阪神高速技術は、大日本印刷(DNP)が開発したDNP高視認性パターンライト(以下パターンライト)を使って、高速道路の夜間工事時の規制について、ドライバーに直感的に分かりやすく知らせる技術(矢印の形状から「いか」)と、アドビック、エヌティーダブリューと別途共同開発した自発光で高輝度な表示が可能な内照式予告看板(発光の様子から「ほたる」)を一体運用する安全誘導システム『ほたるいか』を本格展開している。具体的には内照式予告看板「ほたる」により、遠方からでも、この先に工事規制があることを認識してもらい、さらに路面投映した矢印「いか」により、最適なタイミングでの車線変更を促すもの。阪神高速道路内では既に昨年12月から大阪地区で運用されており、他道路事業者はもちろん、ゼネコンやコンサルからも問い合わせがあるなど、適用が広がりを見せている。(井手迫瑞樹)
「いか」 規制先端の500m手前から、車線変更を促す矢印を点灯
試作機の1,130gを量産型では600gまで軽量化し取付作業安全性を向上
阪神高速道路は、年間を通じて約8,000件の工事規制を行っている。そのうち阪神高速技術が実施する作業中の事故は年に多くて100件程度、その中でも受傷事故が年に数件発生している。そうした事故を防ぐため、予告看板や矢印板、カラーコーンを設置した保安規制の中で工事を行っているところではあるが、とりわけ夜間において、規制テーパー部における、追加の安全対策技術が求められていた。
同社では、DNPが開発したパターンライトに着目し、図形を投映する技術を用いた追加の安全対策手法を開発した。同技術は避難誘導用途を主な目的として開発されたものである。規制先端の500m手前から、車線変更を促す矢印を点灯させ、連続的に路面に投映することで、運転手の注意喚起と車線変更を促し、事故を未然に防止するもので矢印の形状から「いか」と名付けた。「いか」は懐中電灯のような形状をした照明装置で、その試作機は、小型(50×50×254mm)かつ軽量(約1,130g)でありながら、高輝度を実現しているため、空間的な制約がある高速道路上においても効果的な表示が可能である。また、3W未満であるため、モバイルバッテリーでの動作も可能である。現在提供している試験販売版はこれをさらに600g程度まで軽量化した。当初は点滅制御用の機器を外付けする必要があったが、それを取り込むことで小型化・軽量化したもの。これにより「取付時の作業性を向上させることが出来た」(阪神高速技術)。
「いか」基本概要
「ほたる」 大きな特徴は、表の特殊プリズム反射シート
標示面の透過性能向上により、従来と同等の照度を有しながら、消費電力を抑制
内照式予告看板「ほたる」は、アクリル板の側面からLEDモジュールに配列されたLED光源により入光するもので、アクリル板に印刷されたドットにより光を拡散し、板前面に光を出すことにより、鮮明な表示を可能にした視認性の効果検証により、(常灯より点滅の方が視認しやすかったことから)より遠方からでも視認しやすい点滅方式とした。バッテリーはモバイル充電器(リチウムポリマー)を2個搭載し、「ほたる」と「いか」それぞれに給電する。標示面の透過性能向上により、従来と同等の照度を有しながら、消費電力を抑えることができたためバッテリーをコンパクト化できた。過去において開発を進めていた鉛蓄電池タイプは16時間に対し、モバイルタイプは23時間の連続使用が可能だ。
「ほたる」基本概要
「ほたるいか」改良状況
大きな特徴は、表の特殊プリズム反射シートである。同シートは後ろのLED照明からの光はよく通し、なおかつ前からの光もプリズム反射できる。万が一、内照式のバッテリーが切れても、高輝度のプリズム反射が生きているため、従来の安全対策によるフェールセーフが働く看板となっている。また、当初開発した試作機(7.7kg)に比べて量産型は、看板の接合構造をリベットから溶接構造にしたこと、材質を鉄からアルミにしたことで6.4kgまで軽量化している。
さらに「ほたる」は「いか」を上面または下面に装着するホルダが取り付けられるように改良した。従来は遮音壁取り付け金具や高欄に取り付けたり、直置きしたりして矢印を投映したが、現場での視認性を確認した結果、「ほたる」を投影する面は、遮音壁の場合は下面に、高欄や直置きは上面に「いか」を取り付けた方が、路面にきれいに矢印を投映できることが分かったためだ。また、「いか」は「ほたる」のバッテリーを併用すれば、夜間を通しての運用が可能だ。投映光については、視認するドライバーだけでなく設置作業者の眼にも安全なように対策がなされており、特殊な光学原理の採用によりパターンが遠方からも鮮明に見えるよう工夫されている。
「ほたる」取付状況
「いか」取付状況
「いか」は上下両方に状況に応じて取り付ける
「ほたるいか」3枚設置すれば車線変更しない車両はで0.9%まで減少
適用の拡大により安全性が向上することを期待
同技術は2019年に開発を開始し、2020年から関係各所にデモを行いながら、本線上を限定とした試行に向けた調整を続けてきた。昨年1月にはパターンライトを使った直感的な規制工事予告技術の効果検証を目的とした試行を念頭においた「投映型誘導設備に関する要領」「設置マニュアル」「工事概要書」の各案をまとめている。
さらに、規制に用いるジャンボコーンの先端にカメラを付けて、「ほたるいか」を設置した夜間規制状況において、どの程度の距離まで通行車両が車線変更せず規制テーパーの先端に近づいているかを調査した。
安全検証方法
実際の本線での試行状況
その結果、従来規制ではテーパー先端直前でも13.9%の走行車両が車線変更をしていなかったが、「ほたるいか」を規制予告のために500m手前から設置した場合、(500m区間内に)2枚設置した場合で8.7%、3枚で0.9%、4枚で0.5%しか車線変更しない車両がなく、さらに7枚設置した場合は全ての車両が規制テーパー先端までに車線変更したことが確認できた。そのため基本的には「3枚以上設置することが安全上望ましい」(同社)と考えられる。
安全検証結果と運用状況
阪神高速道路管内では主に大阪府内で昨年12月から本格運用を開始しており、今後も「ほたる」はアドビック、「いか」はDNPが2023年度の量産販売を目指し、同社は技術的な助言を施していく。
同社技術開発課長の上中田裕章氏は当NETの取材に対して「『ほたるいか』は、阪神高速道路はもとより全国各地の夜間規制工事の安全性向上につながればとの思いで、既存技術をアッセンブルし、当社の知見との融合を図って開発した。ぜひ多くの道路管理者や工事受注者さんなどに認知していただいて、適用の拡大により安全性が向上することを期待している」と話している。
年度内にも各40基ほど生産し、阪神高速道路の大阪地区にて使用する予定だ。