カナフレックスは、同社の保有する軽量高強度繊維補強コンクリート『カナクリート』を用いた床版『カナクリート床版』を実用化した。同コンクリート床版は無機系の繊維と有機系の繊維を用いた高強度繊維補強コンクリートを用いたRC床版であり、さらに特殊な混和剤を用いることでコンクリート内に不連続な独立した気泡を作り出すことや、鉄筋量を従来のRC床版に比べて3~5割程度の量にすることで、単位面積当たりの重量を約3割軽量化している。それでいて、「圧縮強度や曲げ強度は従来のPC床版と同等の性能(40N~50N/mm2)を確保できる」(同社)ほか、気泡を床版内に満遍なく形成させることで、凍害や凍結融解に対する耐久性や火災事故などにおける耐久性も飛躍的に向上させていることが特徴だ。(井手迫瑞樹)
カナクリート床版
独立した気泡を満遍なく形成させることによって用いるコンクリートの量を減らす
気泡が連続化しないように自己治癒性のある有機繊維を仕込む
プレキャスト床版に使用するカナクリートは、ポルトランドセメント・軽量骨材・無機系繊維と有機系繊維を混ぜた非鉄系のハイブリッド繊維、気泡剤・混和材などを混合した高強度軽量繊維コンクリートである。通常のプレキャストPC床版(230mm厚)の単位体積質量が25~26kN/m3であるのに比べて、カナクリート床版は18.5kN/m3と約2/3まで軽量化しており、床版取替時において主桁や下部工に対する負担を大きく軽減できる。この軽量化が実現できるのは、鉄筋量の5~7割程度削減に加え、独立した気泡を満遍なく形成させることによって用いるコンクリートの量を減らしたことが寄与している。
気泡の形成には懸念もある。同社が既に展開している住宅の断熱材用途(グラスウール代替)などは床版が受けるような輪荷重は生じない。断熱性や耐火性の向上は環境要因(凍害など)の劣化の抑制、高速道路の安全性にも寄与するが、その反面、疲労による気泡の連続化が生じないかという疑問が残る。そうした懸念に対しては、「繊維の架橋効果によるひび割れ分散効果により、気泡の連続化は生じにくく、生じた場合に備え、カナクリート中に自己治癒性のある有機繊維を仕込んでおくことによって、致命的な損傷が起きないようにしている」(同社)ということだ。
繊維の架橋効果を発揮する肝となるのは繊維の分散性、すなわちダマを生じないか否かである。これについては、繊維に特殊な樹脂をコーティングすることで、ダマを生じにくくかつコンクリートとの付着力を向上させている。その効果を評価することによって、「道路橋示方書に示されている鉄筋の引張応力度を120N/mm2から200N/mm2に引き上げて」鉄筋量を減らして設計することが可能になり、不連続な気泡が繋がることを抑制する効果も発揮できるようになった。
継手は異形鉄筋を120mmずつ筋違いに突きだす方式で間詰幅は150mm
間詰幅のカナクリートは母材強度よりも高い100N/mm2弱を用いる
継手構造は両パネルの異形鉄筋の配力鉄筋を120mmずつ筋違いに突きだすもので、間詰幅は150mmとした。間詰コンクリートに用いるカナクリートは母材強度よりも高い100N/mm2弱のものを用いて、コンクリート強度を増す代わりに橋軸直角方向の鉄筋を省略できる構造とした。間詰コンクリートは予め工場でプレミックスして袋詰めし、現場では専用の機械を使わず、ドラムミキサーなどで水などと混錬して打設することが出来る。同材料の強度から、将来は「プレキャスト床版の間詰だけでなく、中空床版上面の断面修復などにも使用していきたい」(同社)考えだ。
継手部と間詰状況
カナクリート床版の耐久性を確認する試験としては、静的梁試験、輪荷重走行試験を行っている。輪荷重走行試験はNEXCO試験法442と土木研究所方式による階段状載荷による疲労耐久性評価試験(いずれも水張り)の2つを試した。その結果、昭和47年道路橋示方書で設計されたRC床版は220kN~240kNの輪荷重、平成8年の示方書で設計されたRC床版は260kN~320kNの間で押し抜き破壊が生じるが、カナクリート床版は水張状態においてもPC床版と同様に階段載荷392kNの輪荷重下でも健全に耐えていることが確認された。一方、間詰部では僅かな滲水程度であるが漏水が発生していた。通常のコンクリート床版のように橋軸直角方向で床版全厚に貫通ひび割れが生じて漏水したわけではなく、混錬した繊維に沿った滲水と見られることから、実適用の際には簡易な浸透性防水材などによる防水工を施した方が確実な施工となりそうだ。
各種輪荷重走行試験
NEXCO各社の大規模更新における採用を目指す
自社のFRP管技術生かし、壁高欄一体型タイプの開発も模索
同床版は既に地方自治体の小規模橋梁などの床版取替で引き合いが来ているが、同社としては、NEXCO各社の大規模更新事業における採用を目指しており、現在は国道とJRなどを跨ぐ古い路線の床版取替において、ヤードの狭さや桁の古さからより軽い重機で架けられるプレキャスト床版として、適用できないか検討されているという事だ。 また、現在のカナクリート床版は地覆立上がり部までのプレキャスト床版で、地覆より上の壁高欄部は、現場打ちで対応する状況であるが、同社は元々電気・通信ケーブルなどを保護するFRP管には定評を有する会社であることから(そうしたインフラケーブルを通す)壁高欄も一体化したタイプのカナクリート床版の開発も模索している。
カナクリート床版が実際に使われた現場状況
優れたFRP管技術も有する