確保した上で設置した。
 より精密に施工するため、当初は3次元測量を試みようとしたが、既設床版が付いている状態では難しいという結論に至って、途中で断念した。
 床版撤去架設の施工効率については、以前の下り線は側縦桁の交換が1本しかなく、床版取替工の後半は5枚据えることが出来た。しかし上り線は「最初から最後まで桁の交換がある」(同)ため、クレーンの割付けが決まっており、1日当たりの施工効率を上げることは難しかった。

場所打ち壁高欄施工状況


床版設置完了状況

床版防水 オルタックスプレーES-A工法を採用
 火山灰を考慮し、路面清掃を徹底して施工
 

床版防水
 床版・高欄の施工完了後は、床版防水および舗装に移る。高性能床版防水はオルタックスプレーES-A工法を採用した。施工した4月は雨が多く、風向きによっては桜島の火山灰が落ちてくることから、路面清掃や表面含水率の計測を細やかに行い施工した。両橋の舗装厚は標準で80mm(レベリング層40mm:FB13、表層40mm:高機能舗装)であるる。床版防水および舗装施工は両橋全体で約2,700㎡。


高性能床版防水工の施工状況

舗装まで完了した状況(左、右)思川橋、(中)本名川橋

既設塗膜は鉛含有 塗膜剥離剤(ペリカンリムーバーアクア)で除去
 施工足場は SKパネル、クイックデッキ、ダーウィンを採用

耐震補強および塗装
 舗装まで完了した後は、耐震補強や桁の塗り替えに移る。思川橋は既設の鋼製支承(12基)を高面圧ゴム支承に交換する。また約1,600㎡を塗り替える。既設塗膜は鉛を含有している。
本名川橋は、鈑桁部で既設鋼製支承(10基)を鋼製支承に取り替え、落橋防止チェーンを取り付ける。トラス桁部では、既設鋼製支承(6基)を免震支承に取り替える。また、両端の桁かかり長を増やし、桁端部のP1は2000kN、A2は1500kN相当の制震ダンパーを2基ずつ設置する。これは、落橋防止構造も兼ねている。トラス桁部の支承交換に際しては、ジャッキアップ荷重を直接主構で支持させるため、鋼材による補強を施す。また、P1、A2は縁端拡幅、P2は鋼製ブラケットを新たに製作してそれらをジャッキアップ時の反力受けとして用いる。
 塗装は思川橋同様の検討を行っている。塗替面積は鈑桁とトラス桁全体で約7,800㎡を塗り替える。既設塗膜は鉛を含有している。既設塗膜の除去はいずれも塗膜剥離剤(ペリカンリムーバーアクア)を用いる。また、FRP検査路の設置、その他鋼部材の補修設計から実際の補修までも実施する予定だ。
 施工足場については思川橋および本名川橋の鈑桁ではSKパネルを採用した。トラス桁部では中段足場を設ける必要があるため、吊り足場を『クイックデッキ』とし、中段足場をくさび式足場『ダーウィン』を用いている。トラス桁部の足場段数は5段とした。


足場はクイックデッキやダーウィンを採用している

 元請は大成建設、一次下請は極東興和(床版製作)、トラスト工業(床版撤去および架設)、野﨑クレーン(重機)、大成ロテック(舗装)、鎌田建設(足場)、上原塗装(塗装塗替え)、床版防水の二次下請はポリテクノ。


橋面上の全施工が完了した本名川橋(上り線)

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