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既設桁の撤去は4基の移動作業車と2基の運搬台車を用いて施工

阪神高速14号松原線喜連瓜破高架橋 桁をどのように架け変えるのか

公開日:2023.05.31

移動作業車は上下2分割で組立て
 下半分は交通影響を最小化できるように組立てを工夫

サスペンションクレーン
 仮設桁に吊るサスペンションクレーンは4基設置する。上下線の撤去に使うため、1基は左右2ユニットで構成されている。本体構造は、高さ3.5~4.5m×幅18m×奥行3.7m で重量は1基当たり約20tである。桁撤去ブロックは最大で8tであるが偏荷重を考慮し、1ユニット16tの最大吊荷重とした。その分サスペンションクレーンを吊る桁やブラケットも構造を強化している。上部には運搬台車を2基配置しているが。これも1基当たり約20tの重量を有し、同様に最大16tの吊り荷重に設定している。サスペンションクレーンは中央の2基は仮設桁架設の最中に、端部の2基と運搬台車は仮設桁架設が完了した後、いずれもクレーンで設置した。


サスペンションクレーン構造図
サスペンションクレーンの設置状況

サスペンションクレーンの運用状況(井手迫瑞樹撮影)

運搬台車の架設状況

運搬台車の運用状況(井手迫瑞樹撮影)

移動作業車
 さて、次に移動作業車である。移動作業車はサスペンションクレーンと乾式ワイヤーソーにより行う既設桁撤去の際の防護のため用いる。移動作業車内には足場などしか設けず、重い機材は置かないため、重量は約70t(下部構造)と軽い。しかし内部に(重量は負担しないが)サスペンションクレーンや既設桁を抱え込まなければいけないため、高さ13.7m、幅23m、奥行5.5~6mという比較的大きなものとなった。桁下の交差点部に圧迫感を与えないため、作業車下クリアランスは6.4mを確保している。それでも桁下作業空間は1.15mと余裕を持った作業空間を有している。


移動作業車の構造概要


移動作業車の設置状況

 移動作業車は上下2分割で組み立てる。上半部は南北の隣接橋梁の桁上で2機ずつ地組して、夜間の桁下の一部を交通規制する時間内にクレーンで仮設桁上の軌条(4本)に設置した。

 下半分は交通影響を最小化できるように組み立てる場所ごとに対応を変えた。1号機(P464~465間、北側の側径間)は桁下でそのまま地組できる交通規制が実施できたため、下半部の床材23×6mを4分割し、1ブロックごとに規制帯内へトレーラーで部材を運び、電動チェーンブロックでその日のうちに吊り上げることを繰り返して設置した。
 4号機(P466~467間、南側の側径間)は、床材23×6mを2分割(1ブロックは11.5×6m)して地組してトレーラーで規制帯に運び、電動チェーンブロックの量を1号機の倍にして、施工した。
 2,3号機(P465~466間、中央径間)は交差点中央部に設置しなくてはならず、困難な施工となった。交差点の一部方向を夜間通行止めした上、70tラフタークレーンを持ち出し、ドーリーの上に足場の下半部を地組し、一旦ドーリーを高速道路の桁下ヤード内に退避する。その際は交通安全上の配慮(建築限界の確保)のため、ドーリーのジャッキを6mに上げる。さらに地震時に足場ブロックがドーリーの上から落下することを防ぐため、上部の既設PC箱桁内部に削孔して鋼製ワイヤーロープを通し、足場とPC箱桁を繋いでおくという安全対策も施した。


移動作業車(中央径間の2機)組立時の規制範囲

移動作業車上半部の設置状況

上半部だけ完成して下半部は未設置状況の移動作業車(井手迫瑞樹撮影)

交通安全上の配慮(建築限界の確保)のため、ドーリーのジャッキを6mに上げる。足場ブロック落下防止のため、上部の既設PC箱桁内部に削孔して鋼製ワイヤーロープを通し、足場とPC箱桁を繋ぐ安全対策も施した(右写真のみ井手迫瑞樹撮影)


下半部の夜間規制下での設置状況

移動作業車の上半部(左右)と運搬台車(内側)。いずれも軌道上を前後していることがわかる(井手迫瑞樹撮影)

 そして大規模な通行規制が実施できる日の夜間に再びドーリーを動かし、電動チェーンブロックで吊り上げた。
 4機とも電動チェーンブロックで吊り上げた後は、本設のゲビンデスターブに受け替え、中央部を溶接し、側面の防護板の設置などを行った。
 いずれの下半部の移動作業足場架設も地組から作業完了まで実施工日数で10日程度を要した。

 通常であれば、本現場は交差点の近くにヤードがあるため、ヤード内においてドーリー上に地組し、夜間にドーリーを移動させて、仮吊させればいいのではないか? という案もある。しかし、同地には信号や電線が多く全面通行止めをするとそれらの設備類も一時撤去しなくてはいけない。さらに夜間と言えども通行量はある程度有するため、2、3号機下半施工時の通行止めも南行き1方向の規制しか実施できないと判断し「1日で終わる作業とはできなかった」。実際に施工した手法はこうした制約条件を回避するための苦肉の策であったというわけだ。施工は2月末までに完了し、それからは既設桁の撤去が始まった(側径間部は1月上旬から先行して開始)。
 架設後に地震や暴風などで移動作業車が滑落することを避けるために既設橋梁にPC鋼棒でアンカーを取ったり、上下に横構を設けてPC鋼棒で繋ぎ挟みこむような措置もとる。また、仮設桁上に配置したレールからの逸走を防止するための設備も設けている。


逸走防止アングル/脱輪防止構造

実際に運用している脱輪防止構造(井手迫瑞樹撮影)

既設桁 最大吊り荷重8t内に収めるため1,300個に小割して撤去
 切断は乾式ワイヤーソー+吸塵 ノロや粉じん対策

既設桁撤去
 既設桁の撤去は、建設時のPC桁の張出架設を逆回しにするような施工方法が採用された。既設桁は全長で154mあり基本的には中間部のP465、466のラーメン橋脚を起点とした張出し架設で建設されているため、撤去も橋脚を起点とした桁の張出し長のバランスを取りつつ撤去している。但し、P464、467近傍の端部は支保工架設で建設されていたため、その部分(両端とも12m程度)のみ架設桁からPC鋼棒で吊りながら先行撤去し、次に中央ヒンジ部を撤去した上で、あとは橋脚左右の桁をバランスよく1ブロック1.75m×幅9.5m×2(上下線)ずつ撤去していく。橋軸方向の撤去断面は全部で84ブロック、1断面あたり16分割し、その総数は約1,300に上る。


既設桁のブロック割詳細図(拡大して見て下さい)

小割ブロックの切断面実物大模擬図

既設桁ブロックの小割切断手順例

粉じんを吸い込みながらワイヤーソーで切断(左、中左)/サスペンションクレーンで吊りながら切断する(中右、右)(井手迫瑞樹撮影)

乾式ワイヤーソーによる切断状況/切断されたPC鋼材

桁端部(左)および中央部(右)の既設桁切断断面

既設桁ブロックの搬出状況


撤去されたブロック(井手迫瑞樹撮影)

 最大吊り荷重を8t内に収めるため、1断面は上下線ごとに6~8の小ブロックに小割切断する。数が場所によって異なるのは桁高の厚さが変わることや、PC鋼棒の位置により切断時の応力状態が変わり、それに応じて切断位置を変える必要があるためだ。
 また、橋軸方向には1.75mずつ切っていくが、施工時は3.5mずつ張出している。そのPC構造を中間で切断するため、切断箇所はプレストレスがなくなりRC構造となる。その状態で張出せる延長を安全側に判断し、橋軸方向の切断ブロック長を決めた。

 PC桁の撤去には乾式ワイヤーソーを用いている。乾式を用いたのは、桁下へ水やノロが落ちることを避けるため。切断時は同時に吸塵しながら施工するため、粉塵はほとんど発生しない。但し、乾式のため熱を持ちやすく「ブレードの急激な摩耗やモーターの熱暴走を避けるため湿式よりも若干回転能力を落として切断スピードを遅くしている」(元請の大成建設・富士ピー・エス・エムエムブリッジJV)。

 切断はグラウト充填状況を十分に調査して施工しているが、それでも突出の可能性がある。そのため、切断時は900×1,800mmの防護板を配置した上で施工している。また橋面上のせん断PC鋼棒切断時は鉄板で養生しながら施工している。
 桁切断に際しては、約500個所に桁変位のモニタリングのためのセンサーを配置している。「既設桁も仮設桁も切断が進む過程で構造系は変わり続けるその時々によって管理する閾値は変わっていくが、リアルタイムに変位とひずみを測定することで管理限界値を知らせ、それを超えそうになればすぐに対策が出来るようにするため配置した」(阪神高速道路)。


約500個所に桁変位のモニタリングのためのセンサーを配置

 切断されたブロックは仮設桁上の運搬台車まで吊り上げられ、場外に搬出していくことを繰り返している。現在はこの作業を進めている状態だ。


現況写真

既設脚頭部は撤去し、新たな鋼製梁と鋼殻セルを介して接続 
 切断するPC梁部の重量をジャッキで負担

既設橋脚脚頭部の撤去
 既設桁撤去後は既設橋脚の脚頭部の撤去に入る。端部橋脚はそのまま使用できるが、中間橋脚は新しく架設する橋桁の高さなどから、少し調整する必要があるためだ。基本的には梁部分と柱の上部の一部を切断して柱上面の鉄筋をはつり出し、その上に鋼殻セルをはめ、鋼製梁を架設 する。


新設鋼製橋脚および新設側径間の架設イメージ

 そのためには既設の梁を撤去しなくてはいけないが、問題は既設橋もPCラーメン構造という点である。脚頭部の橋脚と桁が一体化した部分は、上部の主鉄筋とPC鋼棒があり、これを切断すると梁が自立しなくなる。そのため、先ずは切断時に自立しなくなる梁を支える足場から作らねばならない。しかし、直下は重交通路線の交差点であるため、ベントを立てることはできない。


中間脚頭部撤去時の足場構造

 そこで脚頭部にH鋼を縦横に配置した疑似的な桁をクレーンで吊り上げて配置し、それを起点にして吊り材となるH鋼を垂直に伸ばし、さらに別のH鋼により足場を設ける。吊り材だけで足場を把持することは不安定なため、既設橋脚が鋼板巻き立てにより耐震補強していることを利用して、その周囲にH鋼を地上から垂直に点溶接しそれによって下から足場を支える機構とした。足場上には油圧ジャッキを配置し、上からかかる重量と同等以上の下から衝く力を導入していくことによって上部の梁を切った際の荷重分担をスムーズに行えるようにする。梁部を切った後は、脚上の桁を外し、柱部を上からブロック状に切断していき、下に降ろして搬出するという事を繰り返していく。


プレロード/梁部の撤去

上段吊材を撤去し/脚頭部の柱部を撤去する

新桁は橋長154mの3径間連続鋼床版箱桁
 中央径間はドーリーで運び吊り上げ架設

新桁の架設
 新桁は橋長154m、幅員(19m)の3径間連続鋼床版箱桁橋を架設する。両端部から中間橋脚を少し通過する部分までは送り出しで架設する。中央径間部については。交差点を夜間全面通行止めにした上で、ドーリーで運び、側径間端部に設置してある吊り上げ設備により吊り上げて、仮添接し、翌日以降に本締めして架設完了とする予定だ。なお、防食手法は基本的に重防食塗装であるが、喜連瓜破交差点の交通量を考慮し、交差点上の桁下部は常設足場と防護機能を兼ね備えた附属物で覆うことを検討中だ。


新設中央径間の架設イメージ

 設計・施工は大成建設・富士ピー・エス・エム エム ブリッジJV。現在の撤去における主要一次下請は桁の切断工がコンクリートコーリング(大阪)、TBCダイヤモンド、架設は盛起建設、喜多重機興業、根建組、大和仮設工業、機材製作が成和リニューアルワークス、仮設桁製作が瀧上工業、調査業務がCORE技術研究所など。

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