台船上にユニットジャッキを配置 潮位変化に対応
愛知県 衣浦大橋上り線左折専用橋 6径間を1ヵ月で連続架設
愛知県は、衣浦港に架かる衣浦大橋で上り線左折専用橋の建設を進めている。同橋は橋長413m、幅員10mの6径間連続鋼床版箱桁橋で、高圧送電線および供用中の既設橋梁との近接という現場条件の中で海上から架設を行う必要があった。そのため、同工事を施工する瀧上工業と日本車輌製造では台船+ユニットジャッキによる架設工法を採用して、無事、1ヵ月での全径間架設を果たした。
上り線左折専用橋の新設で渋滞緩和を図る
衣浦大橋は半田市州の崎町と高浜市碧海町を結ぶ海上橋で上り線(南側)と下り線(北側)の2橋で構成されている。左折専用橋の新設はその上り線の交通渋滞緩和のために行われているものだ。衣浦大橋の西側の半田地域と東側の西三河地域には生産拠点が集積し、両地域を結ぶ重要な橋梁であることから、大型車両や通勤車両の交通が多くなっている。
特に上り線では供用2車線のうち、1車線が西三河地域から衣浦港などに向かう左折専用となっていることから直進車線、左折車線の両方で渋滞が多く発生していた。そこで、橋梁を新設して左折専用車線(1車線)を新たに確保し、現橋を直進2車線とすることで、交通環境の改善を図ることにした。
衣浦大橋全景(愛知県提供。注釈なき場合は、以下同)
衣浦大橋西側の「衣浦大橋西交差点」が渋滞ポイントとなり、上り線で渋滞が発生している(撮影=大柴功治。以下、撮影=*)
同橋の下部工は逆T式橋台(鋼管杭基礎)2基、張出式橋脚(鋼管矢板井筒基礎)5基となっている。上部工は経済性を考慮して鋼床版箱桁橋を採用し、塗装色は現橋の2橋が青系であることから、景観上、一体感を持たせるために同系色とした。
衣浦大橋上り線左折専用橋 橋梁一般図(拡大してご覧ください)
台船+ユニットジャッキで架設可能日数を拡大
ユニットジャッキは150tおよび270tジャッキ×4基を採用
衣浦大橋の下流には高圧送電線が横架しているために大型の起重機船は通過することができず、当初計画では台船上に設置したベントに架設桁を載せ、潮の干満差を利用して架設することとなっていた。
上部工架設で最も課題となったのは、台船架設を実施するにあたり潮の干満を利用するため日々異なる潮の変化を正確に把握し、台船の進入・桁の降下・台船の離脱の工程を行う時間を確保することだった。潮が下がる時間に台船の離脱を行うため、潮の干満差が少なければ架設できない。また桁降下時は位置調整など慎重な作業を行うため、できるだけ潮流の遅いタイミングを計る必要がある。そのため、これらの条件を満たす架設可能な日にちが制限され、荒天などを考慮すると架設が長期におよぶ可能性があった。
両社では、課題解決のために架設工法の検討を重ね、台船上にユニットジャッキを配置して、潮位差に加えジャッキの昇降による架設工法を採用した。これにより潮位差が少ない日でも架設可能とすることができ、架設可能な日数を大幅に増やすことができた。
台船は、P1~P5径間の架設(4回)では2,000t積台船を、A1~P1とP5~A2径間架設では1,000t積台船を用いている。
P1~P5径間の架設に用いた2,000t積台船
A1~P1とP5~A2径間の架設に用いた1,000t積台船(撮影=*)
ユニットジャッキの必要能力はP3~P4径間を除き150tジャッキ×4基、P3~P4径間は架設重量が他径間よりも重かったため(各径間の鋼桁ブロック重量などは後述)、270tジャッキ×4基であった。いずれもジャッキの最大ストローク長は2,100mmで、昇降能力は架設重量の約2倍として、施工時の安全確保に務めた。
150tジャッキ(左写真。撮影=*)と270tジャッキ(右写真)
2,000t積台船積付図
潮位を架設開始1ヵ月前から計測
架設前日に施工スケジュールの書き直しも
ユニットジャッキを使用しても架設当日の潮位変化を正確に把握しなければならない。下げ潮幅が大きい時間帯に台船が架設位置に進入してしまうと架設桁が架設済みの桁および橋脚に想定外の接触をしてしまう可能性があることや、潮位差が少なすぎると台船が離脱できなくなるためである。
安全、確実な施工のためには架設地の正確な潮位変化の把握は必須であり、両社では気象庁が発表する衣浦港基準面の潮位予測とその変位差が架設地の潮位予測に対する変位差と相違ないかを確認するため、架設1ヵ月前から架設地と発表されたデータの比較を行った。
その結果、衣浦港よりも架設地の潮位が5~10cm高くなることが分かった。この誤差を考慮したうえで架設計画を立てたが、架設日程が変わると計測潮位が変化することから「架設前日に架設スケジュールを書き直して対応した」という。さらに、架設日の朝には衣浦港と架設地の実際の潮位を計測して誤差を把握した上で潮位表を確認して、台船進入時間の最終決定を行うとともに、架設中も潮位計測を継続した。
架設地の正確な潮位変化の把握のために潮位計測を継続した
浜出しでは2,050吊起重機船「金剛」を用いる
架設桁は、A1~P3径間を日本車輌製造の衣浦製作所、P3~A2径間を瀧上工業の本社工場で製作した。塗装はC-5塗装系を採用している。
地組みは瀧上工業製作桁が岸壁に面している半田第二工場で、日本車輌製造製作桁が衣浦製作所近くの公共岸壁で行い、それぞれ、2,050吊起重機船「金剛」(深田サルベージ建設)を用いて浜出しを行った。浜出し後、架設桁の傾斜調整などを公共岸壁で実施して、架設地まで約6kmを約40分かけて運搬した。
瀧上工業製作桁(左写真2枚)と日本車輌製造製作桁(右写真2枚)の地組み
瀧上工業製作桁(左写真)と日本車輌製造製作桁(右写真)の浜出し
台船による架設桁の運搬