阪神高速道路は、14号松原線喜連瓜破高架橋の橋梁更新工事を進めている。同橋は大阪市平野区喜連西から瓜破西間に架かる橋長154mのPC3径間連続有ヒンジラーメン箱桁橋である。同橋は昭和53年道路橋示方書に基づいた設計により、1980年に架設されたが、ヒンジ部の垂れ下がりが顕著になっていることから橋梁の架け替えを行っている。同工事は昨年6月から現場工事に着手し、現在は現橋撤去用の仮設桁の架設を完了し、既設桁の切断・撤去を行っている。直下の交通に影響を与えないよう、切断・撤去する箇所は全て移動作業車の足場で覆うと共に、切断の際の騒音が極小化できるよう防音パネルも設置している。さらに切断するワイヤーソーは乾式タイプを使い、水養生を最小化すると共に、粉塵も切断と同時に吸い込めるようバキューム装置を隣接して設置するなど、万全の態勢で臨んでいる。同現場を取材した。(井手迫瑞樹)
中央ヒンジ部が最大で24cm沈下
架替え前の状況
今回の大規模更新の対象は、大阪市平野区喜連西~瓜破西付近で供用されている延長154m(44.5+65+44.5m )のPC3径間連続有ヒンジラーメン箱桁橋である。同橋は中央にヒンジ部を有するPC橋である。「沈下はある程度想定」(阪神高速)していたが、最大で24cm沈下してしまった。舗装のオーバーレイやジョイントの嵩上げなどで対応していたが、2000年代初頭にはそれでは追い
つかなくなった。そのため、2003年に下面から外ケーブルとストラットを用いた補強を行った。桁下にキングポストを配置して、中間橋脚の柱頭部に定着点を設け、1本あたり3MNのPCケーブルを4本用いて引張り、キングポストでPC桁を突き上げる工法を施工し、沈下量を4cm回復させると共に、これ以上の沈下の抑制を図る工法を採用した。PCケーブルはつかみしろ(余長)を長くし、再緊張できるような構造とし、定着部も調整しやすい構造とし、保護カバーの長さも両端とも1.2mと長くしていた。
建設当時の喜連瓜破高架橋/垂れ下がり状況(阪神高速提供以下注釈無きは同)
補強施工状況
外ケーブルとストラットを用いた補強/補強概要
また、ヒンジ部(ゲレンク沓)そのものは、つなぎ目の鋼製プレートなどの一部に錆が生じているものの、コンクリート部にひび割れは生じていない。ヒンジ部は雄雌のヒンジが4つ(上下線それぞれ2つずつ)ある構造となっており、ストラットでの補強時にヒンジ部に想定していない水平方向の力がかかるおそれがあるため、それに対応すべくゴム支承が設置された。ゴム支承に引張力が作用しないようにPC鋼棒が設置された。ゴム支承は上下線の桁に1セットずつ配置された。
ヒンジがずれないようにPC鋼棒で連結する補強も施していた
こうした補強を行うことで対策以降、沈下量の顕著な進展は確認されていないが、抜本的な解決には至っておらず、長期の健全性、耐久性を確保するために、今回、架け替えを行うことにした。
3案のうち最も工期が短く、交通影響の少ない現行案を採用
PCケーブルのプレストレスを緊張ジャッキで段階的に0.3MNまで解放
3案から選ぶ
架け替えに当たっては松原線の交通量をどうさばくかという点と、大阪有数の交差点の一つである瓜破交差点が直下にあり、既設桁の撤去や新桁の架設に当たっての交通影響をどのように最小化するか? が主な課題となった。
大阪有数の交通量を誇る瓜生交差点、(右写真のみ井手迫瑞樹撮影)
通行止め区間は14号松原線の喜連瓜破~三宅JCT間約2.5km、交通量は6万台に及ぶ。大型車混入率も約10%ある区間である。さらに高架下道路(国道309号、同479号、大阪府道179号)の交通量も多い。直下の瓜破交差点は大阪有数の交通量(約7万台/日)を誇る交差点である。
このような状況で大規模更新に踏み切れたのは大和川線の全線開通(2020年3月)が大きい。同線によりう回路が確保でき、喜連瓜破~三宅JCT間の終日通行止めに踏み切れたからである。
大規模更新は当初、3案が検討された。採用された全面通行止め案と、う回路を橋梁脇に作る案、上下線半断面施工案である。
う回路を橋梁脇に作る案は、用地取得の問題があり、技術的な難易度と工期が長くなる。う回路の構築に実に6年、撤去に1年がかかり、架替えも3年かかるため、合計10年近い工期が必要となる。上下線半断面施工は仮設物関係の構築と撤去で2年、架替えに7年かかり合計で9年近くの工期が想定された。採用された通行止め案は他2案と比べて、喜連瓜破~三宅JCT間の交通を工期内に通行止めするというデメリットがあるものの、工期的には3年で完了できるため、地域への影響を最小限にできることから本案を採用した。
3案を検討し、③通行止め案を選択した
さて、工事はまず撤去用仮設桁の架設から始まる。本工事では桁撤去の際にベントなどを立てて直下の一般道を通行止めしながら施工することはできない。特に昼間部においては、車線を占有する交通規制は避けなければならない。そのため、全ての作業を上空で行うことを基本とし、仮設桁を設けて、そこに大きな輸送設備や撤去のための機材を配置する工法を採用した。本工法は阪神高速道路だけでは仕様決定が難しかったため、段階選抜方式を併用した技術提案・交渉方式(設計交渉・施工タイプ)で概略設計業務を発注し、受注者の大成建設・富士ピー・エス・エムエムブリッジJVから具体的提案を受け、契約締結、工事に至った。
松原線を通行止めして施工している/全ての作業を上空で行うことを基本とした
桁下の部材撤去および準備工
施工はまず既設桁を補強していた部材のうち、移動作業車などの設置の際に障害となる桁下のPCケーブル撤去から始める。夜間に一部車線規制し、高所作業車を使って制振装置を撤去し、PCケーブルのプレストレスを緊張ジャッキで段階的に0.3MNまで解放した。緊張が解放されたPCケーブルは、後日、その両端をウィンチにワイヤーで接続のうえ、一方を緩めては、もう一方を橋面に引き込む形で撤去した。
ストラットについては移動作業車内でガス溶断により撤去した。
仮設桁 約1,300t、製作は瀧上工業が担当
L2地震相当の耐震構造 高性能型減衰ゴム支承『HDReX』を採用
仮設桁の構造・架設
仮設桁は延長165m、鋼製の桁重量は約1,300tに達する。瀧上工業が製作した。
仮設桁は瀧上工業が製作した(写真は工場での仮組検査状況)
仮設桁は複雑な構造となっている。通常の桁であれば床版が桁の上に乗るが、仮設桁はそれがなく、床版が負担できない分、桁自身の板厚を増し、補剛材やリブを用いることで各種機材を受け持てるよう補強した。また、コンクリートブロックを吊り上げるために使うサスペンションクレーンは、下側のブラケット構造で受け持っている。サスペンションクレーンを吊るブラケットは200Hを用いて製作しており、8点(各桁ウエブ両側)で支持する。サスペンションクレーンの荷重による桁のたわみを抑制するため、ブラケットといってもG1とG2、G3とG4間は横桁のように繋がる構造となっている。
仮設桁一般図
契約時当初は撤去する既設構造物(中央ヒンジ部)が沈下しているため、その上に直接架設するのは不安視され、架設地に隣接する南側の桁上に仮設桁を全て地組して送り出すことにより所定位置に設置する工法を考えていた。しかし既設桁の耐力を改めて照査したところ、(送り出しではなく)直接的な架設でも問題がないことが分かり、工程が短縮できることや経済的にも安価になることから、既設桁上での直接架設を採用した。
仮設桁架設状況(初期)
実際の仮設桁架設は昨年7月中旬から開始し、11月上旬に完了した。
まず既設PC桁(隣接部も含む)上の中央分離帯および舗装を撤去し、仮設桁の『橋脚』を中間橋脚上に設置した後、中央部から橋長165mの仮設桁(4主桁)を15分割で架けていく。120tクローラークレーン 2台を用いて両側に架設ベントを配置しつつ一定の長さ4本の主桁を架設していった。最終的に仮設桁は各橋脚上に配置してある疑似的な橋脚で支え、仮設ベントは全て撤去する。主桁が4本必要なのは移動作業車を支える4本の軌条と小割したブロックを吊りながら切断するためのサスペンションクレーン、場外撤去するための運搬台車をスムーズに動かす必要があるからだ。
仮設桁架設状況(中盤)左2枚は支点部のベント架設状況および支承設置状況、右2枚は桁架設状況
直接架設は工程を一番短縮できるようにするため、中央から120t吊クローラークレーン2台を用いて両端に向かってベント架設することにした。但し、南側端部の架設は、架替えに該当しない隣接橋梁もヒンジ構造となっており、同クレーンで1スパン分約20tの仮設桁を架設するには耐力が持たないため、クローラークレーンを解体した後、ワンスパン後ろの橋脚上で組みなおし、移動多軸台車を利用して端部の2スパンのみ架設した。
仮設桁架設状況(終盤)、右写真は移動多軸台車を利用して端部の2スパンのみ架設した状況
特殊なのが脚上ベントで、最終的に仮設桁や設備関係の全ての重量を負担する箇所になる。仮設構造物であるため、普通ならL2地震相当の耐震性は検討しない。しかし約1年間設置する必要があることや、仮設桁に相当な設備が載ることになるため、L2地震にも耐えられる構造とした。
支点ベント(井手迫瑞樹撮影)
仮設桁の「橋脚」ともいうべき支点は4支点あるが、その全てに 免震支承(高性能型減衰ゴム支承『HDReX』)を1支点当たり6基設けている 。中間支点部は既設桁の橋脚上、端支点部は既設桁撤去の邪魔になるため既設橋脚位置より2m引いた位置(隣接橋梁の支点付近)に設けた。
HDReXの特長/実際に現場で用いられたHDReX(井手迫瑞樹撮影)
HDReXは1支点当たり6基設けている(井手迫瑞樹撮影)
1基当たりの最大反力はP464(喜連瓜破IC)上が2,510kN、P465・466上が2,460kN、P467(三宅IC側)が1,630kNとした。
ただしP467 は既設橋脚がL2地震動に対してもたないため、梁部にせん断補強鉄筋を入れ、さらに炭素繊維シート7層(高弾性タイプ:512㎡)を張る補強を施した。仮設桁のベントが載荷されている隣接桁側の既設支承がも たないため、油圧ジャッキで既設支承との間を0.5~1mm程度浮かした状態で受け替えたうえで、ベントを設置している。地震が生じた際は既設支承に伝達できるようにしている。
もっとも、当初は現在のようなごついベント構造ではなかった。L2地震対応は検討しておらず、脚上ベントも現在の半分以下の重量であった。しかし詳細設計を通じて桁下交通の十分な安全性なども考慮し、L2地震動を検討、固有周期も解析で求め、当初と比べて脚上ベントの重量は2.5倍、3倍程度の水平震度に備えた構造に強化した。