道路構造物ジャーナルNET

免震支承への取替により上部構造と橋脚の補強対策を最小限に

NEXCO西日本 山陽道旭川橋で耐震補強工事を実施

公開日:2022.02.21

 NEXCO西日本中国支社は、山陽自動車道の山陽IC~岡山IC間に架かる旭川橋(上下線)で進めていた耐震補強工事をほぼ完了した。同橋は側径間が単純合成鈑桁橋、中央径間が鋼3径間連続上路トラス橋(247.2m)で、耐震性能照査により支承の耐力不足やトラス部材の応力超過、RC橋脚の耐力不足などが明らかになったことから、免震支承への取替え、トラス部材当て板補強などの耐震補強工事を実施した。耐震補強事業は、災害時の救急救命活動や復旧支援活動を支えるため、緊急輸送道路上の橋梁について、大規模な地震時でも軽微な損傷に留まり、速やかな機能回復が可能となる対策として進めているものだ。

3次元立体ファイバーモデルを用いて耐震性能を照査
 橋軸方向に対して固定支承となるP2に地震時水平力が集中

 旭川橋は、1991年に完成した橋長325m、有効幅員9.0mの単純合成鈑桁橋(A1~P1)+鋼3径間連続上路トラス橋(P1~P4)+単純合成鈑桁橋(P4~A2)。基礎構造はA1が深礎杭、P1が場所打ち杭、P2とP3が円形ケーソン、P4が直接基礎、A2が深礎基礎で、下部構造はA1およびA2が逆T式橋台、P1とP4が柱式橋脚、P2とP3が円柱式橋脚(中空断面)となっている。依拠した設計示方書は、昭和55年道路橋示方書とJH設計要領第二集(昭和55年)である。山陽IC~岡山IC間の交通量は約37,500台/日で、大型車混入率は当該区間を含む神戸JCT~廿日市JCT間で38.5%(2021年6月時点)だ。


旭川橋(大柴功治撮影。以下、撮影=*)

 耐震性能照査は、上部構造で軸力変動や2軸曲げ、材料非線形性と鋼部材の座屈現象を適切に評価する必要があることから、それらを考慮できる橋全体の3次元立体ファイバーモデルを用いて実施した。その結果、レベル2地震時に橋軸方向では桁遊間、支承耐力、RC橋脚耐力、トラス部材、橋軸直角方向ではトラス部材、RC橋脚せん断耐力、RC橋脚曲げ耐力、支承耐力、パラペットせん断耐力で応答値が許容値を超過していた。とくに、橋軸方向に対して固定支承を有するP2橋脚において上部構造、下部構造ともに地震時水平力が集中することにより、耐震性能を満足しない部位が集中した(トラス橋部の支承条件は、橋軸方向に対してP2以外は可動支承、橋軸直角方向に対してはすべて固定支承)。具体的には、橋軸方向の照査で、P2支承耐力の応答値が許容値の2.98倍、下弦材が同最大4.54倍、上弦材が同最大1.36倍、P2橋脚せん断耐力が同3.93倍となり、橋軸直角方向ではP2支承が同4.13倍、上弦材が同最大4.36倍、垂直材が同最大3.49倍、対傾構が同最大4.37倍、P2橋脚せん断耐力が同2.92倍となった。


耐震性能照査の結果(左図:橋軸方向/右図:橋軸直角方向)※拡大してご覧ください(NEXCO西日本中国支社提供。以下、注釈なき場合は同)

対策内容は「支承免震化+桁端部切欠き+トラス部材補強」
 支承取替えは上下線合計16基 桁端部の切り欠きで桁遊間を確保

 これら耐震性能照査を踏まえ、①支承条件を現況の固定・可動のままでのトラス部材補強案、②支承免震化+制震ダンパー設置+トラス部材補強案、③支承免震化+桁端部切欠き+トラス部材補強案の3案で対策の比較検討を行った。対策決定にあたっては、橋軸直角方向の照査結果でトラス部材の損傷箇所が多かったため、その低減と、免震化した場合の桁遊間の確保に着目し、トラス部材の補強箇所数を最も低減でき、構造性・施工性・経済性にも優れる③を採用した。


解析結果に基づく対策の検討

耐震補強一般図(下り線)

「一級河川旭川内に橋脚を有する規模の大きな橋梁であることから、免震支承に取替えることにより橋全体系の補強対策を行い、上部構造と河川内橋脚の補強を最小限に抑えることを目指した」(NEXCO西日本)というように、③ではトラス部材の補強箇所数で①と比較して約50%、②とでは約15%の低減を図れることになった。橋脚についても、P2、P3ともに橋軸方向と橋軸直角方向でせん断耐力が不足し、P3では橋軸直角方向で曲げ耐力も不足していたが、③の対策によりP3は耐震性能を満足することになり橋脚補強が不要となったことから、P2のみの補強(炭素繊維シート巻立て)とすることができた。
 支承は、鋼製支承から免震支承であるスプリング拘束型鉛プラグ入高減衰積層ゴム支承(SPR-S/川金コアテック)に取替えた。基数はP1~P4各2基で、上下線合計16基である。


新設のゴム支承(上り線)(撮影=*)

 免震化にともない、設計で想定した振動を担保するP1・P4部の桁遊間確保が必要になり、桁端部の切欠きを行う対策を講じている。具体的には、下弦材と橋脚を繋ぐ落橋防止のための連結装置(リブ)を撤去したうえで、下弦材を100mm切断撤去することで桁端部に切欠きを入れた。これにより桁遊間を対策前の134mmから170mmとし、十分な遊間を確保した。なお、耐震性能照査で桁遊間134mmでは地震時に桁が橋脚に衝突し損傷する危険性も明らかになっていた。


桁端部の切り欠き(右図:施工前/中央2枚:連結装置と下弦材の切断/左図:施工後)

工事にかかわるすべての材料は地上のクレーンを用いて搬出入
 P2・P3既設鋼製支承の搬出が課題に

 施工は上り線、下り線の順番で行い、それぞれ足場設置後に落橋防止構造工、トラス部材補強、塗装工、支承取替え、段差防止構造工の順で進めていった。落橋防止装置はブロック型ゴム被覆チェーン(1,000kN型)をA1、P1、P4、A2に各4基、上下線合計で32基設置している。


A1(下り線)とP4(上り線)の落橋防止装置(撮影=*)

 吊足場は、先行床施工式フロア型システム吊足場「クイックデッキ」を採用している。熟練工でなくても組立てが可能であり、先行床施工で高所での足場設置時に安全性の確保ができるとともに、後述するように支承や補強部材などの重量物を足場内に載せ、横移動する必要があることから、作業床1ユニット(2,496mm×2,496mm)の最大積載荷重2.18t(350kg/㎡)の同足場を選択した。採用面積は上下線各2,877㎡。


吊足場には、設置時に安全性を確保でき、最大積載荷重が大きいクイックデッキを採用(撮影=*)

 施工で課題が多かったのは支承取替えだ。施工前には、免震支承の据付高を確認するための事前調査を実施した。しかし、供用下での計測作業となったため、大型車の走行時は橋自体が上下に揺れて計測ができなかった。「大型車の交通量が多くて橋が揺れ続ける中で、揺れが収まる一瞬のタイミングで各支点の計測を行うのは大変手間がかかった」(元請の東亜工業所)という。


供用下での計測には苦労したという

 支承や補強部材など工事にかかわるすべての材料の搬出入は、高速道路本線上から行う場合、山陽道の交通量が多く本線規制による渋滞発生が懸念されたため、上からは行わず、P1脇の道路とP4脇のヤードに配置した25tラフタークレーン各1台を用いて行った。


クレーン配置図

すべての材料の搬出入にはクレーンを用いた

 P2、P3部への足場内移動はP1部から台車での人力横引きで対応したが、課題となったのはP2・P3既設鋼製支承の搬出だ。両支承は「稀にない大きさ」(同)で、P2支承は高さ760mm、幅1,300mm、重量3.478t、P3支承は高さ1,065mm、幅1,560mm、重量4.96tというものだった。これをそのまま撤去・搬出することは不可能だったことから、ガス切断で2分割ないし3分割することにしたが、板厚が60mmもある鋼材を切断する作業には時間も労力もかかり、P2では支承1基あたり作業員2人で16時間を要した。


P2既設支承(左写真:撮影=*)

ガス切断により支承を分割した

クレーンでの荷下ろし位置までは横引きで移動

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム