既設RC床版から鋼床版への取替えで急速施工を実現
日本製鉄・横河NSエンジニアリング 「STEEL-C.A.P.工法®」のパイロット工事を実施
日本製鉄と横河NSエンジニアリングは、鋼鈑桁橋の既設RC床版を鋼床版に取替える「STEEL-C.A.P.工法®」を共同開発し、2022年10月から12月に北九州市の緑川橋でパイロット工事を実施した。同工法は、主桁上フランジのみ既設床版を残置し、その上から鋼床版をかぶせるように設置するもので、厳しい現場条件下での施工と急速施工が可能であるとともに、高性能鋼床版の採用により耐久性も担保していることが特徴だ。
プレキャストPC床版への取替と比較して約4割工程短縮
死荷重は既設RC床版から約4割削減
床版取替工事の課題として、交通影響の低減、死荷重の軽減、床版の高耐久化が挙げられる。交通影響の低減のためには工程短縮や半断面施工が求められ、取替床版により死荷重が増加すれば桁補強や下部工補強などが必要になるとともに路面高が変わる可能性があり、それらの対応には多大な時間を要する。また、補修頻度を減らすためには床版の高耐久化は欠かせない。
これらの課題を解決したのが、STEEL-C.A.P.工法®*だ。鈑桁橋であれば合成桁、非合成桁、斜角の有無を問わず半断面施工が可能で、プレキャストPC床版への取替と比較して約4割の工程短縮を実現している。また、主桁間2.5m、床版厚200mm~300mmのRC床版を本工法の鋼床版に取り替えた場合、約4割の死荷重削減を図ることができる。
*STEEL-C.A.P.=Steel deck Composite, Adjustable to Plate girder
せん断伝達部材と横桁連結部材で荷重伝達を担う
桁上の既設RC床版を残置することが可能に
本工法の構造における最大の特徴は、鋼床版と上フランジとの取り合い部をせん断伝達部材(HJジベル)と横桁連結部材(スプリットT)で接合する構造にしたことだ。縦リブと主桁ウェブを接合するHJジベルが橋軸方向のずれ力に抵抗し、横リブと主桁ウェブを接合するスプリットTが橋軸直角方向および鉛直方向の荷重伝達を担うため、従来工法で必要だった鋼床版と主桁上フランジとのボルト接合が不要となり、桁上の既設RC床版を残置することが可能になった(ウェブを介した接続構造により主桁上フランジに荷重伝達を期待しない構造となっている)。
本工法の構造(横河NSエンジニアリング提供。以下、注釈なき場合は同)
鋼床版パネル全体(左)/桁に接合されたHJジベルとスプリットT(右)
これにより、合成桁の床版取替で時間を要していた桁上の既設RC床版のはつりやスタッド等の切断、その後のグラインダ等による平面化処理を最小化でき、鋼床版をかぶせて事前に孔明けしておいた箇所にHJジベルとスプリットTをボルト接合するので、工程短縮と作業の省力化を図ることができる。はつり作業の最小化は騒音や粉塵といった周辺環境への影響抑制にもつながる。また、本構造としたことで主桁上フランジ上の高さ調整材が不要となり、床版の高さ調整も容易に行える。
構造検討では、耐疲労性についてはFEMモデル解析を行って確認を行い、荷重伝達については施工試験用のモックアップ試験体を活用して設計荷重相当の実荷重載荷試験を実施して耐荷重性能が想定どおりであることを確認した。その際、「せん断伝達部材を減らせば施工の効率化につながるので、橋梁ごとの適正な配置を検討できるよう試験条件を設定した」という。せん断伝達部材により合成化した桁の挙動については、合成化挙動確認の梁曲げ試験にて確認しており、本パイロット工事中に実施した載荷試験でも確認を行っている。
載荷試験の様子(撮影=大柴功治)
鋼床版は疲労耐久性の点で課題があったが、本工法では、「取替用高性能鋼床版パネル」*を採用し、高耐久化を図った。同パネルは、横リブと縦リブ交差部を全周溶接構造とすることで、疲労寿命100年以上を実現した鋼床版パネルとなっている。
*取替用高性能鋼床版パネル:取替用高性能鋼床版パネル研究会にて開発・実証されたもの。
取替用高性能鋼床版パネルの概要(取替用高性能鋼床版パネル研究会パンフレットより引用)
塗装周期延長鋼「CORSPACE®」の採用で耐食性能を向上
「CORSPACE®」仕様の高耐食ボルトをパイロット工事で初適用
パイロット工事では、耐食性能の向上を図る目的で鋼材に塗装周期延長鋼「CORSPACE®」(日本製鉄/NETIS:KK-150056-VR)を採用する取り組みも行った。本鋼材は普通鋼と強度は同一で、鋼材に微量のスズを添加することにより塗膜欠陥部における鋼材腐食量を大幅に抑制できることから、普通鋼と比較して塗装塗替え周期を約2倍に延長できる。このため、LCC縮減や揮発性有機化合物(VOC)排出抑制に寄与する。さらに、CORSPACE®に対応して開発した、同鋼材仕様の高耐食ボルトを本現場で初適用している。日本製鉄と横河NSエンジニアリングでは、維持管理の合理化の観点からこれらの採用を提案していきたいとしている。