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継手部に大成建設が開発したHead-barジョイントを採用

NEXCO西日本 九州自動車道思川橋・本名川橋(上り線)を大規模更新

公開日:2023.07.10

 西日本高速道路九州支社鹿児島高速道路事務所が所管する九州自動車道姶良IC~薩摩吉田IC間に位置する思川橋および本名川橋(いずれも上り線)の床版取替を主とする大規模更新工事が進んでいる。両橋とも1973年12月の供用以来50年が経過しており、床版の疲労損傷に加えて、冬季の凍結防止剤散布に起因する塩害が発生している。加えて建設当時の骨材に十分に脱塩処理されていない海砂を使っていたことからそれによる塩害も進行している。そのため抜本的な対策として床版の取替工事を行うことにしたものだ。現場を取材した。(井手迫瑞樹)

 

思川橋 床版防水の施工前に既に劣化していた可能性も
 本名川橋 縦横断勾配がきつく、曲線半径も350mに達する

全体概要
 思川橋(橋長65.95m、2径間連続非合成4主鈑桁)は道路のサグの一番下に位置している。水は橋面からも来るが、橋台方向からも来る。パラペットに凍結防止剤を含む水が供給される感覚だ。同橋は舗装上のポットホールが頻発するため舗装を剥がして確認したところ、床版上面が砂利化していた。増厚は未施工で、床版防水は2012年に施工している。床版防水をしていてもポットホールが頻発しており、床版防水の施工時に床版上面がすでに劣化していたことが想像できる。また、鉄筋近傍の塩化物イオン濃度は1.53㎏/m3と発錆限界値を超えている。凍結防止剤だけでなく内在塩分量も作用した塩害により鉄筋の腐食、断面欠損が確認された。既設床版厚は200mmだった。


思川橋建設時図面および上り線一般図(NEXCO西日本提供、以下注釈なきは同)

 本名川橋は8%の横断勾配と縦断も5%の急勾配であり、R350mの曲線も有している。床版防水は設置しており、床版上面は比較的健全である。鉄筋近傍の塩化物イオン濃度は1.53㎏/m3と発錆限界値を超えており、同橋の床版も未対策部は浮き・剥離による劣化が著しく、ここも床版取替が選択された。既設床版厚は勾配や曲線半径による変化もあり、200~297mmと大きく変化している。


本名川橋の施工前状況

思川橋 床版の撤去・架設は220tATCで片押し施工
 67°の斜角に合わせてパネルを製作 Head-barジョイント継手を採用

思川橋
 思川橋の床版の撤去・架設は220tオールテレーンクレーンを用いてA1からA2方向への片押し施工した。1日当たり8枚の既設床版を撤去し、4枚のプレキャストPC床版パネルを設置する工程を繰り返した。また、同橋は67°と比較的厳しい斜角を有している。


思川橋全景(井手迫瑞樹撮影)


思川橋は厳しい斜角を有する

 既設床版撤去前にまず地覆と壁高端部の全延長を先行撤去する。次いで既設床版撤去は、残る幅員8m分を橋軸方向2mピッチで2分割(1ブロック当たりの重量は約5t)して切断して220tオールテレーンクレーンで撤去していった。但し斜角を有する同橋の既設配筋を考慮して両端部は扇型にカットし、中間部を桁に対してセンターになるように切断撤去するという手法を採った。また、200mmの既設床版厚であるが、鉛直カッターは180mm+αしか刃を入れず基本的には剥離で剥がす。そのため「ハンチ箇所(厚さ約100mm)には多少コンクリートが残る」(元請の大成建設)。そうした箇所は手斫りを行い、ハンチ筋を出して溶断した。
 当初は「撤去を多めに取らないと新設の床版を4枚施工するサイクルにできない」ため、夜20時くらいまで施工した。
 溶断後はフランジ上面をグラインダーでケレンして有機ジンクリッチペイントを塗布し、シールスポンジ(『トメルンダー』)を設置していく。


思川橋床版架設計画図/同床版割付図

 次いでプレキャストPC床版は67°の角度を付けたパネル(橋軸2m×幅員10.0m)を30枚配置した。面積は合計600㎡。通常部のパネル重量は約13t、最大16tとした。
 間詰部の打設はパネルが橋梁全体の半分ほど設置された段階でまとめて施工している。継手構造は元請の大成建設が開発したHead-barジョイントを採用することで、間詰幅を165mmほどに縮めた。斜角が無い場合には、最小110mmまで縮めることが可能であり、他の継手構造より床版の弱点を減らす事が出来る。また、プレキャストPC床版の強度は50N/mm2であるが、間詰材は97N/mm2の高強度繊維補強モルタル(リペアメントFE)を打設し、「Head-barジョイント(D19 )と97N/mm2の超高強度繊維補強モルタルを使うことで継手部が弱点とならない構造にしている」(大成建設)。リペアメントFEはセメント袋1個に対し繊維の袋1個を用いて定められた水量を加え、現場で用いる達磨ミキサーで混練して、製作したモルタルをミキサーから直接打設、または、ネコで運んで施工していった。床版と桁との接合部は無収縮モルタル(デンカプレタスコン)を打設した。ただし、床版下面より上のスタッドジベル孔は床版と同じ配合のコンクリートで打設している。



床版架設状況(井手迫瑞樹撮影)


思川橋床版設置状況(井手迫瑞樹撮影)

 床版の撤去・架設作業は、騒音対策を含め、音の出る作業(床版撤去作業、上フランジのケレン作業)を昼間作業で実施し、床版の架設作業を夜間作業とした。床版撤去・搬出から床版架設、揚重機の移動までを1日に行うサイクルとした。新設床版の架設が1日最大4枚なのは、揚重機(220tオールテレーンクレーン)の作業半径および作業時間を反映して計画したものだ。
 壁高欄は、当初設計通り場所打ちで施工した。壁高欄は基本的には裸鉄筋であるが、Vカット部のクロス鉄筋と床版と地覆の接合部にはエポキシ樹脂塗装鉄筋を用いて塩害に備えている。
 施工上の注意点はやはり斜角(67°)対応である。これにもHead-barジョイントが効いている。Head-barジョイントは2段配置としており、引き抜きせん断力が高く、鋼繊維が入っているため横断鉄筋がいらない。またせん断キーを設けており、モルタルがずれないようにしている。施工も簡素化できるし、設計も合理的に行える。課題はHead-barのジョイント部(D19)が比較的大きく、床版架設中に継手同士が激突したり擦過したりして損傷する点だ。
 これについては「経験のある一次施工会社の手を使うことによって損傷が生じないようにした。床版は手前までゆっくり降ろし、斜角のある個所はチェーンブロックで平行にして、架設した」(同)。


Head-bar ジョイント(井手迫瑞樹撮影)

間詰材(リペアメントFE)の施工

本名川橋鈑桁部 活荷重対策のため桁補強
 床版の撤去架設は20枚分を3日間で取替

本名川橋(鈑桁部)
 本名川橋は橋長180.4mの単純合成5主鈑桁+2径間連続鋼トラス橋である。単純合成鈑桁部が43.97m、トラス桁部分が136.43m(支間割は82.53+52.53m)を占めている。
 合成鈑桁部は、まず既設壁高欄や地覆を先行撤去した後、フランジ上のコンクリートを残す形で既設床版を桁間で切断し撤去した。次いでフランジ上面のコンクリートは手斫りなどを用いて除去した。これは合成桁であることを考慮したもので、スタッドジベルが中に埋まっているため通常のジャッキアップで床版を撤去しようとすると桁の変形を招くため、フランジ上面のコンクリートを後追いで斫り取っているもの。
 もっとも、設計検討してみると、上フランジ上面の合成コンクリート部を撤去しても死荷重座屈が起きるという事は無かった。現在行っている桁補強はB活荷重に対して桁が持たないと設計的に判断されたためだ。上フランジと下フランジを補強するためでウエブの中間に上下2段アングル材を取り付けた。補強材の設置は、床版を撤去して死荷重が開放された桁のみになった時点に施工した。


桁補強状況

 合成桁部の撤去・架設は、220tオールテレーンクレーンを計2台使用し、(A1の土工側とP1(トラス桁部))に配置して施工を行っている。橋梁上に重機を配置しないのは合成桁に重量物を載せることを避けるためである。両側に配置したのは、片側からのみの施工ではクレーンの能力が不足するためである。プレキャストPC床版パネルは20枚配置した。架設・撤去とも両側から行ったため20枚分を3日間で設置することができた。さらに鈑桁量端の現場打ち部は、パネル形状を工夫することで、橋軸方向の延長を約3mに縮小した(下り線は同約7mだったので半分以下に縮小)。また、桁と床版との接合や間詰部の架設は全て後日施工していた。


鈑桁部(手前側1径間の床版設置状況)/鈑桁量端部約3mずつは現場打ち構造のPC床版を施工した(井手迫瑞樹撮影)

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