既設RC床版から鋼床版への取替えで急速施工を実現
日本製鉄・横河NSエンジニアリング 「STEEL-C.A.P.工法®」のパイロット工事を実施
半断面施工で14枚の鋼床版パネルを設置
補強を必要とせずに拡幅が可能
パイロット工事は、福岡県北九州市若松地区のひびきコスモス運動場と北九州フットボールセンターの間に架かる緑川橋で実施している。日本製鉄所有の同橋は、橋長10m、全幅員6.2m(有効幅員5m)の単純合成桁橋(3主桁)。斜角は82°を有している。供用後44年が経過し、床版取替えが必要になったことから本工法を適用して床版全面約60㎡を取り替えた(鋼床版製作・施工は横河NSエンジニアリング)。
緑川橋(施工前)
施工は上流側の半断面(Ⅰ期線)から着手して完了後に下流側(Ⅱ期線)を進めた。同橋の全幅員が6.2m(1.5車線)だったことから、半断面施工が行えるように全幅員6.8mへの拡幅を鋼床版パネルで実施している(架設済みの鋼床版上に後述する専用の施工機材が乗り入れて取替えを進めることにより拡幅)。このように、既設構造物を拡幅できるのも本工法の利点である。
床版取替ステップ図
施工前後の断面図(拡幅適用)
事前作業でスプリットTの取付や既設床版の水平切断を実施
桁上の既設床版は任意の位置で切断可能
具体的な施工内容は、足場設置後、桁下作業で鋼床版パネルと桁をボルト接合するための桁部の孔明けやスプリットTの取付、ワイヤーソーによる既設床版の水平切断を実施。桁下作業は交通規制が不要なので、事前にこれらの作業を行っておくことで交通への影響低減が図れるという。既設床版は桁上の添接板のボルトを傷つけない位置で水平切断する。
スプリットTの取付作業と取付完了
交通規制をともなう橋面上の作業では、まず既設床版の橋軸方向と橋軸直角方向の切断をロードカッターで行った。橋軸方向の切断では切断位置の制約を受けずに施工できることも本工法の大きな特徴だ。半断面施工で床版を取替える際に、一般的には同橋のような3主桁では増設桁を設置しない場合、2主桁分の床版を撤去する必要があるが、本工法ではHJジベルとスプリットTに荷重を預ける構造のため、1主桁分の床版切断でも施工が可能となっている。また、桁上の既設床版残置部も桁幅ギリギリで切断する必要はなく、計画の自由度が増す。既設床版残置部は、防水性を有するシリコン系シートで残置部のコンクリート全体を覆って剥落対策を講じている。
既設床版の切断/桁上の残置コンクリート。切断位置の制約を受けずに施工できる
従来工法との比較
剥落対策で残置部のコンクリート全体をシリコン系シートで被う
床版の運搬から撤去・架設までを1台でできる専用の施工機材を開発
パネルと荷重伝達部材はすべて高力ボルトで接合
既設床版の撤去と鋼床版パネルの架設では、本工法の開発とあわせて専用の施工機材を開発した。トレーラー上に床版取替設備を搭載することにより自走が可能で、床版の運搬から撤去・架設までをすべて1台で行えることが特徴で、狭小なスペースでの施工に対応する。施工機材1台で床版1パネルの取替えとなるため、3パネルを施工する場合は3台体制とすることで短工期化が図れる。
今回は試作機1台を本工事の床版パネル諸元にて設計・製作し、車高は走行時4.1m、施工時6.3m、吊荷重は5.2tとした。パイロット工事での実績をふまえ、夜間に3パネルの床版取替を実施できる見込みとなった。
本工法専用の施工機材。1台で床版の運搬から撤去・架設まで可能だ
施工では、まず架設する鋼床版パネルをトレーラー前方側に搭載した施工機材が所定位置まで進入し、柱と梁およびH鋼の吊り梁で構成される床版取替設備をジャッキにより引き起こす。既設床版の撤去は、載荷梁に設置された吊上げ装置を用いて行い、吊上げ後90°回転させてトレーラー後方側に搭載する。
既設床版の撤去
鋼床版パネルは前方側から撤去床版上を通過する形で移動させて、架設位置で90°回転後、設置していく。パイロット工事では試作機での施工だったため、床版の吊上げ・吊り下げはチェーンブロックで行ったが、今後、電動ホイストの導入を予定している。また、機材部材の小型化や施工能力増も検討していくという。
鋼床版パネルの架設
鋼床版パネルを所定位置に設置後は、パネルとHJジベルおよびスプリットT、パネル間を高力ボルトで接合していく。なお、パネル接合部の縦リブには孔を設けてあり、パネル間接合時に孔から作業ができるとともに、維持管理時の確認にも利用できる工夫を行っている。
添接作業/パネル接合部の縦リブに設けた孔(撮影=大柴功治)
鋼床版パネルのボルト接合後は仮鋪装の状態で一時交通開放を行う。残る半断面を施工後にパネル間(縦継手)をボルト接合し、本鋪装を行って施工が完了する。
Ⅰ期線(左)とⅡ期線(左)の施工完了状態
パイロット工事完成状態