NEXCO東日本関東支社長野工事事務所は、長野道、上信越道のトンネル対策区間を抱えており、交通に配慮して半断面ずつの施工で行わなくてはならない。また、トンネル内に添架しているインフラ設備にも配慮しながら施工を進めなくてはいけないなど、対策工事は困難なものとなっている。こうした課題に対し、現在対策工事が進捗中の一本松トンネル(今次の施工延長は160m)では、元請の西松建設が施工技術や施工体制・工程を工夫することによって、施工日数を短縮(規制日数ベース)できる見込みだ。その一本松トンネルの状況を中心に現場を取材した。(井手迫瑞樹)
路面隆起が10cmから最大20cm
一本松トンネルは、要対策延長は全長の8割程度に達する
盤膨れの変状メカニズム
盤膨れの変状メカニズムは大きく分けて2種類ある。スクイージングとスウェリングである。スクイージングは、地山強度比(=σc*/(γH))が小で、トンネル掘削で再配分された応力が周辺地山強度を越え、破壊され路盤が隆起する。スウェリングは路盤の排水管の周辺に湧水が集まり、路盤の膨潤性粘土鉱物に反応し、吸水膨張で強度が低下し、路盤が隆起する現象をさす。こうした損傷によって路面が隆起してひび割れの発生や、円形水路の閉塞などが生じる。これが盤膨れである。今回取材した一本松トンネルはスクイージングとスウェリングの複合作用により盤膨れが生じたと考えられている。
スクイージングとスウェリング(NEXCO東日本提供、以下注釈なきは同)
一本松トンネルの損傷状況
上信越道や長野道は、フォッサマグナ地域に属し、堆積岩類や火山岩類が分布している。地質状況としては、礫岩・砂岩・泥岩などの堆積岩や火山岩、火山砕屑岩から主に構築され、いずれも新第三期中新世の地層である。いわゆるグリーン・タフ地層(緑色凝灰岩、変質して緑色を呈する苦鉄質~珪長質の火山岩類を主体とし、泥岩、砂岩、礫岩などを挾む地層)である。安山岩や蛇紋岩などが貫入しており、火山活動や激しい地殻変動を受け褶曲、断裂を生じている地層である。
グリーンタフ地域と盤膨れトンネルの位置
さらに両路線は泥岩や凝灰岩などの膨張性を有する地質の区間を通過することから、供用後に路面隆起や覆工コンクリートのクラックなどの変状が発生している状況にある。過年度には、日暮山トンネル(下り線)、一本松トンネル(下り線)および閼伽流山トンネル(下り線)で路面隆起が10cmから最大20cmに及んでいる著しい損傷個所でインバート設置工を行っているに過ぎない状況であり、現在施工している長野道一本松トンネル(下り線、現在の施工対象範囲は160m)、上信越道高岩山トンネル(下り線、同130m)を合わせても350m程度である。
路面隆起が10cmから最大20cmに及んでいる
管内で対策が必要なトンネルの位置
それに対して、長野工事事務所で対策を行わなくてはならない対象範囲で、緊急性の高い盤膨れが現に発生している区間は約4.2km、盤膨れが発生していないが、発生している個所と同一の地層を有し、損傷の発生が懸念される「隣接区間」が約8.6kmとなっている。最も対策区間が長い一本松トンネルは、上り線が全長3,203m中2,602m、下り線が同3,191m中2,560mが対象と対策延長は8割程度に達している。本来はこうした損傷個所はできるだけ速やかに対策を行いたいのだが、それが出来ない理由がある。
11月下旬から翌年4月までは雪氷(冬季)期間のため作業を休止
全て片側1車線の狭隘な施工環境下での施工を強いられる
対策施工実施上の問題点
一本松トンネルでは、以前施工した著しい損傷が生じている区間40mのインバート設置工に2年の歳月を要した。40mに2年である。
その理由として挙げられるのは4点だ。まず、長野道の地域特有の条件で、11月下旬から翌年4月までは雪氷(冬季)期間のため作業を休止せざるを得ない。工事する場合は、通行止めや渋滞発生の社会的影響を鑑みて昼夜連続の車線規制により半断面施工を行うが、「雪氷期間は除雪車の通行や通常時に比べ事故がどうしても起きやすく、インバート設置のため舗装を撤去して舗装面の下部の掘削を開始してしまうと規制の撤去が困難になってしまう。また、降雪時には坑外に設置する規制機材や表示板への対策が困難」(NEXCO東日本)なためだ。さらに交通量が増加するGWやお盆、年末年始、3連休以上の休みの間も作業は休止して車線規制を解除しなくてはならない。事実上の施工期間は半年程度になってしまう。さらにはインバート設置工を行う前の準備段階として、電力・通信ケーブルの移設、既設構造物(監視員通路・監査廊)の撤去、排水系統の切り回しをしなくてはいけない。また、インバート設置工は供用車線を確保(車線幅3.25m+路肩0.5~0.75m×2)したうえで、全て片側1車線の狭隘な施工環境下で行う必要があるのだ。
供用車線を確保しながら施工しなくてはいけない
今回、施工対象となる一本松トンネルは約160m程であるが、それでも過年度の40mの対策工の実績から約3年を要すると考えられた。そのため施工効率化などを求める調達方式を採用した。
重機先端のアタッチメントだけ変えられる機械を採用
親杭の上面に取り外しが簡易な仮設防護柵を設置できる機構を設ける
施工期間短縮の工夫
インバート設置工を狭隘環境下において行う上で困難な点の一つは、重機の旋回と施工上の制約だ。ブレーカー、切削機、バックホウなど様々な種類の重機を使わねばならない。
アタッチメントだけ変えられる重機の採用(過年度の施工状況から)
一本松トンネルで実際に使う重機(井手迫瑞樹撮影)
しかし、ヤードは狭すぎて機械の入れ違いができない。そのため地山条件や施工箇所に応じて、重機先端のアタッチメントだけ変えられる(掘削)機械を取り入れることでその問題をクリアした。重機の機体自体は、幅2,000mm程度しかなくコンパクトで、0.4㎥級のバックホウを用いる計画としている。
さて、本現場は土留め杭を打って、走行/追越車線を2分割するのであるが、この土留め杭の路面より上部には、施工時の防護柵を設置する必要がある。防護柵は規制解除の際に早期に一時撤去し、仮舗装を設置しなくてはならない。
脱着式防護柵の採用
そのため、親杭の上面に仮設防護柵を設置できるようにし、かつ取り外し(脱着)を簡易にできる機構を設けた。土留め杭は汎用的なH型鋼ではなく、部材から組んで溶接して作るビルドH鋼を用いている。長さは3.47mでサイズは225mm×220mm、厚さはウエブが9mmでフランジが12mmとした。仮舗装(舗装10cm+路盤35cm)の施工・撤去がし易いように路面から18cm下げた箇所に打ちこんでいる。インバート施工のための土留め杭は走行側および追越側の防護柵の柱を固定する構造としている。最初(追越車線側施工時)は防護柵の柱をそのまま上に上げるだけでよいが、走行車線側施工時は車線幅員を確保するために防護柵の支柱と土留め杭の位置を偏芯させる必要がある。そのため杭のエンドプレートの形状や脱着を容易にして、設置しやすくしている。