栗本鐵工所は、点検口付き金属製遮音板とPCa壁高欄の定着アンカーボルト部蓋構造を開発し、既にNEXCO西日本関西支社管内の中国自動車道吹田JCT~中国池田IC橋梁更新工事の約4km区間で採用されるなど実績を上げている。前者は点検の省力化、効率化、後者は施工効率向上に着目した製品である。
点検口付き金属製遮音板
点検作業2回分でイニシャルコストを回収可能
橋面側(本線側)の路肩規制のみで遮音壁アンカーボルトの点検が可能
点検口付き金属製遮音板は幅1960×高さ600×厚さ95mmと同3960×600×95mmの2タイプがある。NEXCO3社およびNEXCO総研と同社において共同特許を出願中である。
点検口付き金属製遮音板標準図(栗本鐵工所提供)
点検口付き金属製遮音板(金属製遮音板の下部に点検口があることが分かる)
標準寸法・重量・材質/性能規格
特徴は、遮音壁を設置するアンカーボルト部において、遮音板の前面(橋面上の道路側)に点検口が空いているという点だ。従来の遮音壁はこうした点検口がないため、遮音壁の裏に配置してあるアンカーボルトの点検は遮音壁をオーバーハングできる大型橋梁点検車や、下部からの高所作業車を使う必要があった。しかし、点検口を設けることで橋面側の道路において路肩規制をかけるだけで、全てのアンカーボルトの状況を点検できる。そのため点検の省力化、コスト縮減も行うことができるのが特徴だ。イニシャルコストは高さ2.5mの遮音壁で13,000円/mのコストアップとなるが、おおよそ点検作業2回分でイニシャルコストを回収可能と考えている(アンカーボルト点検のみを実施したと仮定)。また、背面側アンカーボルトは遮音板にて覆われており、点検時において工具などの落下を防止でき、安全性にも配慮している。
道路側から点検可能/工具などの落下を防止できる構造(背面側)
開口部があることによる音漏れへの対処は、アンカーボルト部上面にEPDM製のゴム蓋を設置することで遮音性を確保している。また、積雪地域など、雪の侵入を防ぐために遮音板正面開口に開閉可能な蓋のオプションも用意している。
アンカーボルト部上面にEPDM製のゴム蓋を設置(内部の黒い部分)
同製品は通常の金属製遮音板だけでなく透光性遮音壁や支柱隠蔽式(支柱背面を隠す構造)の金属製遮音板にも適用可能だ。
透光性遮音壁や支柱隠蔽式の金属製遮音板にも適用可能
壁高欄設置時・取替時の施工効率化ができる
モルタル打設が必要なく、交換時も斫り作業が低減される
PCa壁高欄の定着アンカーボルト部蓋構造の特徴は、①壁高欄設置時の施工効率化、②取替時の作業時間短縮である。
定着用アンカーボルト部蓋構造
①は、こうしたアンカーボルト設置孔は通常、モルタルなどで埋める作業が必要となる。しかし、通行止め期間内での時間的制約がある中、モルタル充填の代わりに蓋構造にすることで、 天候の問題(雨が降ればできない)解消や、鳶工でも取付ができるため、作業効率は向上する。
②は、モルタル充填の代わりに蓋構造とすることで取替時にはアンカーヘッドが露出しており、斫り作業が不要となることから、取替作業時間を大幅に短縮できる。
PCa壁高欄の中にステンレス製定着アンカーボルト用箱抜を設けた構造
シャープ化学工業の変成シリコーン封止材で耐久性も確保
同構造は、RC製のPCa壁高欄の中にステンレス製(SUS304)の定着アンカーボルト用箱抜きを設けた構造である。箱そのものはステンレス製の構造であり、箱の前面に設けたゴムスポンジにより水の浸入を防ぎ、変成シリコーン封止材(シャープ化学工業製)を支圧板およびボルトナットの周囲に塗布することで浸水を防止する構造としている。また、結露水などの排出機能も備えている。
本体構造/変成シリコーン封止材の採用
結露によって生じた水も確実に排水し、支圧板やボルト類を錆びさせないようにするためシャープ化学工業と特殊な変成シリコーン封止材を開発した。同社はシーリング材の粘性コントロールの他、硬化速度や硬化後のゴム硬度の調整、各種容器への充填技術があり、今回の製品は注入のしやすさとレベリング確保という施工性と品質を両立させた。一般的なシーリング材は、粘性が高いためレベリングできない。しかし今回用いた変成シリコーン封止材はハチミツぐらいの粘度でセルフレベリング性がある。また、湿気で硬化する特性を有し、揮発成分が少ない配合物にしており、体積減少がほぼ発生しないようにしている。
ステンレス製の蓋は雨水の浸入防止、紫外線遮断による変成シリコーン封止材の耐久性を向上させるとともに交通安全にも配慮してショットブラストを施し、日光や車のライトによる眩光を防いでいる。
ステンレス製の蓋にはショットブラストを施し眩光を防止している
アンカーボルトで止めるタイプのPCa壁高欄に対応可能
PCa壁高欄の定着アンカーボルト部蓋構造の設置手順は、まず架設前のPCa壁高欄に対し、箱抜き部のガラなどを除去した後、ステンレス製の箱構造を奥まで押し込むだけで良い。その後、同構造のついた壁高欄を橋梁に据えつけアンカーボルトで本体を固定、変成シリコーン封止材を注入して、ステンレス製の蓋をボルトで締め付けて設置し、完成となる。
設置手順
同構造は「箱構造であり、アンカーボルトで止めるタイプのPCa壁高欄であればどのメーカーでも寸法に合わせて製作可能」(栗本鐵工所)ということだ。
両製品が使われた中国自動車道吹田JCT~中国池田IC橋梁更新工事の約4km区間の現場