NEXCO東日本関東支社長野工事事務所は、長野自動車道の更埴IC~麻績(おみ)IC間の千曲市八幡付近の中曽根川渡河部に位置する中曽根川橋の床版取替工事を進めている。同橋は平成2年(1990年)道路橋示方書に基づき設計された橋で、1993年に供用された。上下線に分かれており、橋長は上り線が57m、下り線が56mの鋼2径間連続非合成鈑桁橋である。現在までに大きな補修補強履歴はないものの、全長に渡ってエフロレッセンスが見られ、鉄筋腐食やコンクリートのひび割れ、浮きや剥離が発生しており、上面の舗装の一部にもポットホールが発生していたことから床版を取り替えるに至ったもの。渡り線が長い区間確保できないグレートセパレート区間であるため、上下線いずれかを使った対面通行規制は難しく、上下線とも幅員分割施工での床版取替を選択している。同現場を取材した。(井手迫瑞樹)
交通量も比較的多く、大混率も3割弱
同橋は1日の断面交通量が22,300台に達し、大型車混入率も約29%と比較的多い。鋼鈑桁の主桁本数は4本で桁間隔は上り線で2,480mm、下り線で2,540mm、更新前の床版は床版厚230mmのRC床版である。また、勾配は橋軸方向でトンネル坑口側に1.3%の下り勾配、横断勾配は1~2.8%の片勾配であり、勾配を主因とした水の影響は比較的少ない状況だ。
中曽根川橋側面図(今回は赤い部分の床版取替工が施工範囲)(NEXCO東日本提供、以下注釈なきは同)
桁下から見た中曽根川橋/直下には河川が流れている(井手迫瑞樹撮影)
中曽根川橋の床版損傷状況
損傷状況は冒頭に記した通りで、上床版の舗装を切削して調査を実施した結果、床版の一部が土砂化して鉄筋が露出している状況が確認された。ただしそうした箇所はポットホールが生じていた箇所だけで、それ以外の箇所は防水工未設置にもかかわらず比較的健全であった。大型車混入率も高いが、疲労が卓越した損傷とは言えない。やはり現場は信州の山地に位置しているため、凍結融解と凍結防止剤を含む水が浸透したことによる塩害、さらには防水工未設置のため、ポットホール箇所の床版が土砂化したことなどが主因といえる。
トンネルもすぐそばにある(井手迫瑞樹撮影)
本現場では、床版取替を行う前の規制をどのように行うかが課題となる。何故ならば、同橋は上下線が大きく離れるグレートセパレート区間に位置しており、トンネルにも隣接しているためだ。上下線が隣接する個所に渡り線を設けて対面通行規制を実施しようとしても、規制延長が5km以上に伸び、利用客への負担が大きくなる上に姨捨SAにアクセスできなくなる。また、トンネル設備の改修が必要になるといった課題も生じてしまう。そこで、同橋では上下線とも2分割の床版取替(幅員分割施工)を採用した
床版の取替に伴う主桁の補強は必要ない。厳密にいうと端部の場所打ち床版部の影響でブラケットの増設は必要になるが、それ以外の補強は不要である。
取替面積は上下線合計1,100㎡強
PCaPC床版は高欄が一体化したL型構造を採用
取替面積は、上り線で565.7m2(追越車線275.7m2、走行車線290m2)、下り線で555.7m2(追越車線270.9m2、走行車線284.8㎡)、合計1,100㎡強を施工する。プレキャストPC床版(以降、PCaPC床版)は、幅員分割施工のため1パネルの大きさは橋軸2.16m×橋軸直角方向5.15m(橋軸直角方向が通常の半分サイズ)とした。床版は川田建設那須工場で製作され現地に運ばれている。設計基準強度は50N/mm2、早強ポルトランドセメントを使用している。幅員分割のため施工スペースが限られていること、施工期間が限られている(例えば1回目の上り線施工はゴールデンウイーク明けから海の日までの2ヶ月強で完了しなくてはいけない)ため、床版は壁高欄と一体化したL型構造とした。壁高欄と地覆の間の間詰部をなくすことで、鉄筋・型枠・打設・脱型の現場打ちで要する一連の作業をなくし、施工効率化を実現している。
床版はL型構造とした/KK合理化継手を採用(井手迫瑞樹撮影)
PCaPC床版のパネル間の継手は、元請の川田建設が特許を有する「KK合理化継手」を採用した。同継手は鉄筋の先端にナットを取り付けた構造であり、従来のループ継手構造に比べて間詰部の配筋作業を効率化している。橋軸直角方向の継手部には、NEXCO総研、NEXCO3社・ピーエス三菱が特許を有する、突合せ構造の接合面と接合キーを有する縦目地構造を採用した。同構造は、走行車両による振動が起きている状況でも確実に接合でき、場所打ちコンクリートや縦桁を不要としている。接合面には、非腐食性のガイドピンとエポキシ樹脂系接着剤を使用し、プレキャストPC床版1枚当たり4本のPCケーブルでプレストレスを導入することで、橋軸直角方向を一体化させる。接着剤は厚塗りが可能で高弾性を有するエポキシ樹脂系接着剤『アルプロンA105-Y』を1mm厚以上塗布することで、不陸の吸収と接合面の密実性の向上を図っている。
突合せ構造の接合面と接合キーを有する縦目地構造(井手迫瑞樹撮影)
床版の鉄筋はエポキシ樹脂塗装鉄筋、PCケーブルもスープロストランドを採用している。加えて、排水処理はFRP製の排水桝をPCaPC床版内に埋め込む形で設置し、防食性能や排水処理の向上を図っている。
PCケーブルの挿入および横締緊張状況
腐食を生じさせないFRP製排水桝
仮設防護柵の基部の幅を従来の1/3強に縮める
既設床版のアンカー削孔時は安全面に大きく配慮して施工
グレートセパレート区間で交通台数も多く、大型車混入率も高いことから、本現場では交通規制をどのように低減するか、また供用した状況となる片側の車線に対してどのように安全を確保するかが重要となる。
今回は、幅員分割施工を採用しているが、橋軸直角方向の床版分割に当たっては、供用車線の幅員および仮設防護柵の幅を考慮して、分割幅を決定した(右図)。供用車線の幅員は最小限の3.25mとし、左右の路肩を0.5mに設定、仮設防護柵の基部の幅を0.25mとし、残りを施工帯とした。その結果、分割幅は追越車線側で4.85m、走行車線側の時、5.1mとなった。橋軸方向は、大型トラック(15t)の積載幅に収まる2.16mに分割した。
仮設防護柵の設置基部の幅の狭さにこだわったのは「供用している走行車線部の幅をそれだけ多く確保できるため、規制する延長の長さを短くできる。トンネルが極めて近接しているため、それが切実に必要となる。通常の防護柵は700mm程度の幅を有するため、供用する車線幅も厳しくなるし、それに従って擦り付け区間が長くなってしまう」(NEXCO東日本)ため。
車線シフト区間を考慮した
供用している走行車線部の幅を多く確保するため仮設防護柵設置基部の幅の狭さにこだわった(井手迫瑞樹撮影)
防護柵のアンカー削孔/アンカー取付/支柱設置状況
仮設防護柵の設置で一番難しいのは、最初の切断範囲外にある供用車線側の端部に防護柵設置用のアンカー削孔を行わなければならない点である。即ち供用している交通に極めて近接している個所での作業となるため、ラバーコーンの配置間隔を通常の倍となる10mピッチとし、さらに上流側に黄旗監視員を配置して注意喚起を行いながら作業した。削孔は既設床版を下向きに行うものであるが。その際に使う削孔機は一旦セットしたら、離れた位置からリモート施工できるものを採用し、作業者の安全を確保した。削孔後は、規制して作業ヤード化した追越車線側にユニックを配置して、仮設防護柵の基部となるH鋼をアンカー削孔位置に合わせて設置した。アンカーの挿込みは桁下から施工するため、供用車線への影響はない。その後、同様にユニックを用いて防護柵の柱部分となるビーム材や、飛散防止のための養生枠(飛散防止兼目隠しのための金網)を設置して仮設防護柵を完成させた。
防護柵組立て状況
仮設防護柵の高さは2m弱とした(右写真は左写真の赤枠拡大部)(井手迫瑞樹撮影)
追越車線側の幅員分割施工床版の架設完了後は同様に仮設防護柵を配置する。新設したプレキャストPC床版にはあらかじめ仮設防護柵用のインサートが設けられており、そこに仮設防護柵を挿込むことで、簡単に施工できる。一時的に仮設防護柵は2ラインが並んだ状態となるが走行車線側の防護柵は当面残置する。車線を切り替えて走行車線側の幅員分割施工を始める際に、最初に撤去していく。