福岡北九州高速道路公社は、今冬、福岡高速1号香椎線の香椎東IC~名島IC間上下線の舗装補修および床版防水工、伸縮装置取替工などを行った。床版防水工には昨年に引き続き改質グースアスファルト防水を用いているほか、伸縮装置の取替には同公社で初となる鋳鉄製伸縮装置『ヒノダクタイルジョイントα』を採用している。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)
舗装打替え対象は約3.5km
改質グースアスファルトを用いて、基層に防水機能を持たせる
対象となる現場は福岡高速1号香椎線のうち、香椎東IC~香椎ICと香椎IC~名島IC間の2区間だ。両区間の交通量は2万台強~3万台弱であり、大型車交通量は約12%となっている。
香椎東IC~香椎IC間は1993年に供用された区間であり、建設時から現在まで床版補修および舗装補修の実績はない、建設時には、当時には珍しくアスファルトシート系の防水を全面に施工している。舗装は基層が密粒度アスファルト混合物(改質アスコン)、表層が密粒度ギャップアスコン(改質アスコン)を施工している。今回の対象延長は区間すべての0.9kmである。
香椎IC~名島ICは1980年に供用された区間であり、建設時には床版防水は設置しておらず、05年に床版防水工を含む舗装補修を施工している。05年に行った補修内容として床版防水はアスファルト塗膜系防水を端部のみとし、舗装は基層がSMA(砕石マスチックアスファルト)、表層がポーラスアスファルトとなっている。この区間も建設時から現在まで床版補修の実績はない。今回は、同区間のうち2.6kmで施工する。
今次の修繕工事では上下線について表層舗装の打替を橋梁部の下り線で27,300㎡、上り線で22,400㎡(高機能Ⅱ型)、同様に土工部で下り線700㎡、上り線630㎡(改質Ⅱ型)で行う。基層まで打替えるのは、過年度の点検結果で床版下面に漏水がある下り線2,300㎡、上り線1,420㎡とした。同個所については改質グースアスファルトを用いて、基層に防水機能を持たせている。さらにPC桁連結部では下り線約320㎡、上り線120㎡でシート防水を施し、路肩コンクリート撤去部では下り線約640㎡、上り線410㎡で塗膜防水を施した。
舗装切削及び清掃状況(福岡北九州高速道路公社提供、以下注釈なきは同)
改質グースアスファルトの施工状況
高機能舗装の施工状況
ヒノダクタイルジョイントαを上下線10個所で採用
低騒音な乾式ワイヤーソーイング工法『SJS-H工法』を用いる
伸縮装置取替工は上下線とも10か所ずつ取り替える。伸縮量が大きい個所(100mm、160mm)については、既設のゴムジョイントを新しいゴムジョイントに取替える一方、伸縮量が少ない個所(上り線7個所、下り線6個所)については、既設のゴムジョイントを日之出水道機器製の鋳鉄製伸縮装置『ヒノダクタイルジョイントα』に取替える。
設置前の『ヒノダクタイルジョイントα』と各部拡大写真
ヒノダクタイルジョイントαは、ダクタイル鋳鉄(FCD)を用いた鋳鉄製伸縮装置で、表層には耐スリップ性を考慮したアンタイスリッピングデザイン(同社が製造しているマンホール鉄蓋上の形状に似た3重の突起形状を有したもので濡れたアスファルトと同様の摩擦係数を有する)を採用している。ジョイント前後の現場打ちコンクリートには無収縮モルタル(ラウンドベース3H24)を使用しており、施工後の収縮クラックによる損傷を抑制できる。また、ジョイントは歯型形状の「歯」部分だけでなく、根本の歯茎に当たる半円形状部分も車両荷重の一部を受ける構造になっており、アスファルト舗装の沈下や轍掘れによる段差の影響を抑制できる。
止水構造の特長は一体成型の荷重支持プレート構造で、土砂などの踏抜荷重にも非常に強い耐力を有する。
土砂などの踏抜荷重にも非常に強い耐力を有する
防食は電着塗装を施しており、塗装が剝がれても鋳鉄特有の酸化被膜が形成されるため、優れた防食性能を維持できる。
床版(および現場打ちコンクリート)とジョイント本体(鋳物部)は、本体とボルト緊結されているコの字型ブラケットで固定している。仮にジョイントが損傷しても、ジョイント際まで敷設している表層舗装をはつり除去し、ボルトカバーの役割を果たす鋼製キャップおよびナットを外すだけで、容易に既設伸縮装置本体のみを取り外し、新しいものに取り替えることが可能だ。
施工は、ジョイントブロック(一体成型できる最大は900mm×遊間幅)どうしを現場の幅員に合わせて、橋軸直角方向に鉄筋を通して繋ぐ。
次に既存製品を撤去するが、人家連坦地も多いことから、伸縮装置の撤去には阪神高速道路などで多くの実績を有する低騒音な乾式ワイヤーソーイング工法『SJS-H工法』を用いている。
SJS-H工法
仮設舗装材の撤去、型枠やバックアップ材の設置(井手迫瑞樹撮影)
ジョイントを吊下ろして位置決め(左)/ジョイントを固定するためのアンカーボルト削孔状況(井手迫瑞樹撮影)
アンカーボルト設置状況(左)/無収縮モルタル混練(中左)、打設状況(中右、右)
次いで、型枠を遊間に設置し、製品をクレーンで遊間内に吊り降ろして、位置調整してセットし、既設床版の配筋に固定する。無収縮モルタルを流し込んで、最後に表層50mmのアスファルト舗装を敷設して完成となる。見た目の伸縮装置の幅は極めて狭く、伸縮装置の両側も舗装が占めることから、従来の後打ちコンクリート部のような舗装との段差が生じにくく、埋設ジョイントに近い良好な走行性が確保できる。
施工例①
また、同ジョイントは、今まで20~40mmの比較的小さい伸縮量に限定していたが、本工事では伸縮量80mm、最大遊間200mm(160±40mm)まで対応可能なタイプが2個所で初めて採用された。同タイプはPC橋であれば80m、鋼橋であれば70mの支間を有する遊間にも対応できる。従来より大きな伸縮量に対応するため、伸縮量80mmタイプの箱抜きの高さは100mmから130mmに上がっている。ジョイントの両側には鋼製のリブのようなものが付いており、これを無収縮モルタルで埋めることは従来と同じだが、その幅を広げることでジョイントの歯の跳ね上がりを防止している。
ジョイントの歯の形状は、伸縮量60mmまでは台形。今回2か所で使用している伸縮量80mmの製品は長方形としている。伸縮幅が大きくなると製品のフィンガー間のクリアランスも必要となるが、「一般道でも使用していく製品であるため、自転車走行を考慮しての形状変更」(日之出水道機器)ということだ。
伸縮量80mm、最大遊間200mm(160±40mm)まで対応可能なタイプ図面例
施工例②
独自の橋梁用埋設型排水桝 HDJ-D3パイプ
伸縮装置側面および上面の滞留水を集水して桁下に排水
同ジョイントは防水性、排水性にも注力している。本体の止水材はポリブタジエン系の弾性シール材を工場で流し込み成形することで止水性を高めている。両地覆側は現場にて特に防塵材と隙間が生じないように丹念に製品上面までシーリングする。
さらに本現場では同ジョイント独自の橋梁用埋設型排水桝を用いている。排水桝は上面・側面集水タイプのHDJ-D3パイプと側面集水タイプのジョイントドレーンがあり、いずれも錆が生じにくいSUS304を使用している。本現場では伸縮装置両側の無収縮モルタル打設部上面に舗装を敷設する構造であるため、伸縮装置側面および上面の滞留水を集水して桁下に排水するHDJ-D3パイプを使用した。これにより伸縮装置やモルタル部への水の影響を軽減でき、かつ漏水による伸縮装置や桁端、支承周りの損傷を抑止することが出来る。
伸縮装置側面および上面の滞留水を集水して桁下に排水するHDJ-D3パイプを使用
同工事の元請は下り線がガイアート、上り線がNIPPO。伸縮継手撤去の一次下請は上下線共に日本鉄塔工業、主要二次下請けはアクティブ、A‘i(乾式ワイヤーソーイング工法)。伸縮継手設置の一次下請けは上り線が九州ヒノデサービス販売(鋼製ジョイント部取替)、ダンテック(ゴムジョイント部取替)、主要二次下請はOSエンジニアリング(鋼製ジョイント部取替)。下り線が九州ヒノデサービス販売、主要二次下請はサガ・コア&カッター工業(鋼製ジョイント部取替)、ダンテック(ゴムジョイント部取替)。