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SCBR工法、駆動式ワイヤーソー、各種安全対策、長期間を考えた仮設橋脚......

NEXCO西日本 阪和道松島高架橋のRC中空床版桁取替初弾を施工

公開日:2022.03.22

 NEXCO西日本関西支社和歌山高速道路事務所は、所管する阪和道松島高架橋他9橋の大規模更新に着手している。2019年4月よりオリエンタル白石・IHIインフラ建設JVが同橋を含めた10橋(上下線別カウント)の設計業務、2020年8月より桁および床版取替工を行っているもの。更新工事は中分側、次いで上り線側、さらに下り線側と3分割断面での施工を行う。その最中も、現状と同じ4車線を確保するため、車道幅員を3.5mから3mに絞ると共に、左右の路肩250mmを有効活用している。さらに車線を確保するため、性能は維持しつつも設置幅の少ない仮設防護柵を用い、さらに作業労働者の安全、警備員の安全と省力化を図るための様々な遠隔化、自動化技術などを用いている。施工にあたっては、既設桁を素早く、正確に切断するため、駆動式ワイヤーソーを用い、架設に当たっても、施工効率の確保と構造の最適化を図ることのできる工法としてSCBR工法を採用している。現在は、同更新工事の第一弾として松島高架橋上下線P5~P10中央部の桁取替工事を行っている。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)

供用路線は47年以上経過、骨材中の塩分が鉄筋腐食を招く
 増厚部は界面の骨材間で大きく水平ひび割れが生じている

損傷状況と対策選定
 松島高架橋の橋梁延長は518m。そのうち、架替え対象はA1~P29の504.5mである。同高架橋は、殆どがRC中空床版橋(最大5径間連続)であるが、国道24号を跨ぐ箇所(P10~P11)のみ鋼鈑桁構造である。RC中空床版部は桁を撤去し、PCT桁(SCBR工法)に架替える。鈑桁部はRC床版を鋼床版に取替える。
 さて、松島高架橋はなぜ、架替えなければいけないのか。同橋も含まれる阪和道の阪南IC~海南IC間は1974年に供用された路線であり、47年以上経過している。さらに当時は、海砂内の塩分が良く洗浄できていなかったことから、コンクリートの中性化(ポーラスの進展)と共に、塩分が徐々に鉄筋近傍まで移動し、鉄筋の腐食を招いている可能性も懸念された。平成17年には、下からベントで支えた上で、上側のおよそ半断面をはつり、シラン系含浸材をマクロセル腐食抑制用の絶縁材料として塗布し、上半断面を打設して床版防水を施した補修工事も行っている。同補修は上部からの水の遮断、マクロセル腐食電流の抑制による再劣化防止という観点からは結果を出しており(例えば土木学会第66回年次講演会、V-241『施工後5 年を経過した遮蔽型マクロセル腐食対策の効果』など)、各種断面修復の工法として採用されている。
 ただしその施工区間は線形がバチ形状で2車線が確保できるP25~P29上り線間に限られており、そのほかの区間は、部分的な増厚やグレード1の床版防水工もしくは防水工未設置の状態であった。劣化部では配力筋位置、ならびに主筋位置で基準値の約2倍の塩分量(最大5.34kg/㎥)が存在することが確認された。また、P25~P29を含む、いずれの調査個所においても主版下面から深度が深くなる方向へ向けて塩分量が増える分布傾向を示しており、中性化に伴う塩分濃縮現象の把握並びに疲労ひび割れ部への水の供給が劣化側を速めていることが実橋で確認できた。
損傷メカニズム


損傷状況(NEXCO西日本、オリエンタル白石・IHIインフラ建設提供、以下注釈なきは同)

 コンクリート圧縮強度は24N/mm3であり、それは維持できているが、床版がたわみを繰り返していることによりポーラス気味になっている。また、増厚部は界面の骨材間で大きく水平ひび割れが生じている。当時は現在のように界面をWJで斫ったり、ショットブラストで研掃したりして平滑化しておらず、ポットホール対策として切削オーバーレイを施すことで、被りコンクリートを破壊してしまっていることが考えられた。また、鉄筋も裏まで斫ることや、防錆処理が不完全なまま断面修復もしくは上面増厚している箇所も散見されている。さらにはチッパーで斫っているため、マイクロクラックが生じるなど、マクロセル腐食の発生も含め界面での再劣化が非常に目立つ状態となっている。まさに「再劣化すべくして劣化した」(同社)状態といえる。
 そうしたことから抜本的対策として中空床版桁および鋼鈑桁RC床版の取替を行うことにした。
 架替え以外の方策としては、電気防食も検討した。しかし疲労ひび割れによって生じた漏水部は、電流分布を不均一とさせ、電流密度が偏り、部分的劣化が進行する可能性がある。また過年度の断面修復、表面被覆も同様に電流密度の偏り並びに断面修復などを取り除く作業が必要となってしまうと判断した。

上下線を3分割施工して桁取替 ハイブリッドスリムガード工法を採用
 各種センサと連動したLED版を配置 矢印版を自動化

施工範囲の選択
 今回の施工範囲は、冒頭に示した通りP5~P10間85mのRC中空床版橋をプレキャストPCT桁に架替えるものだ。最初は中央分離帯側の幅員7.3m部分を撤去、新しい桁に架設する。P5~P10を最初の施工範囲として選んだのは、「確実に上下線の施工が可能」(オリエンタル白石・IHIインフラ建設JV(以降「JV」))と踏んだためだ。架橋位置は住宅が近接している(写真)。周囲には河川もあれば電柱もあり、側道もある、地元の静かな環境にも留意しなければいけない。交通規制可能な区間は7カ月間。「真ん中に手を付けるテンポラリーな状態になるため、構造は上下線がきちんと完成して初めて、成り立つ。途中でやめるというわけにはいかない」(JV)。たまたま今回、上り線側のP8~P10の間に関西電力の敷地もあり、そこを借地することで大型の鉄骨部材を搬入するトラックなどが、側道から直接入るのではなく、ワンクッションおいて、高架下に進入できる環境も整っていた。そのため「この区間を選んだ」(JV)。

上部工架替え施工ステップ図(松島高架橋P5~P10)(クリックすると拡大します、以下同)


架橋位置は住宅が近接している(井手迫瑞樹撮影)

 さらに「広報期間が限られており、こうした狭小スペースの中で施工するのは初めてなので、資機材管理や場内管理も踏まえて、全体的な工程管理を考慮すると、確実に七カ月間で施工できるのは中央部のみの85mが限界であろうと判断した」(NEXCO西日本)。

 さて、阪和道は観光特性が非常に分かりやすい道路であり、年間通じて均すと3万2千台であるが、混雑時期である5~8月は1日6万台の交通量(2016~17年度)となる。大型車混入率は年平均で14%ぐらいであるが、平日は17%、休日は7%程度となっている。そのため高速道路や迂回一般道路の渋滞など社会的な影響を最小限にする必要があった。そのため、施工方法は既出のように上下総幅員を3分割施工とした。
 現状の幅員では、主版架替えに必要な施工帯の確保が困難だった。そのため5月31日~7月17日の間に事前工事として地覆を撤去し、有効幅員を広げた上で車線幅員を3.5mから3mに減少運用することや路肩減少を採用し、既設構造物の拡幅を行わず、上下線で現状と同じく4車線を確保し、その狭隘工事スペースで主版を架け替えることにした。

 

 また、期間中は交通動向に基づく交通マネジメントが重要となる。交通機能として、安全性・円滑性の確保のための現場作業省力化や、警備員不足が深刻化している現場での省人化、安全性確保の様々な工夫を本現場では施している。
 その一つが、新たな仮設防護柵(ハイブリッドスリムガード)の採用である。
 同防護柵、上部がRC構造、基部が鋳造製の構造を有している。1基あたりの全体重量は2.8tであるが、鋳造部のみで2tの重さを有しており、設置幅は350mmしかないにもかかわらず、SB種に対応できている(長さ1.8m、高さは0.9m)。同製品はある程度の曲線にも対応できる。「この350mmという幅が重要で、これにより構造物をいじめることなく4車線を交通規制区間も4車線を維持できた」(JV)。

ハイブリッドスリムガード構造図



ハイブリッドスリムガード配置状況(井手迫瑞樹撮影)

ハイブリッドスリムガード左右接続部/幅は350mmと非常に小さい(井手迫瑞樹撮影)

 上段は国内で生産できるので入手は容易であるが、下段の鋳造品は国内で生産できる工場がないため、全て中国で作って輸入している。

 さて、同製品は、今回の工事で中間部に710基と端部に24基を配置している。接合部に両側10mmの隙間を持っているので、「平面線形はR=20m、縦断勾配は±2%まで対応可能」(JV)。
 鋳造部とRC部はM24およびM30のハイテンボルトで繋げている。採用はNEXCO西日本では今回が初めて(NEXCO中日本の中央道多摩川橋で先行使用している)ということだ。同製品は、NEXCOとオリエンタル白石とケイコンで共同特許を出願中だ。

 2つ目が、変則的な交通規制形態の運用のための技術導入である。
 現場は休日・祝日と平日で交通量が大きく異なるため、それに対応する交通規制を行っている。大きく分けると、前者は完全に2車線供用を維持し、後者は基本的に1車線供用を行い施工ヤードを広く取り、渋滞が起きそうになる、あるいは事故が生じた時には、速やかに2車線供用に戻すというものである。

幅員減少2車線規制期間中の交通規制形態の運用/各種防護柵や安全設備の設置状況

 まず、幅員減少2車線規制のために規制開始区間の手前2kmから〇㎞先工事中、速度制限50㎞などの規制標識を9か所に立てている、そのうち2ヶ所が遠隔操作により標識を反転表示できるものとなっており、1車線⇔2車線への車線変更を知らせることができるようになっている。また、マイクロ波センサや赤外線センサと連動した大型LED情報板と小型LED情報板が交通状況を感知して通行車両へ渋滞情報や注意喚起を促す。


工事予告標識の自動化
 その上で、工事区間の規制帯配置も工夫している。一般的な上下線両追越車線規制の場合、工事規制帯形状は上下線の先端テーパー開始点と後方テーパー終点が同位置となりひし形形状(交点が鋭角)となるが、上下線のテーパー交点を200mほどずらしていることが特徴だ。後述する自動規制テーパー先端矢印板の開始点を50m囲むような形で配置している(上図)。その狙いはどこにあるのか。
 「一般的なひし形形状ではテーパー先端で車が接触し、矢印板などの規制材が損傷した際に復旧する作業や、その後の事故対策などで迅速な対応が困難であり危険も多かった。しかし、テーパー交点位置をずらし、テーパー先端を50mほど囲む形状にすることによって、上流側の交通流状況を目視確認がしやすくなり、事故を処理する際の車両の入退出も容易になるようにした」(JV)。

 さらに、工事規制帯のテーパー先端に配置する矢印板を自動化した。施工の際、とりわけ主桁の撤去や架設などクレーンによる揚重作業を伴う場合は、旋回時の万が一のはみだしにも対応できるようフェールセーフのために車線規制をしたい。しかし従来はこの矢印板を設置あるいは撤去し、かつその背後にラバーコーンを配置または撤去する場合、多くの交通警備員と時間(1.5~2時間ほど)を必要とした。これを自動化したもの。矢印板の上げ下げのタイミングは規制帯の先端にJVの職員が立ち、上流側の交通流状況を目視にて判断し、現場に配置された操作盤により操作する。この操作に限ってはPCやスマートフォンでの遠隔操作も可能であるが、誤作動により走行車両への接触などが考えられるため、現地で操作することとした。設置延長200mを8.5秒で上げ下げでき、その後のラバーコーンの配置や撤去も15~20分程度で行えるため、安全性の向上と省力化を大きく改善している。


自動矢印板(写真は井手迫瑞樹撮影)

上下5kmの工事規制区間内に22台のCCTVカメラを配置
  LED懸垂板をNEXCO関係の工事で初採用 風速50mに耐えられる設計

現場監視システム
 現場監視は、ビックパッド3台を並べた現場監視室に常時1名以上を配置して24時間の監視体制を布いている。その「眼」としては、和歌山ICを中心とした上下5kmの工事規制区間内に22台のCCTVカメラを配置した。また、泉佐野JCTまたは紀の川IC~吉備湯浅PAの間(延長約40km)に大型LED情報板15基と小型LED情報版板24基、LED懸垂板2基を配置し、交通状況の変化に応じて現場監視室からメッセージを変えることで、交通規制形態や渋滞情報を遅滞なくドライバーに伝えている。特に実際に工事を行っている和歌山IC付近は大型、小型のLED情報板を約200mピッチで配置した。

 大型LED情報板はセフテック製で、実績を多く有する。200イベントの固定メッセージとフリーワードを示すことが可能。小型LED情報板は西日本高速道路エンジニアリング中国製を改良したものを使っており、120イベントの固定メッセージを示すことができる。大型LED情報板はマイクロセンサ波(1~300km/hまでの速度平均を測定できる物体追跡レーダー)と連動している。渋滞を惹起する閾値として50km/hが5分間平均で続くこととしており、それが生じれば、最大7台が連動して注意喚起のメッセージを表示させる。連動方式にすることで、現場監視室の負担も大きく減らすことができる。



大型LED板(井手迫瑞樹撮影)/小型LED板

 小型のLED版は赤外線サーマルカメラ(遠赤外線の温度差1~180km/hまでの速度測定が可能)と連動している。この連動システムは、サーマルカメラは株式会社トリオン、モバイル通信は仙台銘板など各社の技術を組み合わせて作った。同システム共に走行車両の平均時速や走行車両台数を検測し、データ化できるシステムとなっている。

 LED懸垂板(名古屋電気工業製)はNEXCO関係の工事で初採用したもの。本工事のような工事では通常、路側に設置してある懸垂幕施設(支柱)に懸垂幕を設置するが、台風接近などの状況になると懸垂幕の撤去・再設置を求められる。LED懸垂板のサイズは幅1,640mm×高さ6060mmであり走行車両からの視認性も高い、10年以上設置し続けることも鑑みて、風速50mにも耐えられるような設計となっている。100イベントの固定メッセージが表示可能でブリンク機能も有しており、モバイル通信による遠隔操作で表示切替ができる。

LED懸垂板

 「本現場のような一般交通を供用しながら工事を行う現場では、工事そのものと同等レベルに、事前の土俵づくりとしての交通規制計画が大事である。今までの知見を活かしつつ、最新技術を導入して、なおかつ関係先や高速機動隊などともコミュニケーションを取りながら施工していくことが要求される」(JV)

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