ガセットプレートや高力ボルトの破断など、損傷は376箇所に及ぶ
首都高速道路 荒川湾岸橋の損傷状況を公開
首都高速道路は20日、「首都高速道路の大規模更新・修繕及び機能強化に関する技術検討委員会」(以下、委員会)の中間とりまとめで鋼橋の代表事例として挙げられた荒川湾岸橋の損傷状況を報道陣に公開した。同社における鋼橋の延長は約206kmで、全体延長327kmの約63%を占めている。その中でも同橋は沿岸部に位置することから、飛来塩分などの影響により劣化や損傷の進行が速く、現在確認されている損傷は部材の断面欠損や破断などの深刻な損傷を含めて376箇所に及んでいる。
高速湾岸線の荒川河口に架かる同橋は、橋長840m、幅員33m(標準部)の7径間ゲルバートラス橋(中央部は船舶が航行するクリアランスを確保するため箱桁構造)。同社の橋梁では、鶴見つばさ橋、レインボーブリッジ、横浜ベイブリッジに次ぐ4番目の長さで、総鋼重は東京タワーの3倍以上である約13,500tに達し、約1,700の部材で構成された長大橋だ。供用は1978年で、1975年の桁架設完了からは47年が経過している。断面交通量は16万台/日で、同社のなかでも交通量が多い区間となっている。
荒川湾岸橋の概況(首都高速道路提供)
現在、同橋では東京側で損傷箇所を部分的に補修する工事が実施されており、そのために設置された桁下の足場から、損傷状況を見学した。
補修工事のために設置された吊足場
中央部付近では、トラス部材をつなぐガセットプレートの破断が見られた。滞水しやすい箇所で飛来塩分の影響もあり、鋼材が腐食、膨張したことで破断が発生していて、そのほかの箇所でも同様の事例が生じているという。
ガセットプレートの破断
部材を接合する高力ボルト(F11T)も腐食したものが多く、遅れ破壊の発生により破断して抜け落ちている箇所もあった。さらに、接合部の鋼材の膨張による損傷も発生しており、防錆スプレーなどで補修した痕が見られた。
高力ボルト(F11T)の腐食・破断
接合部損傷の補修痕
塗膜剥離は随所で発生しており、防食機能の劣化も確認できた。建設時の塗装仕様は、下地が有機ジンクリッチプライマー(15μ)、下塗りが塩化ゴム系塗料(45μ×2層)で工場塗装、中塗りと上塗りが塩化ゴム系塗料(中塗り:35μ/上塗り:30μ)で現場塗装、膜厚は170μとなっている。なお、有害物資である鉛の含有は確認されていないという。
塗膜劣化・剥離が随所で見られた
13日には委員会が現場視察を行い、「厳しい環境下で長期間にわたり利用されてきたのは、完成から現在に至るまで適切に維持管理されてきた賜物ではないか」と評価を行ったうえで、「抜本的な対策にあたっては、単に元の仕様に戻すのではなく、コストや維持管理性を意識しながら、部位ごとにメリハリのある戦略的な対策を講じることを検討すべき」との意見が出された。
同橋は架替えではなく、大規模修繕で長期の健全性を維持する方向で検討しており、同社では第1期大規模修繕が完了予定の2024年度以降に、事業着手できるように準備を進めていく予定だ。その際には、防食性の高い部材の採用や維持管理性などの観点から、議論を進めていきたいとしている。