ショーボンド建設は、大日本コンサルタント、NSWと共同でコンクリート構造物分野においてAI(ディープラーニング)技術を活用して写真データと橋梁諸元データから劣化診断を総合判定できるシステム『AI診断士』を開発した。ショーボンド建設の各技術部門から3,220の教師データを抽出、劣化診断AIの基本コンセプトを示したうえで、それをもとにAI技術を有する大日本コンサルタントが骨組みを構築、NSWがユーザーインタフェースを作った。写真データは画像を専門に判断するAIが診断、これにGPS座標や構造物諸元データからなるデータAIと掛け合わせることで総合判定を下し劣化や損傷の原因を特定する。構造物諸元データは橋長や橋梁形式、交通条件など基礎的条件に加え、GPS座標から取得した構造物位置の気象特性、劣化要因判定に必要な地域特性などから構成されている。
対象となる損傷種類は、中性化、塩害、ASR、凍害、疲労、乾燥収縮、その他の7分類で画像AI単独の劣化要因判定、データAI単独の劣化要因判定を行い、各々の判定を総合した正答率は90%程度に達する。また、判定によって特定された損傷種類に応じてAIが対策工法を示すこともできる。ショーボンド建設は、同社の日常的な技術提案ツールとしてコンクリート構造物への劣化要因判定と補修補強工法までを提案するツールとしての活用を目指す。
AI診断士の仕組み
使用した教師データの内訳
AI診断士が今までのディープラーニング型AIと違う点は3つある。1つ目はコンクリート構造物の劣化要因判定、工法提案や実際の施工などの経験が豊富なショーボンド建設のデータを教師データとして活用していることである。2つ目はそのデータを大日本コンサルタントが機械学習技術の1種である勾配ブースティング決定木(Gradient Boosting Decision Tree,「GBDT」)を利用してデータAIのシステム開発を図り、画像処理技術に長けたNSWが画像AIを作成すると共に、ショーボンド建設のコンセプトに応じて、システムのプログラムやインターフェースを整備したものだ。
3つ目はディープラーニングであるが、判断の指標を明示しているという点だ。従来のディープラーニングAIは判断は示すが、判断の根拠はブラックボックス化しており、判断の説明が出来ないため、劣化診断等においての導入に二の足を踏む傾向があった。しかし、AI診断士はSHAP(SHapley Additive exPlanation)値を用いることで、構造物の閾値に対してどの要因が診断に大きな影響を示したかを視覚的に明らかにすることが出来る(図:上段の項目ほど診断結果への影響が大きく、色は要因の値の大小を表し、左右は要因の値が及ぼす正負の影響を表す)。
SHAP値① 考え方
SHAP値② 凍害の場合(サンプル例)
こうした技術を活用することで、劣化原因の判断から対策工法の選定までを写真撮影を含めて5分程度で行うことが出来る。なお、『AI診断士』にはクラウド上のサーバーとアクセスして稼働するクラウド版と、通信環境がない場所で使用し、iPad単体で使用できるエッジ版の2種類がある。
『AI診断士』の操作画面①
左から、タイトル画面/構造物選択1 ※事前に登録した構造物諸元を呼び出す/構造物選択2/構造物選択3 ※諸元の確認画面
部材選択画面/損傷種類選択画面/写真撮影および認識範囲指定/AIによる損傷原因判定ボタン
実際の操作も簡単だ。まずデータとして打ちこんである構造物諸元を選択し、さらに構造物の写真を取り込み、損傷部位をマーカーで囲んで決定ボタンを押す。その結果、画像AIとデータAIから総合的に損傷原因が判断される。まれに損傷原因が両AIで分かれることがある。その際はAIは重みづけ評価で2つのAIの診断結果から最適な方を選択する。仮に明らかに診断結果が誤っていると判断した場合はエンジニアによるジャッジを反映させることも可能で、その場合将来的な学習データとして利用できるようになっている。
次に損傷部位・損傷原因等に沿って、AIが対策工法一覧から最適工法を示す。ショーボンド建設は自社で運用する場合、自社保有のどの工法が、最適かをも明らかにすることが出来るようにしている。
『AI診断士』の操作画面②
AIによる損傷原因判定処理中/AIによる損傷原因判定結果/AIによる損傷原因判定結果選択 ※デフォルトは総合結果、一応選択も可
/AIによる対策工法選定ボタン
AIによる対策工法選定結果/具体的対策工法の表示画面
ショーボンド建設は、当面は社内使用に限定し、さらなる教師データの増強や精度の向上を図っていく考えだ。(井手迫瑞樹)