首都高速道路は、首都高速1号線の多摩川に架かる高速大師橋の更新事業を進めている。橋長292mの鋼橋区間を同じ箇所に架替えるもので、下部工の新設、橋桁移動設備(ベント)上での新設橋組立て、2023年度に約2週間の通行止めを実施しての既設橋移動と新設橋の移動・架設、既設橋の解体・撤去というステップで施工していく。2025年度の工事完成を目指して、現在は下部工と橋桁移動設備の構築が完了、2022年度に予定されている新設橋組立ての準備が行われている。今回は、更新理由から下部工および橋桁移動設備の施工までをレポートする。
施工ステップ概要(首都高速道路提供。以下、注釈なき場合は同)
既設橋鋼橋部は支間長が長く、軽量化によりたわみやすい構造
約1,200箇所以上で疲労亀裂が発生
高速大師橋の鋼橋部は、1968年に供用された橋長292m、幅員16.5mの3径間連続鋼床版箱桁橋(Yリブ鋼床版形式)。基礎構造は、河川部3基が鋼管杭基礎、陸上部1基が場所打ち杭基礎で、橋脚4基はT型RC橋脚だ。
現橋。右側から3径間が鋼橋部
鋼橋部 概要図
鋼橋部は多摩川の河積阻害を極力回避するため、橋脚間隔を長支間にする必要があり、支間長を80m+132m+80mと長くし、部材重量を抑えた経済設計となっている。そのため、たわみやすい構造で活荷重応力が大きくなっていた。さらに、供用から50年以上経過していることによる老朽化や、1日の交通量が約8万台(大型車混入率15.1%)の重交通路線であることもともない、多数の疲労亀裂が発生していた。疲労亀裂は1985年度から確認され、鋼床版では縦リブ、垂直補剛材上端部、縦リブ・横リブ交差部の溶接部など、主桁では主桁と対傾構下弦材取付部、垂直補剛材とコーナーPL溶接部など、これまでに約1,200箇所以上で発生している。
同社では対策として、鋼床版デッキプレートの当て板補強(1992~1995年度)、B活荷重に対する補強として箱桁内対傾構増設、桁外対傾構増設、下フランジ補強、ケーブル補強(1999~2000年度)、主桁等疲労き裂に対する補強として主桁と対傾構下弦材取付部当て板補強、垂直補剛材とコーナーPLの疲労補修(2002年度)を実施し、2011年度からはYリブの取替えなどを行ってきた。
疲労亀裂発生箇所と対策事例
しかし、構造物の長期的な安全性を確保する観点から、鋼橋部の更新を行うことを決定した。現行基準に適合した構造とするため、新設橋の上部工荷重は主構造のみで約2,600tとなり、既設橋の約1,800tを大きく上回ることから、下部構造もあわせて更新することとなった。
支間長は河川管理上の制約により既設橋と同じに
疲労損傷対策として車道部の鋼床版縦リブは開断面リブを採用
新設橋は橋長、支間長とも既設橋と同じで、鋼3径間連続鋼床版箱桁ラーメン橋となる。幅員は現行基準にあわせて両側を0.85m拡幅して18.2mになる。基礎構造は河川部が鋼管矢板基礎、陸上部が鋼管杭基礎、橋脚は河川部3基が鋼-RC複合橋脚(門型柱)、陸上部1基がT型RC橋脚である。
新設橋 概要図
橋梁形式の選定にあたり、支間長を既設橋と同じにしたのは、東京大師横浜線(産業道路)の大師橋が近接しているため、河積阻害に配慮し、橋脚位置を既設橋と同じにする必要があったからだ。また、上部工の重量増加と河川内の橋脚構造を考慮して、死荷重の小さい橋梁形式である鋼床版箱桁を採用するとともに、疲労損傷への対応として車道部の鋼床版縦リブは開断面リブ(路肩・中央分離帯は閉断面リブ)とした。さらに、横桁下フランジと主桁ウェブの接合は全断面溶接とし、応力が集中する橋脚隅角部にはフィレット構造を採用している。耐震性では、中間支点部を剛結構造として、レベル2地震動に対してすべての部位で道路橋示方書(平成24年3月)の耐震性能1(地震によって橋としての健全性を損なわない性能)を確保する設計としている。
門型橋脚を採用したのは、既設橋脚の撤去工事との重複を避けるためと、河積阻害率を高速道路橋における基準内の7%以下(現況は6.3%)に収めるためだ。附属物については、恒久足場の採用および桁高が高い箇所に点検用通路を設置して、維持管理性向上を図っているほか、東京側約55mに設置されていた遮音壁は走行快適性と景観性に配慮して透光型遮音壁で更新することとした。
新設橋 完成イメージ
2019年10月の台風19号により平均1m程度の埋め戻りが発生
再浚渫から8カ月後に45m幅航路を確保
浚渫工
更新に必要な部材や工事機材は東京湾から台船で搬入するため、その航路を確保する浚渫工に2018年1月から着手している。浚渫範囲は羽田空港付近から工事エリアまでの約2kmで、大型台船による新設橋の大ブロック運搬前は45m幅航路、運搬時は70m幅航路、運搬後は45m幅航路を、A.P.-1.5mの水深(現多摩川スカイブリッジ下と工事エリアはA.P.-2.5m)で確保する計画で作業を進めた(A.P.=Arakawa Peil。東京湾霊岸島量水標の目盛による基準面零位を基準とする基本水準面)。
工事エリアなど上流域は2m3級バックホウ浚渫船と300m3級土運船、下流域は3m3級バックホウ浚渫船と500m3級土運船を用いて、汚濁防止枠と汚濁防止膜や浚渫船と土運船の間に土砂落下防止シートを設置するなどの環境保全対応を行いながら45m幅の航路を確保して、2018年4月には下部工や橋桁移動設備などの工事に着手した。
浚渫状況平面図/汚濁防止枠(中央)や土砂落下防止シート(右)などを設置して環境保全対応を行った
2019年10月には浚渫工での最大の“試練”が発生する。東日本を中心に大きな被害をもたらした台風19号の襲来だ。多摩川流域でも越水による広範囲な浸水被害が発生したが、本工事も例外ではなく、浚渫エリアで平均1m程度の埋め戻りが発生し、下流側の航路では土砂が水面上まで堆積するといった箇所も見られた。下部工などの工事を進めるためには、再浚渫が必要になり、台風から2カ月後の12月から着手した。
台風後の状況
浚渫状況(左は台風前、右は台風後)
より早く工事を再開するため、作業台船の航行を可能にすることが第一なことから、段階的に航路を確保することにし、まずは一方通行が可能になる25m幅航路の再浚渫に取り掛かった。しかし、東京湾内には平常時でも10隻程度しかバックホウ浚渫船がなく、現多摩川スカイブリッジなどの工事が錯綜していたため、「船団(バックホウ浚渫船+土運船)と作業員の確保に非常に苦労した」(元請の大成・東洋・IHI・横河JV)という。それでもなんとか、4船団に加えて短期で1船団を確保し、工程短縮のため粗掘りする船団と整形する船団に分けて作業を進めた。翌20年6月には25m幅航路を、7月には45m幅航路を完成させている。台風19号前の45m幅航路の浚渫量は約11万m3で、台風後再び45m幅航路に戻すまでの浚渫量は約14万m3となった。
大ブロック運搬に備えて、航路を70m幅に拡幅する浚渫を今年度末に完了した。