群馬県は長野県との県境である内山峠近くにある国道254号16号橋で、劣化した床版の取替を進めている。同橋は昭和39年鋼道路橋設計示方書に基づいて設計され、1973年10月に建設された橋長107m(32.1m+42m+32m)、全幅9.9m(有効幅員9.1m)の単純合成鋼I桁(3主桁)+鋼方杖ラーメン(合成鈑桁橋)+単純合成鋼I桁橋(3主桁)。I桁と方杖ラーメンとの間はゲルバーヒンジで繋がっており、下部工は控壁式橋脚、基礎は直接基礎で、TL-20対応となっている。新たに架設する床版に、従来のRC床版に比べて34%、プレキャストPC床版と比較しても床版の死荷重を25%減らすことが出来る、IHIインフラ建設の高強度軽量プレキャストPC床版『スーパーHSLスラブ』を使っていることが特徴だ。現場を取材した。(井手迫瑞樹)
位置図(IHIインフラ建設提供、以下注釈なきは同)
床版上下面に石灰分が析出するなどの損傷
舗装面にポットホールも生じている
同橋は、2009年に車道部の床版ひび割れ補修、翌10年度に車道部の舗装打替えおよび床版防水、地覆・高欄の取替(歩道部および取付部)、伸縮装置の取替(全箇所)を施した。しかしその後も舗装面にポットホールが生じたり、床版上下面に石灰分が析出するなどの損傷が生じていた。中央径間部はASRを生じているが、損傷としては軽微であり20年度に床版補修(ひび割れ補修および断面修復工+亜硝酸リチウム内部圧入工)により対策を行った。一方で側径間は疲労などによる損傷が著しく、床版取替を行うことにしたものだ。
損傷状況と過年度の補修補強状況
縦桁配置状況(アンダーデッキパネルで補強されていた箇所には縦桁がなかったため床版架設工事中に増設した)(井手迫瑞樹撮影)
疲労と塩害、凍害、ASRが複合的に作用した劣化
片側通行規制下での半断面ずつの床版取替を選択
同橋は、内山トンネルに隣接した箇所にある橋梁。A2(長野側、内山トンネルに隣接)側からA1(群馬県側)に5%近い下り勾配を有している。大型車交通量も多く、冬季の凍結防止剤散布もある。さらにASRも生じており、疲労と塩害、凍害、ASRが複合的に作用した劣化とみられる。
内山トンネルに隣接している(井手迫瑞樹撮影)
「同橋では過年度に床版防水やアンダーデッキパネルによる補強を行っているが、損傷が継続的に生じていたため、今次のような床版取替による抜本的な更新を選択した」。(群馬県 富岡土木事務所)
「同橋を含む国道254号は群馬県の富岡市や下仁田町、長野県の佐久市を結ぶ最短ルートで、第1次緊急輸送道路として使われている重要な道路であり、交通量も多い。そのため、全面通行規制を行ったうえでの全断面による床版取替は難しく、片側通行規制下での半断面ずつの床版取替を選択した」。(同)
活荷重合成構造である同橋の半断面ずつの床版取替では、床版の撤去に伴いこれを合成断面として期待できない。このため同橋では、床版取替に先立ち下フランジ下面に補強桁を設置して主桁全体の剛性を上げるとともに、上フランジ付近に断面を追加することで既設上フランジに発生する応力度を低減している。また、3主桁の同橋では、半断面ずつの床版取替において施工区間のどちらかで既設主桁での床版の支持が困難となるため、併せて縦桁が増設されている。
半断面ずつの床版取替とした
軽量コンクリート2種を用いており、単位重量を大幅に軽減
橋軸、橋軸直角方向ともにプレストレスを導入した床版形式を実現
床版構造
プレキャストPC床版は、冒頭に説明した通り、スーパーHSLスラブを用いている。スーパーHSLスラブは、PC床版では初めて軽量コンクリート2種(粗骨材と細骨材ともに軽量骨材を用いたコンクリート)を用いており、単位重量を大幅に軽減できる。中央径間の床版取替は行わないため、その路面高に合わさねばならないが、プレキャスト床版を用いた床版取替では版下にモルタルを充填する必要がある。既設床版の床版厚が220mm、ハンチ高が低い箇所もあるなかで、RC床版に対して床版厚の低減が可能なPC床版である利点を活かし、床版支間を主桁間隔3.6mと考えた場合の最小床版厚200mmでこれに対応した。
スーパーHSLスラブの概要図と重量比比較表
また、通常の軽量骨材は含水状態で用いるが、同床版で用いる軽量骨材は「低含水状態で使用するため凍結融解に対して抵抗性が高く、かつ塩分がコンクリート中に浸透しにくい」(同社)。スランプロスが生じる懸念もあるが、「現場打ちではなく工場で管理しながら製作するためそうした問題は生じない」(同)としている。用いている軽量骨材は良質の膨張性頁岩を主原料としており、高温焼成の過程で膨張し、表面にガラス状の皮膜を形成しつつ、内部はポーラス状になっているため軽くて強い骨材である。
床版の製作状況
水セメント比は低く(32%)、緻密なコンクリートを形成でき、見かけの拡散係数は0.27㎠/年と塩化物イオンの浸透に対して高い抵抗性を有していることも特徴だ。
橋軸方向の接合は、PC鋼材によるポストテンションによる一体化を採用し、目地の幅を30mmと最小限にするとともに橋軸、橋軸直角方向ともにプレストレスを導入した床版形式を実現した。場所打ち部は両径間の端部、合計4箇所を施工するが、同箇所については膨張コンクリートで打設し、プレキャスト部と同様にプレストレスを導入(但し横締めのみ)する構造とした。
縦締め施工状況
目地幅は30mm強と最小限に抑えた/継手部に用いられているカップラー(井手迫瑞樹撮影)
Dエッジ鉄筋継手+付加的なプレストレス導入するためのPC鋼材(井手迫瑞樹撮影)
橋軸直角(縦継ぎ目)では、同社が開発したDエッジ鉄筋継手+付加的なプレストレス導入による手法を採用している。Dエッジ鉄筋とはHSLスラブおよびスーパーHSLスラブ用に同社が開発した幅員分割施工用の鉄筋継手で、その名の通り先端をD型に拡径加工したもの。継手部に作用する引張力を鉄筋先端の支圧力で抵抗させることで必要継手長を12Dとし、間詰幅を320mmまで縮小できる構造とした。さらに1S12.7用のデッドアンカーから伸びるPC鋼材を縦目地の接続部に少し出すような形で配置して起き、カップラーで両側のPC鋼材同士を繋いでコンクリートに1.0N/mm2程度の付加的なプレストレスを導入し、目地の耐久性を向上させている。間詰部の打設コンクリートは車両の通行による振動の問題からこのときのみ行う全面通行止め時間の短縮のためジェットコンクリートを採用した。