NEXCO西日本中国支社では、供用から約40年経過した中国自動車道の戸河内IC~吉和IC間に架かる上萩原橋他8橋の床版取替工事を進めている。工期は、2020年8月から2024年9月までで、2021年度は、橋長が398m(床版取替面積3,772.5㎡)となる坂原橋(下り線)をはじめ、絵堂橋(下り線)、上大井橋(下り線)の施工が完了した。本工事では、床版取替工事を対面通行規制により実施しているが、現場が降雪地域であるため、冬季までに施工を終えて対面通行規制を解除しなければならないという条件があり、それを満たすために施工順序、施工方法、継手などでさまざまな工夫を行っている。その現場を取材した。
既設床版 コンクリートの剥離や鉄筋の断面減少などを確認
塩化物イオン濃度は最大で6.21kg/m3
坂原橋(下り線)は、一級河川太田川水系の筒賀川と国道186号を跨ぐ橋長398m、有効幅員9.5mの鋼3+4+4(129.5m+129.5m+139.0m)径間連続非合成鈑桁橋(5主桁)。平面線形はA=200~R=450~A=210、縦断勾配は5.0%、横断勾配6.0%~5.6%となっている。既設床版厚は210mmで、過去に上面増厚などの床版補強は行っていない。
坂原橋(下り線)(NEXCO西日本中国支社提供。以下、注釈なき場合は同)
戸河内IC~吉和IC間の2020年の平均交通量は約3,100台/日、大型車混入率は約48%である。同区間は、広島県と島根県の県境に近い中国山地沿いに位置する降雪地域であることから、約4,000t(2020年度実績:中国道 高田IC~六日市IC間)の凍結防止剤を散布している。
既設床版には凍結防止剤に起因すると考えられるコンクリートの剥離、鉄筋の断面減少、漏水とそれにともなう遊離石灰が確認されており、上面でも多数の浮きとともに一部で剥離、土砂化への進行が確認された。さらに、床版張出部では上鉄筋に沿った水平ひび割れも確認されている。塩化物イオン濃度は床版下面の劣化部で最大6.21kg/m3となっており、鉄筋近傍では1.2kg/m3を超過しており、さらなる劣化の進行が懸念された。
床版下面(左・中央)および上面(右)の状況
3橋を同時施工 降雪期までに施工を完了させる
本工事を計画する上で課題となったのは、降雪時期までに戸河内IC~吉和IC間で同一規制内にある坂原橋と絵堂橋(下り線:鋼2径間連続鈑桁橋:橋長94m)、上大井橋(下り線:鋼3+3径間連続鈑桁橋:橋長192m)の床版の取替を完了して対面通行規制を解除することであった。
対面通行規制は6月9日に開始して、11月15日に解除したが、絵堂橋と上大井橋の床版撤去・架設を先行して実施し、その後、坂原橋の床版撤去・架設に移る工程となっていた。しかし、その橋長から既設床版の切断には時間がかかり、すべて切断した後に床版取替工を開始すると工程上、間に合わなくなることが想定されたため、工期短縮が可能となる施工方法を検討・採用して工事に臨んだ。
絵堂橋(左)と上大井橋(右)の施工状況
延長床版の底版の先行施工で工期短縮を図る
その一つが、延長床版のA1側の底版の先行施工だ。同橋ではA1に82.2㎡、A2に82.1㎡の延長床版を設置するが、底版を先行施工することにより、工事車両進入口の閉鎖時間の短縮を図った。通常は、新設床版を架設してクレーンが橋梁上から退出した時点でパラペット・ウイングの再構築を行い、延長床版の施工を行う。この工程では、アスファルト撤去・土砂の掘削、パラペット・ウイングの撤去と再構築、延長床版システム底版の架設、延長床版の架設と、橋台部が3週間程度通行不能となってしまう。
そこで、同橋がA1~P4、P4~P8、P8~A2の3連橋であることから、既設床版の切断工程、絵堂橋と上大井橋の工程を考慮して、A1~P4を先行施工した後にP4~P8、P8~A2の施工を行うこととした。底版の先行施工を行っていたため、A1~P4の施工後、延長床版部の施工は4日で完了することができた。これにより、A1橋台部の工事車両通行が可能となり、P4~P8、P8~A2の施工に速やかに移ることが可能となった。
A1側延長床版の底版を先行施工(左3枚)と施工完了後(右)
延長床版の架設
さらに、P4~P8、P8~A2の床版撤去・架設では、P8からP4およびA2に向けて両開きで施工し、A1~P4を含めて26日で撤去・架設を行い、工期短縮を図った。
継手部はMuSSL工法を採用
継手部も工期短縮を考慮して、ピーエス三菱の保有技術であるMuSSL工法(Mutual-Settled Secure Lap method)を採用した。同工法では、従来のループ継手と同様にあご付形状版を使用しながらも接合部の底型枠が不要となることから工期短縮を図ることができる。さらに、プレストレスが導入されるあご部と後打ちコンクリートが一体となって抵抗するため、接合部のひび割れを抑制できるため、耐久性も向上する。
継手部/MuSSL工法 継手構造
A1~P4の床版撤去・架設中にP4~A2の床版を切断
新設床版架設枚数は195枚
床版の撤去・架設は、前述のとおりA1~P4から開始した。路肩側と中央分離帯側の壁高欄を4m幅で鉛直方向にワイヤーソーで切断し、25tラフタクレーンで吊上げて橋軸方向をカッターで切断して撤去した後、既設床版の切断を行った。切断サイズは橋軸方向2m、A1橋軸直角方向5.48m(5.75t)となっている。なお、P4~P8は橋軸方向5.45m(5.72t)、P8~A2が同5.35m(5.612t)で切断した(橋軸方向はともに2m)。
壁高欄の切断(左3枚)と既設床版の切断(右)
既設床版切断後の1日の標準工程は、午後に既設床版の剥離、撤去、上フランジ上面の研掃・塗装、シールスポンジの貼付けを行い、翌日の午前中に新設のプレキャストPC床版を架設している。新設床版は床版厚220mmで、標準版は橋軸2.0m×橋軸直角方向10.57m、重量11.97t(P4~P8間のみ橋軸直角方向10.58m、重量11.89t)となっており、支点部と端部には調整版を用いた。
プレキャストPC床版割付図(※拡大してご覧ください)
床版製作はピー・エス・コンクリート水島工場で行った(絵堂橋は安部日鋼大牟田工場、上大井橋は極東興和江津PC工場で製作)。継手部には防食のためにエポキシ樹脂鉄筋(AG-エポキシバー/安治川鉄工)を採用して、強度50N/mm3の高強度コンクリートに高炉スラグ微粉末6000を混入して製作したうえで、3日間の水中養生実施している。また、耐久性を考慮して地覆立ち上がり9cmまで一体化を行った。
プレキャストPC床版は製作後、3日間の水中養生を行った
A1~P4では、P4からA1側に向けて160tオールテレーンを用いて、既設床版を136枚に分割して撤去し、新設床版68枚を架設していった。A1~P4の施工中には、P4~A2の既設床版の切断を行い、A1~P4の施工(撤去・架設および間詰部打設)完了後すぐにP4~A2の床版取替工に着手できる工程で作業を進めた。
P4~A2は前述のとおり中間部のP8から両開きで施工していった。P8からA2へは220tオールテレーンクレーンで、既設床版を126枚に分割して撤去し、新設床版63枚を架設、P8からP4へは160tオールテレーンで、既設床版を128枚に分割して撤去し、新設床版64枚を架設している。P8~A2で220t吊りの大型クレーンを用いたのは、クレーンが前向きでの作業となることから必要な旋回範囲を確保するためだった。
既設床版の撤去
新設床版の架設
両開き施工でのクレーン配置例
A1~A2の合計で既設床版の撤去は390枚、新設床版の架設は195枚に達し、7月下旬から9月下旬の約2ヵ月で床版撤去・架設を完了させた。