阪神高速道路は、16号大阪港線(西行)阿波座JCT~西船場JCT間にある阿波座付近の拡幅桁延長530mを架け替える工事を進めている。同箇所はそもそも1997年に渋滞対策として拡幅して付加車線を設置している箇所である。路下に大阪市が管理する中央大通が走っており、中央大通も本線4車線、副道1車線の大きな通りになっている。拡幅対象となった大阪港線の橋脚は、中央大通の分離帯に立っていたため、当時は建築限界・都市計画上の問題から、橋脚を補強することや、門型柱で脚を新たに立てるということはできなかった、そのため、既設の橋脚の中間に鋼製橋脚を設けて拡幅部分の荷重についてのみ中間橋脚で受ける構造とした。既設の橋脚にそのまま拡幅桁を載せても死荷重で持たないためである。しかし、その構造は拡幅桁と本線桁で支点位置が異なるため、活荷重に対し、桁の挙動が異なってしまうという課題を有した。
今次現場の施工範囲(阪神高速道路提供、以下注釈なきは同)
縦目地とその損傷状況
そのため、拡幅桁と本線桁の間は剛結せずに床版に縦目地を設けて、路面を連続化させる構造としていた。その構造について、縦目地の部分に損傷が生じ、損傷に伴う騒音が発生しており、過年度に補修や桁連結などの対応を行っているが、抜本的な改善には至っておらず、今回大規模修繕工事を行うことにしたもの。抜本的対策として、支点を統一して縦目地を解消し、拡幅桁と本線桁を連結する構造とする。対象箇所は1号環状線から大阪港線の渡り線付近~阿波座JCT間の拡幅部の最外側の1車線分の桁を取り替えるものだが、環状線からの合流部、東大阪線からの直線合流部、神戸線や湾岸線方面への分流部など交通が輻輳しているため、難しい施工が強いられている。現場はなにわ筋を挟んで工区を2つ(西側がその1工事(対象延長約300m)東側がその2工事(同230m))に分けており、その1工事が先行して進んでいる。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)
抜本的対策として、支点を統一して縦目地を解消し、拡幅桁と本線桁を連結する構造とする
伸縮装置のプレートが折損
活荷重による疲労と支点位置の違い、鋼製橋脚のしなりが原因か
さて、今回撤去する縦目地の遊間は狭い箇所で10cm、広い箇所では19cmに達する。床版は(本線・拡幅部とも)鋼床版同士のところがあれば、本線・拡幅部ともRC床版の箇所も存在している。本線部と拡幅部の伸縮装置はゴムジョイントを採用している。同ジョイントのプレートが割れている損傷が起きている。
損傷要因は桁の挙動が一致しないことによるたわみ差の発生であろう。支点位置が異なるという点が大きな要因としてあるが、同ジョイントはたわみに追従して動くジョイントではあるが、拡幅部の支点となっている鋼製橋脚が、逆L型形状であり、その先端に拡幅桁が死荷重として載っているが、その鋼製橋脚のしなりも合わさって、鉛直たわみ差は最大50mmに達している。同ジョイントはそのたわみの大きさに対応できなくなり折損が生じたと考えられる。
既設桁と拡幅桁が別構造になっていることによる最大鉛直たわみ量は50mmを超えている
さらに、縦目地は第一走行の車線のど真ん中に位置している(右写真)。湾岸線に向かう大型車が多く通行する場所であり、本線側と拡幅側に同じタイミングで車輪が載ることで、間にある縦目地は、片側がたわんで、片側が支点位置でないのでたわまないという現象が生じる。これもジョイント両端部のたわみ差を大きくする要因となり、縦目地自体が追従できずに間にあるプレートが割れている可能性が高い。ランプ構造部はともかく本線部はずっと縦目地が車両のど真ん中にあるため、たわみ差が恒常的に発生しており、繰り返し疲労による損傷の可能性が高いといえる。ジョイントでもゴム部分は比較的健全である。同区間の線形はほぼ直線であり、縦目地のプレートでも拡幅部だけが折損している。
桁の支点位置を合わせるためRC橋脚の拡幅桁側梁を伸ばす
L2地震時は水平力がNG→鋼製橋脚が水平力を分担
さて、今回は、抜本的対策として拡幅桁と本線桁を一体化し縦目地を撤去する手法をとることとした。そのためには、拡幅桁と本線桁の挙動を合わせるために支点位置を同じにしなくてはいけない。本線部分と拡幅部分の支える位置が同じになることで、たわみ差がなくなり一体化することが可能になるからだ。
拡幅桁と本線桁を一体化し縦目地を撤去する
縦目地(手前は横目地とクロスしている状況/施工中の導水を行うため仮の排水装置を設置している
具体的には本線部分を支えていたRC橋脚(延長全体で15基)で全ての桁の荷重を受けるようにする。そのため、拡幅桁の下の部分にはRC橋脚の梁がなかったが、梁部分を延長して、両側からPCケーブルで緊張して補強する構造とした。まず、梁の先端部300mmをWJで斫り、鉄筋を出した後、一部エンクローズ溶接と、樹脂系のアンカーで繋いで鉄筋を組む。梁の拡幅は、高さが根元で2.65m~3m、先端で1m程度であり、長さは梁の天端部分で約3.65m、根元部で約6.5mとした。打設数量としては1個所25㎥程度であるが、それを1回で打設した。打設には高流動コンクリート(スランプフロー65cm)を用いた。
RC橋脚梁拡幅・外ケーブル補強一般図
同施工計画図
RC橋脚の外ケーブル補強イメージ
RC橋脚は梁を拡幅することによる自重と、さらに拡幅桁の死荷重分も増えることになるが、橋脚自体の補強は外ケーブルによる補強だけで常時荷重に関しては対応できる。
RC橋脚梁の補強状況写真
問題はL2地震で生じる水平力への対応である。解析上、L2地震時においては、RC橋脚について水平力に対してN.Gになるという結果を確認した。その水平力に対しては、拡幅部を支えていた鋼製橋脚で補うことによって、橋梁全体として持たせる構造とした。
鋼製橋脚梁改良一般図
同拡幅施工計画図
鋼製橋脚梁上に水平力分担構造を設けることで、地震時の水平力だけを伝達させる構造とした。鋼製橋脚は一部、既設橋脚側について座屈防止のための当て板補強などを行っている。これは元々拡幅桁を支持する構造でしかなく、本線桁を含めた水平力に耐える構造とはなっていないためである。また、鋼製橋脚はRC橋脚とは逆に本線桁側の梁を増設している。水平力の分担を同じ位置とする考え方である。既設橋脚について利用し尽しており、実に合理的な設計である。
水平力分担構造
鋼製橋脚の改良前後イメージ
鋼製橋脚梁の改良状況写真
RC梁の拡幅に際しては直下の中央大通の西行本線1車線分および副道半車線と分離帯を昼夜固定規制してヤードを確保した。副道は外側にある駐車帯を一時的になくして副道としている。また夜間には規制帯を広げ、副道の通行止めを実施した。そうして確保したヤードの中で支保工を組んで、その上に梁を作り、型枠足場を組んで型枠支保工を設置して、梁部分を拡幅した。
桁下の規制状況
副道は外側にある駐車帯を一時的になくして副道としている
鋼製橋脚の拡幅部(13基)は、中央大通を夜間に4車線中3車線を規制して1車線だけ通行できる形にした上で施工した。拡幅梁は長さ6.9m、高さ1.2(先端部)~2m(根元)、板厚9~12mm、鋼重約7~8tを添接で取り付けた。拡幅梁は製作しているIHIインフラシステム堺工場からその都度トラックで陸送し、現場で25tラフタークレーンを使って多軸台車上に載せ替え、架設箇所まで自走した上で、多軸台車上のリフターでリフトアップし、既設梁と剛結した。当日夜は仮添接までで終え、本添接は翌日以降の昼間に施工した。